繋がりがあるようです
とりあえず、思った事を聞いてみる。
「ヴィリアさん」
「なんだい?」
「ユルドさんに任せて本当に大丈夫なんですか?」
「エルフの問題はエルフに解決してもらうのが一番、というよりは、下手に突っつくと種族間の問題になりかねないから、同種族にやってもらうだけさ」
「なるほど。……そういう気遣いもできるんですね」
「叩かれたいのかい? ただ、面倒なだけさ」
そう言って、ヴィリアさんは立ち上がって朝食の準備を始める。
手持ち無沙汰な俺は、食器出しなどを手伝った。
エルフの方に行っても仕方ないしね。
―――
ユルドさんが戻ってきたのは、朝食後。
食器を片付け、ヴィリアさんと一緒に食後のお茶を飲んでいる時。
「話をつけてきたよ」
「どうなったんだい?」
「その前に、私にもお茶の一杯くらいは欲しいな」
「はいはい」
ユルドさんは対面のソファーに座り、ヴィリアさんの淹れたお茶を一口。
俺は、ヴィリアさんの隣に座る。
「……うん。腕が落ちていないようで何より」
「そんな世辞は別にいいよ」
「世辞ではないけど……まあ、引き伸ばしても仕方ないし、結論から言えば、外で反省させているエルフたちは、ハクウくん、キミの下につける」
「………………はい? 俺の下につく?」
意味がわからない。
何がどうなってそうなるのか、さっぱりだ。
「どういう事だい?」
ヴィリアさんはわからなかったのか、ユルドさんに尋ねる。
「理由は二つ。まず、最大の理由として、世界樹がご立腹なんだ。ヴィリアとハクウくんを傷付けようとしたのが許せないらしく、意地でも実は付けないと言われたよ」
へぇ~、世界樹が……え?
ますます意味がわからない。
世界樹がご立腹とか、実は付けないとか、どういう事?
頭を傾げると、尋ねる前にヴィリアさんが説明してくれた。
「エルフが木や森と親和性が高いと教えただろ。エルフが木と会話できるのは、親和性が高い故の能力みたいなモノだ。といっても、今のところは一部だけ。相当な力の持ち主でないと駄目で、ユルドはその一人」
「といっても、全部の木と話せる訳じゃないよ。木の方にも格があって、特別や特殊な木、あるいは樹齢数百年とかの古樹でないと、ハッキリとした意識がないから話せないけどね」
ユルドさんがそう補足してくれる。
なるほど。さすが異世界。
すごい種族がいたもんだ。
「でも、どうしてヴィリアさんと俺が襲われた事に世界樹が?」
そこも疑問。
「それなんだけどね、世界樹の種に魔力を注いだのは、ヴィリアとハクウくんの二人だけだよね?」
「ああ、そうだよ」
「はい。初めての共同作業です」
ヴィリアさんにしばかれた、
「ハクウくんは面白いね。……で、どうやら魔力を注いだ二人の事を、世界樹は親のように感じているみたいだよ。二人も何か感じない? 何かしらの繋がりとか?」
「そう言われると……」
「なんとなく機微が伝わってくるような……」
魔力水をあげると喜ぶんだよね、世界樹。
それがなんとなくわかる程度だけど。
「なんとなくでも伝わっているなら、立派な繋がりだよ」
そうなんだ。
なら、見方を変えれば、世界樹はヴィリアさんと俺の子供と言えなくもない。
世界樹がものすごく可愛く見えてきた。
二人で頑張って育てましょうね。
「……何故か悪寒が」
ヴィリアさんがブルブルっと小さく震えていた。
大丈夫かな?
「それで、二人も普段はやる事はあるだろうし、世界樹の細かい世話はエルフたちに任せていいから。世界樹に許してもらわないといけないし、二人に対する謝罪の意味もあるから。ハクウくんの命令は絶対、と私が念押ししておいたから、好きにこき使ってくれて構わない。さすがに夜伽とかは、本人の了承をもらって欲しいけどね」
「いえ、夜伽とか大丈夫です」
「そう? でも、エルフという事もあって、彼女たちはそれなりに美人だと思うけど?」
「彼女たち?」
「うん。彼女たち」
ヴィリアさん、ユルドさんと共に家を出る。
エルフたちは変わらず拘束されたままだった。
ヴィリアさんがユルドさんに大丈夫かどうか目線で確認して、拘束を解く。
すると、エルフたちは即座に整列。
『私たちの忠誠はハクウさまに』
で、大丈夫なんですよね? とエルフたちは視線でユルドさんに確認していた。
ユルドさんに対して恐怖しているように見えなくもない。
それで合っている、とユルドさんが頷くと、エルフたちは露骨に安堵の息を吐く。
朝食を食べていた間に一体何があったんだろう。
「ハクウくんに顔を見せてあげて」
『はっ!』
エルフたちが黒の頭巾を取る。
確かに、全員女性で、見目麗しかった。
でも……。
俺は無言でヴィリアさんの手首を掴み、持ち上げる。
「……ふん」
ヴィリアさんがエルフたちに向けて勝ち誇った笑みを浮かべ、エルフたちはどことなく悔しそう。
ユルドさんは大笑いしていた。
「それでユルドさん。もう一つの理由は?」
ユルドさんは大笑いを静めてから答える。
「エルフたちをヴィリアの下につけようとすると嫌がるから。だから、ハクウくんにしたんだよ」
「妥当な判断だね」
ヴィリアさんは満足げに頷く。
……なんだろう。
なんか面倒なのを押し付けられた感じがする。