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人に歴史ありです

 夜中に襲撃してきたのは、エルフだとヴィリアさんが言う。

 でも、全身黒ずくめな上に、今は夜中。


 確認するのが難しい。

 特徴的な長い耳は見えるので、エルフだというのに疑いはないけど。


 ただ、現状に関しては、ヴィリアさんがあっという間に解決した。

 戦いなんて何も起こらなかった。


 そんな感じ。

 実際、戦いは起こっていない。


 黒ずくめの恰好で武装したエルフ八人に対してヴィリアさんがごにょごにょっと唱えると、エルフ八人それぞれの足元に魔法陣が現れ、そこから光る帯がいくつも飛び出して一気に拘束した。


 エルフ八人は抜け出そうと身じろぐが、拘束を解く事はできないようだ。


「よし。今はこれでいい。あとは明日、というか寝て起きてからだ」


 ヴィリアさんはそう言って、家の中に入っていこうとする。

 エルフ八人が文句というか騒ぎ出すが、ヴィリアさんは特に気にしていない模様。


 この状態で寝れるとか……すごいな。

 見習いたい。


 それに、相手を拘束する魔法とか、便利じゃない?


「あっ、あんたにこの魔法は教えないからね」


 ヴィリアさんが家に入ったところで、そう言ってきた。


「え? なんでですか?」


「あんたの魔力でこれを使うと、拘束の力が強くなり過ぎて、そのまま……となる可能性があるからね」


 否定はできなかったので、わかりましたと頷く。


「それじゃ、さっさと寝るよ」


「あの拘束が解かれるとかは?」


「あたしを誰だと思ってんだい!」


 そう言って、ヴィリアさんは家の奥へ、自室に戻っていった。

 誰だと言われても、そんなの「女賢者エロい」ですよね。知ってます。


 とりあえず、大丈夫だろうと、俺も寝る事にした。


     ―――


 朝。

 起きて外に出ると、エルフたちはまだ光の帯に捕まっていた。


 一晩中どうにかしようとしていたのか、疲労しているのが目に見えてわかる。

 ご苦労様です。


 そんなエルフたちの前に、家の中から持ち出された椅子が一脚置かれていて、ヴィリアさんが鎮座していた。


 愉快そうな笑みと共に。


「漸く起きたのかい?」


「はい。起きましたけど、漸く? ヴィリアさんはもっと早くに?」


「ああ、かれこれ三十分くらい、こうして頑張って抜け出そうとしている様を見ている」


 ヴィリアさんは楽しそうだ。

 俺を縛って抜け出す様を見てくれてもいいんですよ。


 ……朝から考える事じゃないな。


「ヴィリアだと!」


 エルフの一人がそう叫ぶ。

 多分、俺を襲ったエルフだと思う。


 みんな黒ずくめだからわかりづらいけど。

 改めて陽の光の下で見ると、その恰好は滑稽としか言えない。


「なんか、ヴィリアさんの事を知っているみたいですね」


「まあ、あたしは有名だからね」


 ヴィリアさんは自慢げだ。

 やはり、賢者だから有名なんだろうか。


「幼少期、スライムを殺戮し過ぎて付いたあだ名が『スライム殺戮者』! 略して『スラ殺』のヴィリアか!」


「少女期、敵対した小国を一晩で崩壊させて一列に並ばせた王族をフルボッコにした、『王ボコ』のヴィリアか!」


「大人期、闇ギルドの連中を根絶するために大魔法を唱えて街の一部の形を変えた事から、『天災』と呼ばれるようになったヴィリアか!」


「つい最近も」


「黙りな!」


 即座に椅子から立ってエルフたちの口を物理的に封じていくヴィリアさん。

 具体的には、一発ずつ殴って黙らせた。


 それにしても、ヴィリアさんは随分とお転婆だったようだ。

 もっと聞きたい。


「あんたも嬉しそうに聞くんじゃないよ!」


 俺も怒られた。

 どうやら表情に出ていたようだ。


「失礼しました。……そうだぞ。いくら知っているとはいえ、他人の情報を開示するのはよくない」


 俺もエルフたちに注意をしておく。


「でも、ヴィリアさんと俺の仲はもう夫婦みたいなモノだから、色々と教えてくれても」


「誰と誰が夫婦だい! 誰と誰が!」


 ヴィリアさんに殴られる。

 痛くないけど。


 それに、ヴィリアさんの頬がなんとなく赤みが差しているように見えなくもない。

 照れ隠しかな?


「余計な事を言うんじゃないよ」


「はい。わかりました」


 これ以上怒らせるのは得策ではないと判断して、大人しくする事にする。

 そして、ヴィリアさんは再度に椅子に座って、自分の方が立場が上だと示すように足を組む。


 ……前に回りますから、足組み替えてくれませんか?

 挑発しながらだと、なおいいです。


 少しだけヴィリアさんが身震いしたように見えたが、それは一瞬の事。

 ヴィリアさんはそのままエルフたちに声をかける。


「それで、わざわざこんな場所に来て、昨夜襲撃した理由を教えてもらおうかい」


『………………』


 エルフたちは、誰も口を開かない。


「あたしの事を知っていて、その態度はいただけないね。もう少し強めにいくかい?」


 ヴィリアさんが、エルフたちに見えるように拳を握る。

 エルフたちは目に見えてガタガタと震え出した。


 それでも、エルフたちが喋ろうとする気配はない。


「強情だね。まっ、あたしとしては、どっちでもいいけどね。狙いがなんなのかは知っているし」


「知っているんですか?」


「ああ。世界樹、それと、世界樹の実さ」


 ヴィリアさんの指摘に、エルフたちは目に見えて驚いていた。


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