こちらも違うようです
世界樹が満足したように見えたので、ヴィリアさんの家に戻ってから、更なる説明を受ける。
出会った時のように、リビングで対面して、だ。
こうして対面すると、今も目を閉じれば、あの時の光景が思い出される。
記憶に刻まれていると言ってもいい。
血塗れ? 違う違う。バスローブ姿の方だ。
想像の中だけで、何度も足を組み替えてもらう。
………………。
………………。
「なんか変な事を考えてないかい?」
「いえ、そのような事は」
「怪しいねぇ……あんたをここに置いてから、あたしは妙な寒気を感じる事が何度もあったんだけど?」
「ヴィリアさんが何かを感じて、その元が俺だというのなら……俺たち、通じ合っているって事ですね」
ニッコリと笑みを浮かべる。
「どうして悪寒の話からそうなるのか……」
頭が痛い、とでもいうように、額に手をやるヴィリアさん。
頭痛薬とかないのかな?
「まあ、いい。これまでの生活でわかっていると思うが、あたしに何かしたら蒸殺するからね」
「……そのフレーズ、何度か聞いた憶えがあるんですけど、『じょうさつ』てなんですか?」
「『蒸発するように殺す』。略して『蒸発』だよ」
蒸発の蒸か。
なんとなく恐ろしい感じがする。
「わかりました。もちろん、ヴィリアさんが望まない事はしません。やっぱり、同意の上じゃないと」
「なんか話がかみ合っていないような気がするんだが……まあいい。それで、『マジック』と名の付く果物類、それと野菜類を持っているってのは本当かい?」
「はい」
見せた方が早いだろうと、テーブルの上に一個ずつ置いていく。
マジックリンゴ、マジックミカン、マジックモモ、マジックホウレンソウ、マジックゴボウなどなど。
「……あたしの鑑定でも、間違いはないか。……まったく、持っているのなら、もう少し詳しく聞いておけばよかったね」
やれやれ、と肩をすくめるヴィリアさん。
「どういう事ですか? 何か珍しいモノなんですか?」
「そうだね。……あんたが持っている『魔力水』レベルとなると、ルデア川の中流、上流でないと取れない。それは下流だと、もう含まれている魔力が霧散して、ほぼ普通の水と変わらなくなっているからだ。それと似たようなモノさ」
ヴィリアさんがテーブルの上に置かれている「マジック」シリーズを指差しながら言う。
「『マジック』と名の付く食材は不滅の森でしか取れず、しかも中層、深層の破滅の山寄りの場所じゃないと駄目だ。要は、それぐらい濃密な魔力がないと収穫できない食材なんだよ」
「それって、つまり……高級食材って事ですか?」
「そうだね。偶に専門の冒険者が収穫しに来る程度だから滅多に出回らず、王族でもそう簡単に口にできないレベルの最上級食材」
「そこだけ聞くと、相当高そうですね」
「まあ、輸送費やらなんやらで、売りに出される頃には金貨だな。しかも、多少なりとも劣化したのが。今まさに収穫したような鮮度だと、どうなる事やら。過去、『マジック』シリーズの食材で身を崩した王族、なんてのも居たと聞くしな」
わあ、怖い。
何が怖いって、そんな食材を、金さえあれば俺はいくらでも複製できるって事だ。
しかも、最安値で。
「……俺のスキル、超危険。下手をすれば、戦争レベル?」
「漸くわかったか。自覚できただけマシだ。だがまあ、さすがに『マジック』シリーズは過剰だが、『魔力水』に関しては世界樹のために与え続けて欲しい。複製が必要なら、あたしが金を用意する」
「わかりました。よろしくお願いします」
本当は川の中流まで普通に収納しに行けたらいいんだけど、その分危険だと言われるとね。
よくそんなところを無事に抜けて、ここまで来れたもんだ。
「あっ、そういえば金で思い出した。世界樹の種とかあんたのスキルの事ですっかり忘れていたよ」
そう言って、ヴィリアさんが空中で手を動かすと、反対側の手のひらに小さな袋が現れる。
どうやら、自身のアイテムボックスをいじっていたようだ。
「約束だからね。世界樹の種で手伝ってもらったというか、一気に発芽までもっていってもらったし、色々と色を付けておいたよ。余剰分は好きに使いな」
小さな袋を手渡される。
中を確認。
……眩しかった。
金貨の輝きで目が潰れるかと思った。
「中に金貨二十枚ある。好きに使いな」
「いいんですか? 結構な額だと思うんですけど?」
驚きでそう尋ねると、ヴィリアさんは余裕のある笑みを浮かべる。
「はっ! お世話になっているあんたが心配するような事じゃないよ。これでもそれなりに稼いでいるから、素直に受け取りな」
お、おお。
「ありがとうございます!」
やっぱり、ヴィリアさんのヒモになりたい。
ただ、やっぱりというべきか、半分は消えてしまうのだが。
あとで、だと決心が鈍りそうなので、早速投入する。
『 図鑑ボックス(正規版)
開発資金 金貨 0/10 』
↓
『 図鑑ボックス(正規版)
開発資金 金貨 10/10 』
早速、新しいお知らせが届く。
『 図鑑ボックス(正規版)完成のお知らせ
皆さまからの援助によって正規版が完成しました。ありがとうございます。バグチェックを行い、問題なければそのまま配信となりますが、今回は正規版のため、配信予定は一週間ほどあとですので、もう少々お待ちください』
ちょっと時間がかかるようだ。