植えました
「それで、ヴィリアさん。その世界樹の種は普通に植えればいいんですか?」
「あたしの鑑定だとどこにでも根付くとあるが、あんたのでもそうか確認してくれるかい?」
ヴィリアさんの頼みとあれば。
鑑定。
『 世界樹の種(発芽準備完了)
樹木系最上位種・世界樹の種。
山よりも高く成長する可能性を秘めていて、発芽の準備は終わっている。
ただし、育つには豊富な魔力を含んだ土に水が必要なので、周辺環境が大事という、ある意味でとても贅沢な木。
どこに植えても根付くが、周辺環境によっては植えた瞬間から相当大きくなるので、ある程度の範囲を確保しておく方がいいかも。
不滅の森なら尚更。
複製金額 金貨 7枚 』
図鑑を確認すると、こちらで更新されていた。
本当に、より良い状態で登録されるようだ。
あと多分だけど、これ、いきなりおっきくなるから気を付けて、と注意されているよね?
だって、わざわざ不滅の森ならって出てるし。
それと、複製金額が上がってる。
もう俺には払えない。
というか、図鑑に入っている分を除けば、まさしく無一文だ。
支度金って……なんだっけ?
まあ、今のところはヴィリアさんのヒモみたいなモノだから問題ないけど。
寧ろ満足してます。
「どうだ?」
ヴィリアさんは鑑定文が気になるようで、そのまま伝える。
「……と出てますので、どこでも根付くそうですけど、ここだと周辺に気を付けないといけないみたいです」
「なるほど。魔力が豊富な不滅の森なら、成長していずれ山よりも高くなる可能性は大いにある。場所の確保は必須。それで合点がいった」
ヴィリアさんが何やら納得している。
「どういう事ですか? 何か思い当たる事でも?」
「付いてきな」
「わかりました。一生付いていきます」
ヴィリアさんに叩かれて案内されたのは、家を出て、裏に回って直ぐのところ。
空地のようにそこだけ木々がない空間があった。
ちょっとした平原のように見えなくもない。
「ここは?」
「あたしが神の声を聞いて、世界樹の種を託されたと話したね」
「はい」
「そこで同時に、この場所を示唆されたのさ。不滅の森の南西部に向かいなさい。行けば場所はわかる。とね。魔力が豊富な環境である不滅の森なら、世界樹が巨樹になるのは誰にでもわかる。ここは、そのための場所だと確信したよ」
なるほど。
確かに言われてみれば、森の中にこんな何もない空間があるなんて変だ。
世界樹のために予め用意された場所って事か。
……なんだろう。この先を見越した手際の良さ。
俺もその神様に担当して欲しかった。
でも、やらか神がやらかしたからこそ、俺はヴィリアさんに出会えたし、世界樹もこうして植える事ができた訳か。
………………まさか、ここまで計算した訳じゃないよね?
やらかされていな……いや、それはありえないか。
あの「あっ」は、間違いなく何かやらかした時の「あっ」だ。
危ない危ない。危うく、見直したり、感謝するところだった。
「それじゃ、ここに植えると確信したら、その近くに住まいを用意したって事ですか?」
「当たり前だろ。植えて終わりじゃない。あたしは育樹を頼まれたんだ。住まいを近くにした方が何かと便利だろ」
「それは間違いないですね。……ところで、今更な質問をしてもいいですか?」
「なんだい?」
「なんのために世界樹なんて呼ばれる樹を植えるんですか?」
「世界を安定させるために必要、と言っていたね」
……あれかな?
俺がやらか神から聞いた、邪神の力の残滓関連の話かな?
なんかそんな気がする。
となると、俺もその解決方法の一つだから……世界樹だけじゃなく、他にも色々な方法が試されて進んでいるのかもしれない。
まっ、そこら辺の話に興味はないけど。
「世界のために重要って事ですね。じゃ、早速植えますか。どこでも大丈夫みたいな事が表示されていましたけど……やっぱり、この空間の中心ですかね?」
「まっ、そこが無難だろうね」
ヴィリアさんと共に中心付近に向かう。
中心付近で地面を手で掘り、ヴィリアさんがそこに世界樹の種を埋め、上から周囲の土を被せて小さな山を作った。
瞬間、小さな地震が起こる。
「……少し離れた方が良さそうだね」
「……です、ね」
世界樹の種を植えた場所から少し離れた。
その間も地震は少しずつ大きくなっていき、植えた場所から小さな芽が出たかと思うと、何百倍速の早送りを見るかのように一気に成長していき、あっという間に立派な樹となったところで成長がとまる。
その大きさは、既に周囲の木々よりも高い。
気が付けば、地震も既にとまっていた。
「……すごいのを見た気がします」
「……そうだね。あたしもこんな直ぐに成長するモノを見たのは初めてだね。それにしても、これが……世界樹、か」
ヴィリアさんが世界樹を見て少し圧倒されている。
でも、その気持ちは少しわかる。
俺も、なんというか、見ているだけで生命の息吹というか、力強さみたいなのを感じていた。