桁違いでした
世界樹の種が爆散した。
「………………」
「………………」
俺もヴィリアさんも、何も発しない。
ただ、非常に不味い事態だという事はわかる。
このままでは本当に不味い。
ここから追い出されるかもしれない。嫌われるかもしれない。
何か、何か打開策を……と脳がすごい勢いで働き出し……導き出されたままの行動を取る。
この間、爆散から0.1秒――。
スキルの図鑑を開き、「特殊」項目に世界樹の種を確認。
『 世界樹の種(発芽前)
複製金額 金貨 4枚 』
ぶっ! 金貨4枚!
急に高くない? 種だよね、これ。
それだけ、この種、世界樹ってのが重要だって事かな?
けど、迷っている瞬間はない。
今は複製できる金額でよかったと思っておこう。
一回こっきりだけど。
アイテムボックスから金貨4枚を取り出し、即座に図鑑に投入。
世界樹の種を複製して、アイテムボックスから出して手元へ。
これで本当に無一文だな。
「………………ふぅ。じゃ、魔力を注ぎますね」
「何事もなかったかのように振る舞うんじゃないよ!」
ヴィリアさんは俺を叩き、世界樹の種を取っていった。
別に痛くはなかったのだが、やはり誤魔化す事はできなかったらしい。
「何をしたんだい?」
「複製しました」
「……確か、図鑑に登録されていれば複製できる、だったね?」
「はい。今のところ、魔物以外は、ですけど」
「で、種が爆散したから、複製したと?」
「はい。金貨4枚と、かなりの高額でしたけど、どうにか支度金から捻出できました」
正直に答えると、ヴィリアさんは頭を抱えた。
頭痛かな? 大丈夫かな?
「複製したって事は、また一からなのかい?」
「いや、今だと初回登録時の状態だから……」
念のため、鑑定で確認。
『 世界樹の種(発芽前)
発芽まで、あと 754820 の魔力が必要。 』
うん。変わってない。
「最初に見せてくれた状態です」
「そっか。まあ、あたしのこれまでの努力が無駄になってないってんなら、それでいいよ。それで、爆散した理由はわかるのかい?」
「それはさっぱり。ヴィリアさんは?」
「わかっているなら聞いてないよ」
「ですよね」
どうしたものか。
理由がさっぱりわからない。
……実は魔力が流れていなかったから、とか?
でも、流れなかったとして、それだと爆散した意味がわからない。
「とりあえず、もう一度試してみてもいいですか? きちんと魔力を流す事ができるかどうかも確認したいですし。でないと、手伝いができません」
「まあ、それはそうだが……また爆散したら?」
「今度は鑑定を常にかけ続けた状態でやります。そうすれば、異変があった時がわかりますし、原因も判明するかもしれませんから」
「詳しい鑑定結果が出るからこそ、か。……わかった。まあ、いいだろう。不安要素があるまま育樹するのもね」
ヴィリアさんが、俺に再び世界樹の種を渡してくれる。
「ありがとうございます。ただ、その……もしまた爆散した場合、もう俺に世界樹の種を複製できるだけのへそくりがですね……」
「気にしなくていいよ。上手くいったなら、必要な金は払う」
白金貨を持っていたくらいだし、きっと蓄えがものすごくあるのかもしれない。
確かに失敗を気にしなくてもいいだろうけど、失敗しないに越した事はない。
真剣にやらないと。
鑑定をかけながら、世界樹の種に魔力を注いでみる。
まずはゆっくりと――。
『 世界樹の種(発芽前)
発芽まで、あと 754820 の魔力が必要。 』
↓
『 世界樹の種(発芽前)
発芽まで、あち 744820 の魔力が必要。 』
特に変わった様子は見えない。
一応、俺的魔力数値「1」を流してみたのだが、特に減っていな……ん? あれ?
……万の数値が減っている。
試しにもう一度、同じように俺的魔力数値「1」を流してみる。
『 世界樹の種(発芽前)
発芽まで、あと 744820 の魔力が必要。 』
↓
『 世界樹の種(発芽前)
発芽まで、あと 734820 の魔力が必要。 』
………………。
………………。
やっぱり、一万減ってる。
……どういう事? これ。
単純に考えれば、俺的魔力数値「1」は「10000」て事になる。
……意味がわからない。
考えても答えが出ないので、ヴィリアさんに起こった事を話す。
「とうとうイカれちまったのかい?」
それは酷い。
「いや、すまない。ちょっとあたしには理解できない話になって……もうあんたに対して深く考えない方がいいかと思ってね」
「見捨てないでください!」
泣いて縋った方がいいだろうか?
そう思っていると、ヴィリアさんは少し考えたあとに口を開く。
「少し試してみたい事があるから、そのまま鑑定し続けな」
言われた通りに鑑定を継続していると、ヴィリアさんが世界樹の種に触れる。
『 世界樹の種(発芽前)
発芽まで、あと 734820 の魔力が必要。 』
↓
『 世界樹の種(発芽前)
発芽まで、あと 734819 の魔力が必要。 』
「1」減った。
「どうだい? あんた風に言えば、魔力値「1」だけ送ったが?」
「確かに、『1』減りました」
「なら、あんたにとって魔力量「1」は、あたしたち、この世界の者にとっては魔力量「10000」の可能性が高いね」
そう言うヴィリアさんは、可能性が高いと言いつつ、そうだと確信しているように見える。
それは……桁違い過ぎないだろうか?