注ぎ込んでみました
世界樹の種に魔力を注ぐのを手伝えば、お金がもらえるというのはわかった。
そもそもヴィリアさんからの要望を断る気は一切ない。
でも、一つの大きな問題がある。
……魔力を注ぐ、てどうやるの?
わからないなら聞けばいい。
聞いて知る事は恥じゃない。
「という訳で、手伝うのは一向に構わないんですが、魔力を注ぐってのがよくわかりません。そもそも、俺に魔力ってあるんですか?」
そこら辺もわからないんだよね。
一応、鑑定では「それなりにある」だけど。
「なるほどね。そういえばそうだね。本来なら親から魔力に関して少しは教わるもんだが、それがなかったんだから、知らなくても当然か。もちろん、魔法も」
「使えません」
「鑑定で表記されるMP数値は?」
「『それなりにある』です」
「………………」
「………………」
「はあ?」
ヴィリアさんの眉間に皺が寄って、訝しげな表情となる。
あれ? なんか変な事を言ったかな?
ありのままを……待てよ。
今さっき、ヴィリアさんはMP「数値」と言った。
「……つまり、本来そこに表記されるのは、数値って事ですか?」
「そうだよ。……まったく、規格外の存在だね、あんたは」
「いやぁ~」
「褒めてないよ。まあ、あたしレベルなら他人の魔力をある程度推し量る事ができるから、問題ないといえば問題はないが……」
そう言って、ヴィリアさんがジッと俺を見る。
はっ! キスの催促ですか?
ど、どどど、どうしよう。
そんな急に求められても心の準備ができていない。
ヴィリアさんが、こんな急展開を求めるようなテクニックを使用するなんて。
俺は見事にその術中にはまってしまった。
い、いや、でも、こんなチャンスを逃すのも……。
よ、よし。幸いにして、ここには俺とヴィリアさんしか居ない。
二人は甘いキスを交わしたあと、そのまま部屋の中へ……なんて展開も期待できる。
何より、ヴィリアさんから求められて拒否するなんて、俺にはできない。
よ、よし。いくぞ。んん~。
「おかしいね。魔力を感じない……て、その顔はなんだい?」
「……いえ、なんでもないです。でも、魔力を感じない、ですか?」
それはおかしくない?
鑑定では「それなりにある」なんだから、あるはずなんだけど。
「ん~……あたしの魔力感知も鈍ったかね? でもまあ、やってみればわかる事か。まずは魔力を感知する事からかね。もし本当に魔力があるのなら、魔力は全身を駆け巡っている。それこそ、頭のてっぺんから、足のつま先までね。まずはそれを感知するところから始めようか」
「感知……できます?」
少なくとも、これまでの俺には無理でしたけど。
魔法使おうとして使えなかったし。
……いや、昨日までの俺なら無理だったかもしれないけど、今日の俺ならできるかもしれない。
「できるよ。自分の中にある魔力を感知するのは難しい事じゃない。それこそ、十歳未満の子でも割と直ぐできる事さ」
ヴィリアさんがこの世界の常識を言う。
それだと、今の俺は十歳未満って事になるんですけど。
少しだけしゅんとする。
「そう悲観する事じゃないよ。言っただろう。難しい事じゃないって」
「励ましてくれるんですか? 愛って事ですね!」
「あたしは偶にあんたの言っている事がわからなくなるよ。とりあえず、意識を自分の体の内に向けな。瞑想するにね。そうすると感知できるはずさ。それは魔力だと、確かに感じ取れるよ」
「そうなんですか?」
とりあえず、言われた通りやってみる。
瞑想……瞑想……目を閉じて、意識を体の中に向ければ………………あっ、あるある。
なんか体中を流れるモノを感じる。
「ああ、なんとなくわかりました。確かにありますね」
「……本当に?」
「疑うんですか?」
「いや、そういう訳ではないが……やはり、あたしにあんたの魔力は感知できない」
ヴィリアさんが考え込む。
それに関して俺は何も言えない。
何しろ、自分の魔力を始めて感知したのは、つい今しがたの事。
それで何かわかる……なんて都合のいい事はない。
しかし、不思議だな。
俺にはこうして感じられるのに、ヴィリアさんには感じられないなんて。
「まあ、考えてもわからないので、次にいきましょう。どうやって魔力を注ぐんですか?」
「それもそうだな。現状では答えはない。魔力を注ぐ方法は、対象に直接触れて、感じているモノを触れたところから押し出すように流し込めば注ぐ事ができる」
触れて押し出す、か。
簡単に言うけど、大丈夫だろうか?
念のための練習として、自分の体内を駆け巡るように動かしてみる。
………………うん。なんかぐるぐる回っている感覚がある。
動かす事はできたから、大丈夫だろう。
「……うん。いけそうです。それじゃあ、実際にやってみますね」
「ああ、やってみてくれ」
ヴィリアさんから世界樹の種を預かり、俺の魔力を流してみる。
それなりにあるって、どれくらいなんだろうか?
俺の魔力が世界樹の種に向けて少しずつ流れていく感覚がある。
う~ん……もう少し勢いよくできそうだな。
なので、注ぎ込む勢いを上げた――瞬間、世界樹の種が爆散した。
「「………………え?」」
ヴィリアさんと綺麗にハモった。