お知らせが届きました
確認すると、やっぱり「お知らせ」だった。
押してくださいとでもいうように、「お知らせ」ボタンが点滅している。
内容はまあ……十中八九、「正規版」について、だろう。
今は「β版」。
そこからどう変わるか、だな。
でもまあ、確認してみない事にはわからない。
なので、まずは「お知らせ」」ボタンを押す。
『 図鑑ボックス(正規版)の開発資金援助のお願い 』
ほらね。やっぱりコレだ。
そうだと思っていたんだ。
問題なのは、いくらか、である。
『現在、スタッフ一丸となって「図鑑ボックス(正規版)」を鋭意制作中ですが、とある神が遊戯神との賭け事に負けてしまい、その補填に開発資金が使われてしまいました。もちろん、そのとある神にはキツい罰を与え、反省を促していますが、開発資金が足りない事に変わらず、かき集めていますが正直足りません。大変申し訳ないのですが、開発資金の援助をお願いしています。皆さまからの援助によって、少しでも早くお届けできるよう、スタッフ一同邁進していく所存です
追伸』
………………。
………………。
とある神ってあるけど、間違いなくやらか神だよね、これ。
でないと、わざわざ書かないと思うし。
というか、遊戯を司っていそうな神様を相手に賭け事はマズイでしょ。
カモられる様子が目に浮かぶ。
あと気になるのは、前もそうだけど、皆さまってどういう事?
もしかしてだけど、俺だけにお願いしている訳じゃない?
でも、このスキルが俺だけなのは間違いないと思う。
となると……他の神様にも宛てているのかな?
……ん? よく見ると追伸がある。
『追伸
こういう状況ですので、できれば『複製』をもっと頻繁に使用していただけると助かります』
なるほど。
やはりというべきか、「複製」の使用料はそっちに流れている訳か。
追伸の方は間違いなく俺に宛てているな。
……本当につらいのかもしれない。
このお願いをしている方を、労ってあげたくなる。
やらか神のやらかしに対する行動で、苦労していそうな気がするから。
さて、問題は、どれだけの資金が必要なのかという事だ。
さっさと確認しよう。
『開発資金 金貨 0/10』
……あれ? 思ったよりも高くない。
……いや、前回の倍なのは間違いないけど。
でも、もっとふんだくられると思っていた。
本当に俺以外にも集めているのかもしれない。
というか、一番の責任はそのとある神様だよね?
俺はやから神だと思っているけど、その神様に責任もって全額払って……いや、無理だな。
やらか神にそういう能力はない。
宵越しの金は持たない、とか言いそうだし。
しかし、金貨10枚か。
金貨1枚分は図鑑に入れているから、手持ちは4枚。
……あと金貨6枚足りない。
このまま放置は……なんかもったいない気がする。
俺だけのスキルだし、やっぱりβ版よりは正規版の方がいいよね。
それに、正規版になれば更に利便性が上がるかもしれないし。
となると、足りないお金をどこから捻出するかだけど。
こうなったら……ついにあの言葉を言う時がきたのかもしれない。
ヴィリアさんを捜す。
……居た。キッチンで食事の準備をしていた。
エプロン姿がよく似合って素敵……じゃなくて。
ヴィリアさんの下まで行き、そのまま流れるように土下座する。
「体で支払うので、お金貸してください!」
「蒸殺しろ」
求めた答えではなかった。
あれ? おかしいな。
それなら、覚悟はできているんだろうね? ぼうや……みたいな返答だと思っていたのに。
「不服……いや、不可解って表情だね」
「そうですね。未だ素直に好意を示す事ができないヴィリアさんが、俺に手を出しやすくするために考えた言い回しだったのですが……」
「ここに居候させて、少ししてから思っていた事だが」
「はい。同棲してからですね」
「ハクウ。あんた、馬鹿だね」
「誉め言葉として受け取っておきます」
「そういう意味で言った訳じゃないが……まあいい」
ヴィリアさんが面倒そうな表情を浮かべる。
確かに、食事の準備の邪魔をしているな、これ。
申し訳ない。
「それで、どうして金が欲しいんだい? 何か欲しいモノでもあんのかい?」
「いえ、スキルを正規版にするためです」
「……意味がわからないんだが?」
あれ? 最初に言わなかったっけ?
……いや、言ってないな。
「図鑑ボックス」というスキルとその性能は言ったけど、β版という未完成だとは言っていない。
なので、改めてそこを説明する。
「……それじゃあ何かい? あんたのスキルは実は未完成で、完成させるためには金が必要って事かい?」
「あんただなんて他人行儀な。『ハクウ』と呼んでください」
「うるさいよ。あたしは呼びたいように呼ぶ。それより」
「そうですか。残念ですけど。スキルに関しては、その通りです。まだ完成しておらず、お金が必要です。全額で金貨10枚」
「金貨10枚? まあ、それぐらいなら解体の前払いで払ってもいいけど……」
ヴィリアさんが少しだけ考えたあと、口を開く。
「そうだね。どうせだったら、アレを手伝ってもらおうかね」
名案が思い付いたと、ヴィリアさんが笑みを浮かべる。
素敵な笑顔と思いつつ、一体何を手伝うんだろう?