名と肩書を知りました
かなり……というか、この世界における最も危険な場所に放り込まれていたようだ。
もし、やらか神に会う事があるのなら、文句を言いたい。
いや、土下座させたい。
ついでに、他の神様に対する謝罪もさせよう。
きっと、色々とやらかして、他の神様に迷惑をかけているだろうから。
……でも、もし、やらか神のやらかしがなかったら、おばあ様に会っていなかったと思う。
それを考えれば、少しくらいは情状酌量の余地が……いや、やっぱりないな。
甘やかすとロクな事にならないと思うし。
実際、この世界に来てから正確な日数はわからないけど、ここに来るまでの間に死んでいてもおかしくなかった訳だから。
とりあえず、やらか神への対応はそれでいいとして、あとは今後の事か。
言われた通り大人しくして、まずはおばあ様からの信頼度をアップしつつ、自分磨きをして少しずつ攻略して好感度を上げていけば、攻略できるはず。
………………。
………………。
いやいや、攻略って、何を考えているんだ、俺は。
でも、そう考えても仕方ない。
何しろ、俺と対面するように座るおばあ様は、足を組んでいるのだ。
バスローブから覗く足が、何故かエロく感じる。
……挑発するように組み替えてくれないだろうか?
駄目だ。やっぱり思考がおかしい。
漸く人と出会えた事で、情緒が不安定になっているのだろうか。
ハイテンションだとも言える。
と、そういえば。
「俺は『ハクウ』と名乗りましたけど、まだおばあ様の名を聞いていません。これから一つ屋根の下で共同生活を送るのだし、名を聞いても?」
「妙な言い回しだけど、そうだね。あたしへのおばあ様呼びもどうにかしないと」
「いや、それは気に入っているので、これからもそう呼びたいのですが? なんかヒモ感が増すというか」
「意味がわからん。それに、仲間が来た時に変な誤解をされても困るから、普通に名で呼びな」
「ご、誤解? つ、つまり、その仲間内にそういう関係の人が?」
そ、そんなっ!
……あれ? 思いのほか慌てているな、俺。
「はあ? そんなヤツは居ないよ。からかわれんのが好きじゃないだけさ」
「そうなんですね」
で、ホッと安堵する俺が居る、と。
……今は深く考えるのはやめておこう。
「それじゃあ、名前を聞いても?」
「別に構わないよ。それで何かできる訳じゃなし。『ヴィリア・ワイズ・キャスターレ』。それがあたしの名だよ。『ヴィリア』で構わない」
えっと、こういう世界で名字があるのは……。
「貴族?」
「そういう知識はあるって事か。まあ、どっかの国ではそうかもね。でも、あたしはああいう堅苦しいのは苦手だから、ここでは気にしなくていいよ」
「つまり、ここでは男と女として接するって事ですね?」
「……なんか偶に会話の内容が飛んでいるような気がするんだが?」
「いえ、気のせいです。大丈夫です。きちんと理解していますから。それじゃあ、『ヴィリアおばあ様』と呼べば?」
「ただの『ヴィリア』でいいよ」
「それはちょっと。じゃあ、『ヴィリアさん』で」
「まっ、そこら辺が妥当だね。おばあ様と呼ばれるよりは遥かにマシだ」
俺的にはおばあ様でもよかったんだけど、こればっかりは仕方ない。
おばあ様、じゃなくて、ヴィリアさんに嫌われて追い出されるのは嫌だし。
「さて、じゃあ、そろそろ外の様子でも見に行こうかね」
「外の様子?」
はて? なんで?
不思議に思いつつ、ヴィリアさんが俺も来いと手招きするので、付いていく。
ああ、お風呂上がりのいい匂いにふらふらと……。
けれど、家の外に出ると現実に戻される。
結界に阻まれて侵入はできていないが、多くの動物が結界の外にたむろっていた。
いや、正確にはなんとか中に入ろうともがいているように見える。
というか、あれって……。
「全部魔物?」
「そうさ。血の匂いに釣られてここに来たって訳さ」
「血の匂い?」
思い当たるのは、巨大猪。
「……いや、なんでそんなに冷静なんですか? というか、普通そういうのってきちんと処理するモノだと思いますけど?」
「そりゃ、普通はそうするわな。だが、あたしは最近肉を食ってなくて、猪の解体をしていたら食いたくなってね」
「いや、それなら、巨大猪だったんですから、充分な量が手に入ったと思うんですけど?」
「ああ、それは今日の分を食べたら、あとは売却用だ。あの猪のだと皮と牙も含めて高く売れるからな。だから、他のあたしが個人的に食べる用の肉が必要だったんだよ。思っていた通り、血の匂いに招かれて、たくさん集まってくれたようだね」
ヴィリアさんが、肉食獣が獲物を見つけた時のような、嬉しそうな笑みを浮かべる。
不思議とその表情が似合っていた。
「いや、でも、この状況からどうやって?」
ただ、正直言って、俺は状況的に怖い。
しかし、ヴィリアさんは違った。
「そういえば、あんたにはあたしの肩書を教えてなかったね」
「肩書?」
「そうさ。あたしには有名な肩書がある。それは『賢者』。魔法の熟練者なのさ」
そう言って、ヴィリアさんが手のひらを突き出し、何やらごにょごにょ言い出した瞬間、手の先に魔法陣らしきモノが出現し、そこから幾重の光の矢が結界の外に居る魔物たちに降り注がれる。
か、かっこいい。
それに、「賢者」……「女賢者」だと!
ヴィリアさんが更にエロく見える。