人と出会いました
………………。
………………。
「………………」
目を開けると、木の天井が見えた。
どうやら、俺は無意識の内に木の天井を建てていたらしい。
……んな訳ない。
周囲の様子を窺えば、リビングのような場所だというのがわかる。
木製の大きな置時計が目に付き、時を刻む音がどこか心地いい。
このまま寝れそう……じゃなくて。
とりあえず、今俺はソファーに横になっているのと、額に濡れたタオルが置かれ、直ぐそこのテーブルの上には水の入った桶があるから………………看病されてた?
というか、俺が打ったのは後頭部であって、前頭部じゃないんだけど……まあ、いっか。
看病してくれた。それが大事。
そんな事よりも気になるのは、誰が……というか、どんな人が看病してくれたかだ。
大きなところを言えば、女性か男性かで俺の心象が大きく変わる。
できるなら、女性であって欲しい。
そう思ってしまうのは贅沢だろうか?
と、その時、どこかで扉の開く音が聞こえる。
いきなり対面するのは怖いので、寝たフリ。
体勢を少しだけ変えて、薄目を開けてこっそり確認。
………………。
「きゃあああああっ!」
その姿を見て、思わず叫んでしまう。
「うるさいよっ! 黙りなっ!」
そして、怒鳴られた。
全身血だらけのおばあさんに。
―――
「するってぇと、何かい? あんたはこことは違う世界から来た、と?」
「はい」
「でも、自身の記憶はない? 代わりに、知識的なのは残っている、と?」
「はい」
「暫く森の中で過ごして、大きな猪に追われ続けて……ここに辿り着いた、と?」
「はい」
今に至るまでの状況を説明して、おばあさんからの質問に答えていく。
場所は変わらずリビング。
おばあさんと対面するように座って、話し合っていた。
怖くてゲロッたのではなく、久々に人と話し合えた事でついつい全部喋ってしまっただけである。
後悔はない。
その結果、俺の状況を理解してくれたようだ。
あと、その時になって、言葉が通じていたのに気付いた。
文字も読めるし、書けそうな気がする。
まあ、やらか神が俺の体をいじっていたし、その時に上手く適応できるように、言葉系もどうにかしてくれたのかもしれない。
その事には、ホッと安堵。
でも、口にはできなかったけど、おばあさんが血だらけ姿のままなのは、どうにかして欲しい。
普通そうにしているし、痛がっている様子もないから、自身の血じゃないとは思うんだけど………………目に優しくない。
本当に自身の血じゃないのなら、質問などは綺麗さっぱり洗い流してからでお願いします。
もし本当は自身の血なら……病院行きなさい。
あっ、この世界って病院あるのかな?
「……なんか変な事を考えてそうだね?」
「いえ、そんな事は決して」
「随分と返答が速いね。そういうのは、大抵の場合がやましい事があるもんだ」
「決め付けはよくないと思います」
とりあえず、アレだな。
見た目インパクトがある人でよかったかもしれない。
これまで一人でポツンとしていたから、第一次接触が普通的だった場合、まごまごしていた可能性がある。
でも、ここまでインパクト重視での第一次接触なら、緊張なんてどこかにすっ飛んでいくというモノ。
当方は自然体で接する事ができるというモノです。
………………どうしよう。
本当に……本当に、脈絡とか一切ないけど……「それで正解っ!」て言いたい。
拍手しながら、「ありがとうございます」とお礼も言いたい。
「それにしても、なんだっけ、あんたのスキル?」
「あっ、『鑑定』ですか? それとも、『図鑑ボックス(β版)』の方ですか?」
「『鑑定』はまだしも、もう一つの方は一切聞かないスキルだね。間違いなく、この世界においてあんただけが持つスキルだよ」
「でしょうね」
何しろ、やらか神とその他の神様が一から作り出したようだし。
と、俺は納得しているが、おばあさんは難しい顔を浮かべているようだ。
いや、血塗れのままなんで、判別が全体的に付きづらいです。
もう落ち着いたので、出来れば洗い落としてきていただけませんか?
絵面的にもそろそろきつくなってきました。
それに、本人的に血塗れのままなのはどうなんですか?
……まあ、気にしているようには見えないけど。
それとも洗い落とさない理由でもあるのだろうか?
………………はっ! まさか、洗い落としている最中の定番が起こると警戒しているのか?
そう。つまり、NO・ZO・KI!
これまで様々なシチュエーションで行われ、数多の者たちが桃源郷を夢見て挑戦し……割合的には失敗の方が多い気がする行動。
単純に成功したってのは、あんまりなさそう。
見えなかったり、違う人だったり、そもそも辿り着けなかったりと、失敗事例の方が多いし。
まっ、全部漫画やゲームでの話だけど。
実際にはやっちゃ駄目。絶対。犯罪です。
なので、俺の事なんか気にせず、時間をかけてじっくりと血を落としてきてください。
「とりあえず、あんたは暫くここにいな」
「……え?」
「誰も持っていないスキルなんてのが世に知られると、間違いなく面倒が起こる。そのスキルの『複製』は間違いなく大騒動のタネだね。あんたが邪悪でないかどうかも確認しておかないといけないし」
「それ……邪悪判定されたらどうなるんですか?」
「………………」
おばあさんは答えない。ただ笑うだけ。
血塗れのままなので怖い。
でも、それってここに泊まれるって事ですよね?
ありがとうございます。
屋根がある。人の温もりがある。家。
これで安心して眠れる。
本当にありがとうございます!
「つまり……おばあ様のヒモになれって事ですね?」
「違うわ、馬鹿たれ!」
ぺしんと頭を叩かれた。