名付けました
視界が開ける。
……知らない世界だ。
………………。
………………。
とりあえず、ここが本当に異世界なのか試してみよう。
「はあああああっ!」
全身に力を込める……が、特にこれといったエフェクトは起こらず。
「――波っ!」
射出するイメージで手を前に出すが、何も発射されず。
「ステータス!」
……何も表示されず。
色々試した結果。
ここは本当に異世界なのだろうか?
なんだか怪しくなってきた。
思い返してみれば、色々と情報が足りない。
まず、ここはどういう世界なのだろう。
地球と似たような文明があるのか、それとも定番の剣と魔法の世界なのか、それとも宇宙人のような生態系の世界なのか。
そこで自分の姿を見る。
人間。一般男性。顔は見えないが、服装は……真新しいシャツとズボンに革靴で、RPGでいうところの村人風。
服装で判断するなら、剣と魔法の世界が濃厚。
確認はしたいが……もしそうだった場合、同時に魔物という脅威が居る事になる。
……よし。日和っておこう。
なんか精神的に向いてないというか、戦える気がしないんだよね。
あと、なんかポケットが重いと思っていたら、中に金貨が十枚入っていた。
……支度金ってヤツかな。
という訳で、そろそろ現実と向き合おうか。
周囲にあるのは、鬱蒼とした森。
どの方角に進めばいいのかわからないくらい、木々が生い茂っている。
自然豊かなのはいい事だと思うが……。
ここは本当に安全な場所なんだろうか?
直感を信じるなら……違う気がする。
何故なら、直前で「あっ」て言っていたし。
あれは明らかに何か失敗した感じの「あっ」だった。
……そもそも、あれはなんだったのだろうか?
言葉に当てはめるなら……「神」という言葉がしっくりくるんだけど……。
よし。「やらか神」と呼ぼう。
説明不足。ミス。そう呼ばれるのに充分な実績だ。
そうして、やらか神と名付けた時に気付く。
俺も名前ないんだった。
正確には憶えていない。
なので、ここは一つ、俺も新たな名を自分に付けよう。
………………。
………………。
全然ピンとこない。
漫画やゲームのキャラクターの名前はいくらでも出てくるのだが、さすがにそこからそのまんま引用するのははばかられる。
さすがに異世界にまで法律的な問題はかからないと思うが……どうしよう。
このままだと名無しだ、
……ナナシ。
……いや、なんか違う。
名前なし……なし……空欄……空白……クウハク……ハククウ……ハクウ……ハクウ!
なんかピンときた。
よし。これから俺は「ハクウ」と名乗ろう。
ハクウ……ハクウ……吐くぅ……。
元の世界では、よく酔い潰れていたのだろうか?
記憶はないけど、そうではなかったと思いたい。
……さて、思考を切り替えて。
これからどうしようか。
行動の指針が何もない。
やらか神も、ただ生き続けて欲しいとしか言わなかったし。
ただ、それも怪しくなってきた。
こんな何もない場所で、どうやって生き続けろと?
いや、自然は豊かだけど……文明の香りが一切しない。
でもまあ、やろうと思えば……やれるか?
自信を持たずにやるよりも、自信を持ってやった方がいいだろう。
さっき名付けが終わり、着の身着のままで、何かしら役に立つような道具も一切持っていない。
………………ガラガラと積み上げた自信が砕け落ちていく。
膝をつき、両手で顔を覆って、さめざめと泣いた。
………………。
………………そういえば、やらか神が、なんか恩恵がどうとか言っていたっけ。
……恩恵って、どんな?
そもそも、口頭説明もなく、ステータス的なモノが見れないのに、どうやってその恩恵を確認すればいいのだろうか?
どんな恩恵かわからなければ、それを活かす事もできないというのに。
そこで思考に天啓が走る。
考えてみれば、俺は「ステータス」としか言っていない。
もしかして、言い方を変えればいいんじゃないだろうか?
……物は試し。
右手を前に出し、全力で叫ぶ。
「ステータス……オープン!」
………………。
「オォープゥン!」
とある仮面ラ〇ダーのベルト風に叫んでみる。
………………。
誰も見てない……見ていないんだけど……。
自分の羞恥心に勝てず、両手で顔を覆って蹲る。
立ち直る時間をください。
………………。
………………。
やっぱり駄目だった。
可能性としては大いにあると思ったが、違ったようだ。
記憶はないが知識はある。
次いで可能性として高いのは……。
「鑑定」
自分の手のひらを見ながら言う。
まあ、これで出たら苦労しないが。
『名前 :ハクウ・エンジェル・オブ・ゴッド
種族 :本人は人だと思っている
HP :割とある
MP :それなりにある
スキル:鑑定
図鑑ボックス(β版)』
と、表記された半透明の板が目の前に現れた。
なるほど。攻撃力とか、そういうのは表示されない簡易的なモノという感じだが、まあ知りたい部分はあるので、これで問題はない。
………………。
………………出ちゃったよ。