使わずにはいられません
焚き火で温まりながら、考える。
なんというか、火を見ていると無心になるけど、考え事をしていても冴えてきそうなんだよね。
不思議だ。
いや、そうじゃなくて、
今大切なのは……そう、今大切なのは、火を使えば、これまでの生活様式が劇的に変化するという事だ。
火という力が、人の文化文明レベルを大きく向上させたのは間違いない。
その火を使えば、俺の生活水準も大きく向上………………あれ? するかな?
……どうなんだろ?
よくよく考えてみると、今の俺の状況で火を使う場面ってあんまりなくない?
メインはやっぱり夜に明かりが手に入る事だけど、料理はそもそも道具がないし、焼く事しかできない。
それに、その焼くという行為に対しても、肉は手に入れてないし、魚も捕まえられない。
………………。
………………。
うーん。前も思ったんだけど、下手をすれば、火を恐れる動物居ないんじゃない?
あのライオンは間違いなく気にしないだろうし、例のウサギも怪しい。
もしかすると、夜に焚き火するとデメリットしかない感じ?
いやいや、まっさかー………………否定できないのが辛い。
……でも、火を使わずにはいられない。
だって、漸く手に入ったのだから。
もう火のない生活なんて耐えられない。
あまり活用していないけど。
………………。
………………。
よし。今夜……試してみよう。
自然と、ごくりと喉が鳴った。
どのような結果になるか、今から怖い。
最悪を想定して行動しよう。
色々と複製し過ぎて、図鑑に入れた金がなくなる。
↓
図鑑に追加の金貨を入れようと、アイテムボックスから取り出す。
↓
落とす。
↓
転がる。それはもう勢いよく。
↓
行方不明。
↓
なんやかんやあって、繰り返される悲劇。
↓
残り金貨全て失う。
………………。
………………。
最悪だ! まさしく最悪の想定だ!
考えただけで身震いしてしまう。
かといって、ここで金貨全投入もできない。
何しろ、返却口はない。
入れたらもう戻ってこないのだ。
なので、いつか森を抜けて町に着いた際、実質無一文となるのは困るので、全投入はできない。
それに、入れ過ぎると、まだまだ余裕だと気持ちが緩んで使ってしまう可能性もある。
だって、人間だから。
……悩ましい。
現状維持という事で、この問題を考えるのはやめよう。
とりあえず、体も温まってきたし、夜に向けての準備だ。
まずは、場所移動というか、新たな拠点探しだろう。
今居る場所は川が近過ぎるというか、下が砂利だ。
さすがにゴツゴツして寝づらい。
いや、待てよ。
逆転の発想で、これでツボが押されて健康に……いや、やっぱり寝心地がつらいのはちょっと。
なので、川の近くでどこか休めそうな場所はないかと探しつつ、焚き火で全て失った木の枝なども集めていく。
曲がった木の枝が多い中、なんとか真っ直ぐな木の枝もいくつか見つける。
その内の一本は、ライオンによって失ってしまった俺の武器として、常に持っておく。
たとえ木の棒でも、俺にとっては心強い武器だ。
あるとないとでは、精神状態が大きく違う。
そこで思い出す。
たいまつに利用しようと、服を破いていた事を。
あと、最低品質だけど折角植物油もある訳ので、なるべく真っ直ぐな木の枝に破いた服を巻き付け、そこに植物油を塗っただけの、簡易なたいまつも作ってみた。
好奇心で鑑定してみる。
『 たいまつ(手製)
木の棒の先端に薄手の布を巻き付け、油を塗っただけの手製品。
使い切りの消耗品でもあるため、危険な相手には投げつける事がオススメ。
クルクル回りながら飛んでいくたいまつは、さぞかし綺麗な光景だろう。
複製金額 銅貨 4枚 』
図鑑登録されて複製できるのは素直に嬉しい。
でも、微妙な金額。
木の枝というか木の棒、破いた服の一部、最低品質の植物油……どれも最低額の銅貨1枚を合わせて……複製分として銅貨1枚追加になった感じだろうか?
でも、正直言っていいかわからないけど……最低品質の植物油だからだろうか。
塗った部分がめっちゃ臭い。
いや、どうせ燃えるんだから、別に臭いまで気にしないけど……煙に臭いが移ってむせないか心配。
……逆によくないか? この臭い。
人よりも獣の方が、嗅覚がいいのは当たり前。
この臭いで、逆に来なくなるかもしれない。
やったな、俺。
試しに、左手にたいまつ、右手に木の棒を持ってみた。
たいまつに火はまだ点けてないけど……なんだろう。木の棒よりもたいまつの方が、攻撃力があるように見える。
いや、考えちゃ駄目だ。
木の棒だって、立派な武器だ。
それでいいじゃないか。
うんうんと納得して、たいまつを使うのは夜なのでアイテムボックスにしまい、夜に向けて更に周囲の探索を行う。