まさしく天啓です
小さな焚き火に癒されつつ、今後の事を考える。
現状からの脱却が当面の大きな目標として、細々とした目標も考えておいた方がいいかもしれない。
とりあえず、まずは果物以外を食べたい。
贅沢は言わないから、野菜類が欲しい。
ふと、川を下っていけば森は出れる、と思ったが、そこから先が問題だ。
早々町があるわけないし、見つけられると思えない。
下手をすれば、森の恵みという場所を失った事で、更なる危機になる可能性がある。
そういう事なら、もう少しこの森で頑張った方がいいかも。
数日過ごした事で、ちょっと生きていける自信が少しだけ付いたし。
となると、問題は武器、か。
魔物なんて存在が居るんだ。
ないよりはあった方がいいだろう。
知識の中に格闘技系はいくつかあるが、やった経験というモノは体に感じない。
本当に、知識として、そういう格闘技や技があるっていうのを知っているだけのようだ。
……やっぱり、今持てそうな武器は、木の棒くらいだろう。
しかも、戦闘用に加工したようなモノではなく、木の枝のいらない部分の枝を折っただけのような些末なモノ。
本当に、ないよりはマシというレベルだな。
せめて魔法が使えれば……もしくは、目の前の火がどうにか有効活用できれば……。
そこで天啓。
頭の中に稲妻が走り、背後に雷のエフェクトが起こった……ような感じ。
その天啓とは、もしかしてだけど……火も鑑定できて、複製できるんじゃないだろうか?
……いやいや、そんなまさか。
自分で自分の考えを否定してみるが……捨てきれない。
なので、試してみる。
その結果。
『 ただの火
なんの変哲もない火。高温。
ただ火が爆ぜるだけ……それだけで癒される。
気持ちのいい睡眠をあなたへ。
複製金額 銅貨 1枚 』
できてしまった。
しかも、複製可。
「ふぁーーーーーっ!」
思わず叫んでしまう。
それぐらいの衝撃。
再度確認。
図鑑の「特殊」のところに、きちんと登録されていらっしゃる。
「ふぁーーーーーっ!」
再度叫ぶ。
駄目だ。とまらない。
なんて事だ……なんて事だっ!
本当に登録できるなんて!
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!」
思わず感謝の言葉が出てしまう。
見ているかわからないが、空に向かって手を合わせておいた。
金を取られるのは変わらないが、最安値。
それで火を点ける事ができるのなら、使う事に躊躇いはない。
毎回摩擦熱で火を点けるのは大変だしね。
それだったら、金で解決しよう。
……言葉だけを取ると、よくない事のように聞こえなくもないな。
………………。
………………。
落ち着こう。
一旦落ち着こう。
これから火が簡単に手に入るようになったので、我を見失っていた。
よくよく考えてみれば、この状況はやらか神がやらかした結果。
火が簡単に手に入った事とこれまでの事を比べると………………まだマイナスだな。
やらか神のやらかしの方がまだ大きい。
……ふう。
そう考えると、なんかかなり落ち着いてきた。
とりあえず、火が手に入ったという事は、俺の生活ランクが一つ上がったのは間違いない。
夜に使うと何かを招きそうで怖いけど、試しでも使わない事には始まらない。
ただ、そうなると、何かを招いた時の事を想定すると……やはり武器が欲しくなる。
単純に、戦闘力が必要なのだ。
となると、やっぱりまずお手軽に手に入る木の棒だろう。
拾った木の枝を全部取り出して、それっぽいの……なるべく真っ直ぐなのを選択。
他を収納して、選んだ一本の邪魔な枝を折って、体裁を整えて完成。
見た目は完全に木の棒。
できれば握るところも加工したいけど、今は道具がない。
いや、待てよ。
服も複製できるから、破いて巻けばいいんじゃないだろうか?
それに、破いて巻いた部分に油を塗って火を点ければ、たいまつの完成だ。
……あれ? 俺、天才?
いや、調子に乗り過ぎました。
自ら反省。
でも、服も破けた事で安くなっているようだし、たいまつは必要だ。
あとで作ろう。
今は木の棒である。
今回は何も巻かず、そのまま握って感触を確かめる。
……うん。悪くない。
やっぱりこんな状況だからこそ……武器は必要だ!
心構えが変わってくるっていうか、なんに対しても心が前向きになるというか。
武器を持つという事は、心も武装するという事になるのかもしれない。
……言ってて意味がわからないけど。
木の棒の長さは……多分65cmくらい。
というよりは、コンビニで売っているビニール傘と同じくらいの長さ。
実際に構えて振ってみる。
………………。
………………。
木刀だけど、今なら勝てそうな気がする。
何に、かはわからないけど。
「セイッ! セイッ! セェーイッ!」
振って、振って、最後に突く。
切っ先が近くにあった木にぶつかった。
ただ、当たりどころが悪かったというか、角度が悪かったというか、木の棒が手から離れて
飛んでいった。
握りも甘かったのかもしれない。
まあ、元々そういう技術なんてもってないんだから、当たり前か。
それでも、武器を振るうってカッコいいよね。
木の棒を拾った瞬間――。
「ちぇいっ!」
かけ声と共に振り返りながら木の棒を振るう。
「……ふっ。俺の背後を取れると思って……おっと」
振り返ると、メスライオンが居た。