怖いです
コーポジレット大国に戻ると、またいつでも呼んでくださいと、水の高位精霊は去っていった。
今回は本当に助かったので、改めて礼をしたいと思う。
でもそれはあと。
まずは今後の事を考えないといけない。
周囲の様子を窺うと、回復した人たちは既に居なかった。
救護室あたりに運ばれたのだろう。
その代わりという訳ではないが、事情を聞いたであろうエクス・グラップルさんと、アンブロム・インペリオルムさんが憤っていた。
うんうん。気持ちはわかる。
俺も憤っているから。
ラロワさんも居たので、現インペリオルム帝国の侵攻に対する協力をする事を早速伝えようと思うが、その前に――。
「大丈夫ですか? ヴィリアさん」
ヴィリアさんがお疲れ気味に見えた。
「気にしなくてもいいよ。大勢に回復魔法と瞬間移動魔法の設置と使用……魔力を一気に使い過ぎただけさ」
そうなのか。
とりあえず、気休めになればと「魔力水」を渡しておく。
そこにラロワさんが来たので、協力を申し出る。
ただし、できる限りの事はするが、前提として、お手伝いだけだ。
そう前提にするのは、簡単に片を付けようと思えば、リュオが居る時点で完了している。
リュオ単体で、既に過剰戦力だからだ。
でも、それだと結末が壊滅ENDにしかならないような気がするので、それは回避したい。
別にインペリオルム帝国を滅ぼしたい訳ではないのだ。
悪いのは一部であって、全体が悪いという訳ではない。
まあ、痛い目は確実に見せるので、その影響はあるだろうけど。
それに、そこに居るエクス・グラップルさんやアンブロム・インペリオルムさんや、連れ去られたディナさんたちの帰る場所でもある。
「だから、滅ぼすのはなし。リュオだけでもそうだけど、竜たちをけしかけて一気に焦土にするとかはしないからな。そもそも、まずはディナさんたちを助けないといけないんだし」
リュオに向けてそう言うと、顔を逸らされる。
やっぱり考えていたな。
「しかしだな、ハクウ。リュヒを見てみろ」
リュヒは「宝石花」を誰にも渡さないと強く握り締め、ニッコリと微笑んでいる。
「Drop into hell」
えっと……地獄に落とす的な事かな?
とても穏やかな口調で、とても物騒な事を言っている。
下手をするとリュオ以上の事をしでかしそうだ。
焦土で終わらず、数十年は生物が存在しない土地とかにしそうな雰囲気を発している。
リュオには、そのまま宥め続けておいてもらおう。
頑張って、とサムズアップだけ返しておいた。
穏やかじゃない人は他にも居る。
「ああ……花が……もう少しで実になりそうだった花が……なんで……」
世界樹の花がパクられたと知ったユルドさんが、悲嘆に暮れている。
いや、パクられた事より、実になる前に摘み取られた事を嘆いているようだ。
アイシェさんが宥めているが、気持ちは収まらないようだ。
と思っていたら、ユルドさんはゆらりと揺れながら俺に近付いて来て、ガシリと俺の両肩を掴んできた。
「……ハクウくん」
「な、なんですか?」
「ハクウくんの事だから、もちろんやり返すんだよね?」
「そ、そうですね。そのつもりです」
「うんうん。ハクウくんはそういう人物だと思っていたよ。だからさ、その時が来たら……わかるよね?」
「えっと……一口噛ませろ……つまり、連れて行けって事ですか?」
ユルドさんは何も言わない。
ただ、ニッコリと笑みを浮かべるだけ。
「まあ、別にいいですよ。ただ」
「わかってる。やり過ぎないギリギリのラインで責めるから。壊れなければ、問題ないよね?」
「そ、そうですね」
怖いから、両肩を掴んでいる手を離して解放してくれないだろうか。
「……Kill」
ここも物騒な事を言っている。
というか、それだとギリギリのラインじゃないよね。
「アイシェさーん! アイシェさーん!」
アイシェさんを呼んで引き取ってもらう。
ユルドさんの清涼剤として頑張ってください。
ヴァインさんは、既に準備運動を始めている。
早い早い。まだ先だから。
そのあとは、ラロワさんから軽くだが今後の展開を聞く。
現インペリオルム帝国がコーポジレット大国に侵攻しようとしているのは間違いない。
今、「勇者前進」の残りメンバーに調べてもらっている結果次第で、開戦の時期がわかるそうだ。
既に応戦の準備も始めているらしい。
「つまり、まだ時間はかかるって事ですよね?」
「そうだね」
「時間があるのなら、先にディナさんたちを助けた方がいいかもしれないな」
憂いをなくした方が、のびのびとできるというモノ。
ついでに、ある程度の片が付けられるのなら、付けるのもアリかもしれない。
「そうだね……え? どういう事? ……まさか」
まずは少数精鋭で奪い返しに行きますか。
帝都に乗り込もう。