焦燥感です
リュオと共に小屋から飛び出すと同時に、リュオが竜形態に戻る。
「来い!」
掴まれ、背に乗せられる。
「行くぞっ! 落ちないようにしっかり掴まっていろよ!」
……掴まる場所がないので、しがみつく。
風圧と少しの浮遊感。
視界が地上から空中へ。
後方が少し騒がしい。
「落ち着けとか、どうかしたのか、とか喚いているが?」
リュオの声が聞こえたので、なんとか声を張り上げて返す。
「いや、このまま行ってくれ。嫌な予感が消えない」
「わかった! 結界を張っているようだが、力ずくで突破する! 少々衝撃がくるかもしれんぞ!」
「わかった!」
聞こえたようなので、さらにしがみつく。
……特に衝撃はなかった。
「……リュオ?」
「……何故か直前で消えたのだ」
「ふむ。おそらく、妹が消したのだろう。元々ここの結界を張ったのも妹だからこその芸当だな」
「「なるほど………………え?」」
俺とリュオは、同時に声がした方に振り向く。
ヴァインさんがリュオの背の上、俺の隣で座っていた。
「こちらの方がおもs……何やらハクウくんから緊急性を感じたため、同行したのだ。結界に関しては気にしなくてもいいぞ。妹なら直ぐ張り直す事ができるからな」
「「は、はあ……」」
とりあえず、今更降りてというか、その時間も惜しいし、人手はあった方がいいかもしれない。
今は、とにかく急いだ方がいい気がする。
なので、このままリュオに飛んでもらう。
夜だったのが幸いだった。
リュオは黒竜だし、夜空に紛れる事ができるから、目撃者も少ないと思う。
そのまま大急ぎで飛んでもらった。
杞憂で終わればいいんだけど。
………………。
………………。
コーポジレット大国の王都から不滅の森までの距離がどれくらいかはわからないし、そもそもリュオの速度がどれだけかはわからない。
でも、リュオも相当急いでくれたんだと思う。
体感的には数時間くらい、まだ陽が出ていない内に辿り着いた。
だからこそ、よく見えてしまう。
不滅の森の一部が明るい。
……燃えていた。
燃えている場所の近くには、他とは大きさだけではなく存在感そのものが違う巨木がある。
つまり、世界樹の周辺が燃えているのだ。
「リュオ!」
「わかっている!」
リュオが更に加速して接近してもらう。
近付き、空中からという事で状況がよくわかる。
世界樹自体は燃えていないが、ところどころ黒ずんでいるところがあり、目立つ花もなくなっていた。
その周辺の森は燃えていて、地上では、ドリューと、エルフたちと冒険者と私兵さんたちが消火作業を行っているが、目に見えて人数が少なく、動きもぎこちない。
そもそも、土や砂をかけたりと、近くに水源がないので四苦八苦している。
それに、建ててあった家も燃え、ヴィリアさん家も同様だ。
「ハクウくん、地上に戦闘痕がところどころ残されている! 何かしらの襲撃があったのは間違いない! それも、おそらく複数!」
ヴァインさんが現状を見てそう言う。
襲撃……いや、今は燃え続けている火をどうにかしないといけない。
「リュオ! 下りられるか? もしくは、火をどうにかできるか?」
「下りる事は可能だが、火は無理だな。逆に焼き払うような消化ならできるが」
それだと駄目だ。
やはり、水がないのが……水……そうかっ!
ないなら作れば、生み出せばいいのか!
――俺の魔法で。
以前習った水系の魔法を唱える。
あの時はごく短時間の雨で終わったけど、あの程度じゃ火は消えない。
もっと長く……もっと強く……。
魔力をガンガン込めていくと、空中に山のような水塊ができ上がった。
「これを」
「待て待て!」
リュオからストップが入る。
「火だけではなく、周囲一帯が壊滅するぞ! もっと細かくできないのか?」
「無理! そんな調整はできない!」
「力強く言う事か!」
でも、壊滅は困る。
俺は火を消したいだけなのだ。
そこで、閃く。
急いでポケットから「精霊転移門」を取り出し、水の高位精霊を呼ぶ。
「お呼びですか? ハクウさま」
水の高位精霊は直ぐに現れてくれた。
なので、直ぐに簡潔に事情を説明。
「お任せください。……ああ! なんという超高純度な魔力を内包した水塊!」
どこか興奮した様子の水の高位精霊が消火作業を行う。
俺の生み出した水塊に、水の高位精霊の力が混ざったかと思うと、水塊から水で形成された、いくつもの大蛇が出現。
大蛇は大きく口を開き、火を体内に取り込むように食らいつきながら、周囲一帯を駆け抜けていく。
水の高位精霊が上手く操作している証拠に、燃えた木を丸ごと取り込んでも、木は何事もなかったかのように、その場に残っている。
火はあっという間に消化され、鎮火した。
余った水塊は、水の高位精霊が周囲に上手く降り注いでくれるそうだ。
そこで、消火作業を行っていたみんながこちらに気付いたので下りていく。