まだ何かあるようです
色々な問題が片付いたからか、商店街に行くとこれまで以上の活気に溢れている。
風のウワサというか、老齢の執事さん情報によると、グラフ伯爵の後釜さんが頑張っているそうだ。
もちろん国を挙げて全面的に補佐もしているらしい。
なので、商店街は大丈夫だろう、という見解。
グラフ伯爵については……まあ、これからの判断になるが、もう関わる事はないだろうし、結末は気にしない。
ヘンドラー商会については解体。
改悪品に関しては全回収して破棄。
「マジック」シリーズとして売り出した影響か、祝い事とかのために取っておいた人が多く、食した人が少なかったのは幸いだった。
食した人はこれから大変だろう。
それで、こんな事を仕出かした理由は、やはり現インペリオルム帝国からの指示だと、商会長であるハルス・ヘンドラーは訴えているそうだ。
だからだろうか、今は減刑と待遇の改善を求めて、インペリオルム帝国の情報を売ろうとしているらしい。
信憑性の問題もあるだろうし、どうするかはラロワさん次第だろう。
老齢の執事さんから、そういう大まかな部分だけは聞いた。
それと、もう何日も通っているので、さすがに商店街ももう少しで巡り終わる。
いや、まだ夜の商店街が残っているけど、そこはさすがに、ね。
モノホンバニーさんたちというか、メールマッマさんに会えるなら、間違いなく行くけど。
という訳で、そろそろ不滅の森に帰ろうかな、と考えている。
なので、今日も執事服をきっちり着こなしているヴァインさんに尋ねた。
「そろそろ不滅の森に帰ろうと思うんですけど、どうしますか?」
「もちろん。共に行こう」
「でも、この国、これから戦争になるかもしれませんけど、協力とか求められるんじゃないですか?」
「どうかな? 今のところはそういうお願いはされていないな。ラロワの事だ。それでもどうにか対処できるだけの算段が整っているのだろう」
なるほど。
まあ、それは話がきた時に考えればいいか。
「ところで、また執事服なんですか?」
「うむ。思いのほか気に入っている」
まあ、ヴァインさんの場合は変装も兼ねているから、別にそれでも構わないんだけど。
と――。
「失礼。少々よろしいでしょうか?」
「はい?」
声をかけてきたのは、どこかで見た事のある男性。
「えっと……」
「初めまして。『マート・バンク』と申します。以後、お見知りおきを」
「は、はあ」
いきなり名乗られても困るんだけど。
老齢の執事さんが、こそっと教えてくれる。
この商店街のナンバーワン商会といっても過言ではない商会の商会長だそうだ。
それと、思い出した。
この人、ヘンドラー商会の騒動でリュオが活躍した時に、他の人たちよりも前に出てグラフ伯爵と対峙していた人だ。
青髪で、優し気な顔立ち。
如何にもという感じの服装を着ていて、特に体を鍛えているようには見えないが、それでもどこか油断ならない雰囲気みたいなモノが感じられる。
「それで、俺に何か?」
「はい。と言いたいのですが、今回の目的の人物は」
マート・バンクさんの視線が、ヴァインさんに向けられる。
「……『武神』ヴァイン・フィス・マスターレさま、で合っていますか? と言いましても、確証あっての問いかけですが」
ヴァインさんに向けて、小声でそう尋ねる。
周囲に聞こえないように、気を配っての行動だというのが見てわかった。
「まあ、そこまで隠してはおらんが、どうして自分が『武神』だとわかったか尋ねても?」
「はい。もちろんです。と言いましても、そこまで難解で複雑な答えではありません。私の知り合いがヴァイン・フィス・マスターレさまの関係者で、先の騒動で見かけたというだけですので」
「なるほど。それで、自分に何か用か? 生憎と、挑戦の類いは今受けていないが?」
「いえ、そうではありません。ただ、その知り合いが是非会いたい、と……できれば、誰にも知られる事なく」
最後の一言は、俺にも聞こえてしまったけど、ヴァインさんだけに向けてだろう。
「ふむ。その知り合いが誰か聞いても?」
「もちろんです」
その名ばかりは、俺にも聞こえなかった。
ヴァインさんだけに告げられ、ヴァインさんは一つ頷く。
「なるほどな」
それだけ呟き、ちらりと俺を見た。
「条件がある」
「なんでしょうか?」
「そこの彼の同席を願いたい。今の自分の保護者のような存在なのでな」
ヴァインさんが指し示したのは、俺。
というか、保護者って。
マート・バンクさんは少しだけ考えたあと、了承する。
「わかりました。では、良ければ明日、私の商会に来ていただけますか?」
「伺おう」
なんか俺の意見なんか関係なく、明日、マート・バンクさんの商会に行く事になった。