緊急……にはならなかったです
今日の商店街巡りを終えて、城に戻った。
そのまま、ラロワさんの執務室に案内される。
「本当に助かりました! ありがとうございます!」
ラロワさんが喜色満面で喜ぶ。
ヘンドラー商会に関する解決の目途が立ったのかもしれない。
また、その事で調査をしていたモノホンバニーさんたちも居て、「助かりました。ありがとうございます」と、次々と感謝の言葉を送る。
ーーリュオに。
「うむ。まあ、我にかかれば、ザッとこのようなモノよ。人の行いなど、些事でしかないという事だな」
ご満悦の表情である。
まあ、これだけで手放しで褒められたら、仕方ないだろう。
実際、それだけの功績を挙げた訳だし。
俺もこの場の流れに沿って、拍手しておく。
リュオとリュヒは、もうやる事はやった、と満足げに執務室から出て行った。
ラロワさんたちは今後の話し合いを行うそうなので、俺も部屋に戻ろうかと思った時、兵士が一人、慌ただしく入ってくる。
「緊急報告します!」
切羽詰まった感じだったが、本当に切羽詰まっていた。
なんでも、事情聴取を行う前に、グラフ伯爵が貴族権限をフル行使して、ハルス・ヘンドラーを釈放させて共に逃げ出したそうだ。
逃げ出したのはその二人だけ。
一緒に捕まえたヘンドラー商会員たちを残しての逃走である。
「……中毒性のある偽物の影響下という事で、まだいくらか情状酌量の余地はあったが、それすらも判断できないまでだったか。これで終わりだな、グラフ伯爵。それなりに有能ではあったが……仕方ない」
ラロワさんが覚悟を固めたような表情を浮かべる。
「……直ぐに騎士団に通達を。諜報はヘンドラー商会の戦力を把握してきてくれ。それと、グラフ伯爵の後釜の選定を頼む」
ラロワさんの指示に、老齢の執事さんやモノホンバニーさんたち、兵士が慌ただしく動き出す。
俺は疑問をぶつけた。
「騎士団とか相手の戦力とか、物騒な言葉がいくつかありましたけど……」
「ヘンドラー商会は、素行は悪いが実力はある冒険者なんかを多く抱えているだけではなく、戦闘も行える商会員の数も多い。私設戦闘集団を抱えている商会でもある。それで実績も上げているが、問題も多いのだが……それは今関係ないか」
そんな感じの商会なんですね。
となると、荒くれ者が多くて、そこに逃げてきた商会長。
乱闘騒ぎが起きるという訳か。
「それに、今は可能性の話だが、グラフ伯爵も少なからず私兵を抱えている」
なるほど。
もしかすると、かなり大きな騒ぎというか、戦いになるかもしれないのか。
だから、騎士団を出す、という訳か。
そう思っていると、肩を叩かれる。
振り返れば、にっこりと笑みを浮かべる執事服姿のヴァインさん。
「「ああ~……」」
俺とラロワさんの声が重なった。
「自分もそれに行って構わないか?」
「なんで俺に聞くんですか?」
「そりゃ、今の名目上は、執事だからだな」
ラロワさんに視線で確認。
好きにして、という感じだった。
「じゃあ、お願いします」
「心得た!」
「あっ、くれぐれもやり過ぎ……」
言い切る前に行ってしまった。
どう考えても過剰戦力としか思えないんだけど。
とりあえず、ヴァインさんを派遣したし、もう俺のやる事はないだろう。
なので、ラロワさんに先に休みますと言って、部屋に戻って寝た。
―――
翌日。
ヴァインさんは、どことなくツヤツヤしていた。
それなりに楽しめたようである。
気になったので、ラロワさんから昨日のその後を聞く。
ラロワさんが予想した通り、逃げたグラフ伯爵とハルス・ヘンドラーは私兵を集めていた。
といっても、こちらに向かって来るつもりではなく、逃げる時の囮とするために。
この国の騎士団の規模はわからないが、それでも多少なりとも時間を稼げる程度には集まっていたそうだ。
ただ、向こうにとって想定外だったのが、ヴァインさん。
さすがに「神脚・解放」は使わなかったようだけど、それでも元々の強さがおかしい人物。
……そういえば、将来の義兄だった。
「さすがですね」
無言でピースサインが返された。
当然のように無双したそうだ。
しかも、早期解決。
寧ろ、自分たちだけ逃げようとしたグラフ伯爵とハルス・ヘンドラーに説教までして、そこに居た者たち全員を含めて捕まえた。
今度は逃がさないように徹底ガードしているそうで、私兵も居なくなって、これでヘンドラー商会の調査もスムーズに進むと喜んでいる。
まあ、そこら辺はノータッチというか畑違いだ。
とりあえず、これでヘンドラー商会に関する問題は解決したと見て大丈夫だろう。