そうなりました
ヴァインさんが気絶したので、本日は解散となった。
詳しい事は、起きてから……多分明日だな、これ。
という訳で、翌日。
改めてヴァインさんの下へ。
昨日と変わらず医務室で会う。
ヴァインさんとエレールさんの他に、ラロワさんの姿はないが、代わりにヴィリアさんが居た。
そのまま流れるような動作で、ヴィリアさんの隣に座る。
ヴィリアさんに他の人たちがどうしているのか尋ねると、ラロワさんは政務、ユルドさんとアイシェさんは人捜しに戻って、ヴィリアさんは今日だけヴァインさんの様子を見るために残ったそうだ。
リュオは、リュヒと老齢の執事さんを見守られながら、渋々訓練場の整地を行っている。
話が終われば、ヴァインさんにも行ってもらうつもりだ。
そして、俺の動作を見たヴァインさんが一言。
「もしかして、妹とそういう関係かい?」
「はい」「んな訳ないだろ」
ヴィリアさんと声が重なる。
回答は違ったけど、息が合っているね、俺とヴィリアさん。
でも――。
「そういう関係です」
「……違うわ! 馬鹿たれ!」
ヴィリアさんにしばかれる。
「まだみたいです。でも、ヒモです」
「居候みたいなモノだよ」
一つ屋根の下なのはどちらにしても同じだから、肩書なんて気にする必要ないのに。
「漸く妹にも春が……」
「信じるんじゃないよ!」
泣きそうになっていたヴァインさんが、ヴィリアさんに叩かれた。
その光景を見て、エレールさんがクスクス笑う。
うーん。家族って感じの空気感。
俺もいつか。
……で、ここからは真面目な話。
「それで、どうでした? 『神脚』は?」
「申し分ない。脚だけではなく、歳で衰えていた体全体が、全盛期の頃のように動く事ができた。ありがとう」
「それならよかったです。でも、てっきり不機嫌になるモノかと」
「不機嫌?」
「はい。言ってしまえば、反則のようなモノですから。こんなモノを力と認めるかあー! みたいな事を言われるかと」
「確かにそうかもしれんが、力は力。どう使うか、どう思うかは人それぞれ。自分としては受け入れているし、更に上の段階に踏み入れる事ができて満足している」
それが嘘ではないと、ヴァインさんの表情は晴れやかだ。
「強くなる事に躊躇いがないというか、貪欲だからね、こいつは。体裁は保っているけど、内心だと飛び上がって喜んでいるよ」
「妹の言う通りだ」
ヴィリアさんとヴァインさんが、揃ってうんうんと頷く。
兄妹なんだな、と思う。
「神脚」についても聞く。
なんでも、「神脚」を付けた時に、どこまで強いのかが感覚的にわかり、「神脚・解放」についての情報も頭の中に流れてきたらしい。
――「神脚・解放」。
ものすごく簡単に言えば、通常状態は強い脚で、解放状態だと真の力を発揮した超強力な脚。
ヴァインさん曰く、色々と枠が取り外される感覚だそうだ。
……人間やめました。かな?
確かに、ありえない動きしてたし。
ただ、使用して十数秒で気絶するくらい、エネルギー消費が激しいらしい。
使いどころの見極めは必要だけど。
「でも、すごい脚って事ですよね?」
「そういう事だ。それだけの脚をもらったのだから、何か困った事があればいつでも頼ってくれ。力になろう」
「じゃあ、ヴィリアさんに関する事を教えてもらえるのなら、それで」
「余計な事を聞くんじゃないよ」
スパン、とヴィリアさんにしばかれる。
「ははは。それぐらいでいいのなら、いくらでも語ろう。あとは、慣れてないというのもあるが、この脚の大き過ぎる力に振り回されてしまう。もっと使いこなせるように訓練しないとな」
そこで何か思い当たったのか、ヴァインさんがヴィリアさんを見る。
「……ヴィリアの家に空きはあるか?」
あっ、不滅の森で訓練するつもりだ。
「馬鹿言ってんじゃないよ。元々ハクウが今使っているのが客室だったんだ。空きはないよ」
「なら、隣に建てるか」
「はあ? 不滅の森の中に住むつもりかい?」
「悪くないだろ? 魔法でここに来れるし、家は結界で守られている。強い魔物が多いから訓練場所として最適だ」
リュオに突っかかっていきそうだ。
「馬鹿言うんじゃないよ。あんたが良くても、エレールはどうするんだい?」
ヴィリアさんとヴァインさんの視線が、エレールさんに向けられる。
エレールさんは困った表情で答えた。
「さすがに、不滅の森で生活するのは……」
きっと、エレールさんの反応が普通だと思う。
ただ、俺は今猛烈に嫌な予感がした。
今直ぐここから出た方がいいような気がする。
でも、行動を起こすのが遅かった。
「師匠! ここに居られたか! ワシも師匠と共に不滅の森に行くのにあたって、必要な物がないかどうか聞くのを忘れていて、今から準備しようにも」
「はいはい、シュミットさん。向こうで話を聞き」
連れ出そうとしたが、俺の肩が力強く掴まれる。
「……離してくれませんか? エレールさん」
「私の尊敬する『至高の鍛冶師』シュミット氏の師匠ってどういう事ですか?」
「いえ、シショウってあだ名なだけで」
背後からの圧力が増す。
そんなので騙されません、と。
いや、商店街ではそれで通じるんだけど。
「師匠、この者どもは?」
仕方ないので説明する。
結果――。
「是非、『至高の鍛冶師』の師事を受けたく」
「ふむ。悪くない。才能としても申し分ない。構わんぞ。ワシと共に不滅の森へ来れるのなら」
エレールさんが作った見事な金細工を見て、シュミットさんが認める。
ヴァインさんとエレールさんも、シュミットさんと同じく、不滅の森に戻る時に付いてくる事になった。