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初めて、だと思います

 ――「ヴァイン・フィス・マスターレ」。

 戦いを生業としている者で、この名を知らぬ者は愚か者かモグリとまで言われているほどに有名な武闘家。


 世界に轟く肩書は「武神」。

 軍隊を一人で壊滅させたとか、大型魔獣を単独撃破したとか、武闘大会を荒らしまくってどの武闘大会でも出禁になっているとか……色々とウワサが出回っている。


 本人曰く、大体本当の事。

 あと、弟子も世界各地に居るらしい。


 それで、そんな人物が両脚を失うほどの状態になったのは、付き添いの女性を助けるため。

 というより、この付き添いの女性との関係は、親子。


 つまり、娘。

 ――「エレール・フィス・マスターレ」。


 超一流の金細工職人として名が通っていてそうだ。

 本人に戦闘能力はなく、父親であるヴァインさんに護衛をお願いして、不滅の森で素材集めをしていたらしい。


 といっても、今回が初めてではなく、これまでに何回も行っている事。

 それでも油断なく、最大限の警戒で行っていたそうだが、不測の事態はいつだって起こる。


 簡単に言えば、強い魔物に強襲された。

「武神」と呼ばれるほどの人物であったとしても、不滅の森という場所では、誰かを守りながら無事に済ませるのは困難だったのだ。


 結果として、両脚を食われた瞬間に、拳による渾身の一撃を食らわせて魔物は倒したそうだが、問題は受けた傷の方。


 このままでは危険であり、手持ちのポーションも魔物との戦闘でほぼ使い切ってしまっていて、残りわずか。


 当然、両脚だけではなく、他にも多くの傷を負っていて、残りわずかなポーションではもたない。


 ただ、幸いだったのは、そこからヴィリアさん家まではそれほど遠くなく、何度か来ていたヴァインさんがその場所を知っていた事。


 それと、ヴィリアさんから万が一の保険として、ヴァインさんが瞬間移動魔法の使用方法を教わっている事と、そこに知り合いが居たという事があった。


 なんと、知り合いというのがディナさん。

 正確には、そのディナさんの旦那さんである帝国最強と呼ばれている人が、ヴァインさんの弟子の一人だそうだ。


 で、一縷の望みを賭けて、ここに。

 そのあとは、俺が見ていた通りだ。


 というヴァインさん親子の説明を聞いていると、ヴィリアさんが入ってきた。

 そのままヴァインさんの下へ駆け寄り、呆れ顔を浮かべる。


「事情は聞いたよ。……まったく、あんたはいくつになっても無茶をする」


「ははは。すまんな、心配させて。だが、こうして無事だ。それは喜べ。それと教えてもらっていた魔法が役に立った。今回ばかりは助かったぞ」


「……本当にね。エレールも無事でよかったよ」


「ええ、なんとか。今回ばかりはさすがに危ないと思いましたけれど」


 そう言いつつも、ヴィリアさんはどこか安堵しているように見える。

 入口の方に視線を向ければ、ユルドさんとアイシェさんが居た。


 俺に向けて手を振っているので振り返すが、ちょっと疲れた様子に見えるのは、急いで戻ってきたからかもしれない。


「とりあえず、ハクウ。よくやったよ。あんなんでも兄は兄だからね。ありがとう」


 そんな言葉と共に、ポンポンと頭を優しく叩かれる。

 急いで振り返るが、ヴィリアさんはラロワさんとエレールさんを交えて、ヴァインさんと話していた。


 ……今、褒められました?

 頭、ポンポンされました?


 確証が持てないので、もう一度お願いしたいんですけど。

 もちろん、言葉付きで。


 角度的に見えていたであろう、入口側のユルドさんとアイシェさんに視線と仕草で確認。

 ……されてたみたいです。


 夢、幻ではない模様。

 全力ガッツポーズを決めたい気分。


 思えば、これまでに数々の事を行ってきたが、こうして褒められるのは初めてではないだろうか?


 これは、前進。

 ヴィリアさんとの関係に一歩前進した、と俺は判断します。


 きっとここからLOVESTORYが始まるはず。

 俺はいつでも受け入れ態勢万全です。


 商店街ガイドマップによるデートプランもパーペキ。

 頭の中で予習復習は何度も行った。


 俺に……死角はない。


 それでも怖いので、もう一度予習復習をしておこうかな? と思った時、少し残念そうなヴァインさんの声が聞こえてくる。


「しかし、この脚では今から鍛え直しても、もう前のようには動けんな。仕方ないとはいえ、それだけは残念だ」


「命が助かってまで言う事かい」


 そんな会話が聞こえてきたので、ついつい見てしまう。

 今はこんな状態だとヴィリアさんに見せていたのでよくわかった。


 確かに、上半身はものすごく鍛えられているのが見てわかるレベルなのだが、下半身――両脚は、なんというかこう……特別鍛えていない、普通って感じ。


 上半身とのアンバランス感がすごい。

 でも、こればっかりは仕方な……両脚……脚………………あっ。


「それ、どうにかなるかもしれませんけど?」


 全員の目が俺に向けられる。


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