モノホンです
リュオとリュヒの行動が朝早いので、最近は早寝だ。
なので、そろそろ寝ようかな、と支度をしていると、ラロワさんが現れる。
「ハクウくん。夜の店に興味ない?」
「詳しい話を聞きましょうか」
元々そのつもりだったのだろう。
実際に行く事になった。
そうして向かったのは……夜の商店街。
もう響きがヤバい。
お店の外観はそんな風には見えないが、呼び込みの人も居るし、きちんと看板が出ている。
――「ナイト・バニー」。
それがお店の名前。
ラロワさんは慣れているのは、自然体で中に入っていく。
俺は……ビクビクしていた。
だって、こんなお店来るの初めてだし。
そのままラロワさんのあとに付いていくと、奥に案内されて、辿り着いたのは個室。
そりゃそうだ。
何しろ、ラロワさんはこの国の王で、シュミットさんは有名人。
普通の席に案内される訳がない。
ただ、そこにシュミットさんが居た。
ラロワさんが秘密裏に呼んでいたそうだ。
そして、とても柔らかいソファに座り、待っていると……。
「さて、ハクウくんのお気に入りの子は居るかな?」
ラロワさんがニヤリと笑みを浮かべるが、気にしていられない。
今、目の前に三人の女性が並んでいる。
三人の女性が俺に向けて挨拶してきた。
「どうも、初めまして! ミニョンって言います! よろしくね!」
白髪白うさ耳の可愛い系女性が、ニコッと笑みを浮かべた。
雰囲気も同様に可愛いらしく、白色のバニースーツを着ている。
「……初めまして。カルムと言います」
黒髪黒うさ耳の美人系女性が、表情を変えずにそう言う。
クールっぽい雰囲気で、黒色のバニースーツを着ている。
「やっ! パッシオンって言うんだ! 仲良くしてくれると嬉しいな!」
赤髪赤うさ耳の元気系女性が、ピースサイン付きで満面の笑みを浮かべる。
元気一杯という雰囲気で、赤色のバニースーツを着ている。
だが、何よりも重要なのは、コスプレではないのだ。
そう……全員、ウサギの獣人なのである。
つまり、モノホン。
モノホンのバニー。
「え、いや、その……ええ……」
慣れない俺がもたついている間に、可愛い系と元気系がラロワさんのところへ。
クール系はシュミットさんのところに行ってしまった。
俺、ポツン。
……出遅れてしまった。
「まさか誰も選ばないとはね」
ラロワさんがそう言う。
いえ、緊張で選べなかっただけです。
このまま一人寂しく飲むか……。
「やっぱり、義母を落とそうとしているくらいだし、ママじゃないと駄目みたいだね」
「……ママ?」
そして、最強が現れる。
「本当に私でいいのかしら? 若い子たちの方がいいと思うんだけど? ……初めまして。このお店『ナイト・バニー』の店長のメールと言います。どうぞ、ごひいきに」
黒髪黒うさ耳なのはクール系と変わらないが、雰囲気がまるで違う。
――妖艶。
溢れる色気がすさまじい。
何よりグラマラスな熟れた体にバニースーツってのが……もう……。
そんなママさんが俺の隣に座って、飲み物を用意して手渡してくれる。
「どうぞ」
「は、はひ」
そう返事する事しかできなかった。
………………いかんいかん。
俺にはヴィリアさんという人が居る。
まだ正式にそういう関係にはなっていないけど。
でも、モノホンのバニーはヤバい。
「はっはっはっ! いや、ハクウくんの態度を見ていると若い頃の自分を思い出すね。自分も若い時はこうだったと思い出す」
「師匠に対しての不作法は許さんぞ」
「すまない。そういう意図はないよ。楽しんで欲しいだけ。気楽にして欲しいだけ。それに、ここでないと、秘密の話はできないからね」
少しだけ緊張が解けてきたので、ラロワさんとシュミットさんの会話が聞こえてきた。
「秘密の話?」
「そう。たとえ王城であったとしても、いつの間にか秘密が漏れていた、なんて事はある。外に漏らせない会話は、そういう不安がないところで行いたいからね」
ラロワさんがそう答えてくれるが……。
「それが、ここ?」
「そう。ここは一見すると夜のお店だけど、別の側面もある。それは、ここはコーポジレット大国が誇る諜報部隊が運営しているお店だという事。国内外問わず、様々な情報がここに集められている」
「……と、いう事は?」
周囲に視線を向ければ、シュミットさんは特に気にする事なくお酌されていたり、女性陣からは笑みを向けられたりする。
「このお店に勤める者は、全員その諜報部隊の隊員で、ママであるメールはその統括――諜報部隊・隊長だよ」
メールママさんに視線を向ければ、妖艶な笑みを向けられる。
……わーお。
そんな風にしか言えない。
……というか、夜のお店を楽しむんじゃなくて、真面目な話をしに来ただけのようだ。
……それはそれで精神的に助かるような、でも残念なような。