面倒な人に目を付けられました
正直、面倒。
まず、国持ち資金で「上位変換」された剣は――。
『 無銘の剣(完品)
人が作製できる剣において、頂点に位置する剣。
聖剣、神剣と比べても遜色はない。
ただし、それは剣身部分の強度や切れ味において、という注釈が付く。
言うなれば、攻撃力が高いだけの、なんの付与もないただの剣。
複製金額 白金貨 24枚 』
こうなった。
それは別にいいし、3本で「上位変換」できたので、そこまで費用がかからなくてホッと安堵……いや、高額高額。
3本って剣の本数で数えちゃいけない。
これで「至高の鍛冶師」がやる気を取り戻したのなら、安いモノだとラロワさんは笑っていたけど。
ちなみにこの完品の方は、そのままラロワさんに献上された。
元以上が取れているような気がしないでもない。
嬉しそうにするのは構わないですけど、本当に気を付けてくださいね。
攻撃力と切れ味は、マジで一級品らしいので。
「ま、まあ、アレだな。アレなら、わ、我の尻尾や体の一部を落とす事も可能……い、いや、そんな事はないぞ、うん。我は竜王だからな」
リュオもちょっとビビってたくらいだし。
それで、上がある事を知った「至高の鍛冶師」はやる気を取り戻し、再び槌を手に取った。
孫である少女も喜び、万々歳。めでたしめでたし。
……で、終わってくれなかった。
ここから面倒な事になったのだ。
「頼む! もう一度あの剣を見せてくれ!」
やる気を取り戻してから、「至高の鍛冶師」が「上位変換」した無銘の剣を見に来たがるようになった。
新しい剣を作製するための参考にしたいそうだ。
それは自分のだから返せ、とか言わない辺りはさすがだと思うけど。
ただ、問題なのは、一日に何度も来るという事。
数分だったり、数時間だったり、滞在時間はまちまちだが、本当に何度も来る。
しかも、「至高の鍛冶師」と呼ばれている存在なため、無下にもできない。
だからだろうか。
疲れたラロワさんが折れた。
俺が用意した剣だとバレて……「至高の鍛冶師」は俺のところへ来るようになった。
「これから弟子として、よろしくお願いする!」
もう何度目かわからない言葉を聞く。
今、俺の前には、小柄だがムキムキ筋肉の男性……というか、おじいちゃんが頭を下げている。
俗に言う、ドワーフ。
白髪で貫禄のある顔立ちに、髭もじゃ。
服装は職人服とでも言えばいいのか、ツナギを身に纏っている。
若々しくはないが、だからといってそこまでおじいちゃんという訳でもない。
この人物が、「至高の鍛冶師」――シュミット・グローター。
ドワーフは長命な種族の一つらしいので、もしかすると孫である少女って……。
いや、深くは考えまい。
「いえ、大丈夫です」
もう何度目かわからない言葉を告げる。
が、「至高の鍛冶師」――シュミットさんも諦めない。
「そこをなんとか!」
「いや、そもそもが、なんとかになっている部分がないですよね?」
本当に引いてくれない。
「というか、まず、俺は鍛冶師じゃないんで」
「なんと! 鍛冶師でもないのにあの剣を! 神よ! 師匠は、ワシにまだまだ精進しろと、鍛冶の神が遣わした御使いという訳か!」
「いや、違います」
俺を御使い認定するのはやめろ。
それと、師匠呼びもやめてくれませんかね?
「というか、お孫さんは一緒じゃないんですか?」
「あれは鍛冶師としてまだまだだが、ワシと同じく筋がいいので、ワシが師匠のおかげでやる気を取り戻したとわかった途端、己の腕を高めるために鍛冶場に籠りっ放しになってしまった。おそらく、ワシと同じく師匠の剣を目標に定めたのだろう」
やれやれ、と言いたそうだが、シュミットさんの表情はどこか嬉しそうだ。
孫が同じ道に進んで嬉しいのかもしれない。
「だから、師匠呼びはやめてください。そもそも、本当に鍛冶師じゃないですし、興味があるのはゴーレム製作の方なので」
「ゴーレム! いいな! なんだったら、ワシにも手伝わせてください!」
「いや、それは……」
待てよ。
目の前に居るシュミットさんは、「至高の鍛冶師」と呼ばれるほどに腕の立つ鍛冶師。
この人にゴーレム製作を手伝ってもらえば………………騎士ジンをもっと強化できるんじゃない?
それこそ、量産機じゃなく、採算度外視の試作機やワンオフクラスの下地が……。
……いや、駄目だ。
手伝わせると、そのままなし崩し的に師匠になってしまう可能性が高い。
それに、他の人にお願いしようとしているから……まずはそこからの返事待ちって事で断ろう。
「……という訳で、えっと……確か『ブランジューロ師』に頼む流れなので大丈夫です」
きっぱりと言う。
これで大丈夫……ともならなかった。
「ブランジューロ……だとぉ」
……あら? 怒気が漏れていらっしゃる。
「上! ワシの方が上! あやつより、ワシの方が上だから!」
地雷を踏んでしまった感がある。
シュミットさんは余計意固地になってしまう。
「いや、それに、ここには一時的に居るだけで、本拠地は違うんで」
「では、ワシもそこに行く! 師匠と共に行くぞ!」
……う~ん。迂闊な事を言った感がある。
何がなんでも付いて来そうで怖い。