完全ではなかったようです
「だからな! 我の仮説が正しいければ、ハクウは無事なのだ!」
リュオの必死の証言。
何しろ、その相手は――。
「でも、さすがに投げるのはどうなの? 私もリュオの仮説を信じたいけど、実際にドラゴンブレスを食らったところは見ていないし、不安なのだけど?」
リュヒだった。
確かに、リュヒはあの時居なかった。
だから、信じたい……といったところだろうか?
疑いたくはないんだけど、さすがに投げるという行為はちょっと……と常識的な判断をしているのかもしれない。
まあ、無事だったんだけどね。
「大丈夫! 大丈夫だから!」
リュオとしては確信があるけど、証拠がないので信じてもらうしかない、といったところか。
ちなみにだけど、他の人たちとしては……ラロワさん一行――コーポジレット大国の人たちは、リュヒ側だ。
ただ、ヴィリアさん。ユルドさん、アイシェさんは、中立というか傍観に徹している。
多分だけど、不滅の森でのカマキリの魔物のヤツでも無事に戻ってきたから、また普通に戻って来そうだと思っているのかもしれない。
まあ、無傷で戻って来ているんだけど。
しかし、アレだな。
ここまでくると、リュオの仮説を信じたくなるが……それはそれで、今この状況だと、リュオの仮説を証明するようなモノだから出て行きたくない。
でも、水の高位精霊を待たせるのもなんだし……仕方ないか。
「そ~れ!」
リュオとリュヒの議論を中断させるため、「D五六四零八ー」を放り投げる。
地面に突き刺さるが、リュオの目の前だったのは偶然だ。
危ない危ない。
竜に対する固定ダメージだから、かすらせるのも危険だ。
ギリギリだったのは手が滑っただけ。
ワザトジャナイヨ。
ただ、剣を投げた事で、リュオが俺の存在に気付く。
「危ないではないか! ハクウ!」
「投げてくれたお礼の一つだよ。ドキドキしただろ?」
「心臓が飛び出るかとおも……ハクウ!」
どうしてそこで驚く。
俺が生きていると思っていたんじゃないのか?
リュオに対して疑惑を抱きつつ、俺は無事でした、とアピール。
リュヒやラロワさん一行に、どうやって生き延びたかを説明。
「……可能か不可能か、どちらかといえば、不可能じゃないかしら?」
リュヒの言葉に、ラロワさん一行も頷く。
俺もそう思うけど、無事だったのだから、それでいいじゃない。
ただ、どこか自慢げにしているリュオは放置しておいた。
それと、やっぱりと言うべきか、ヴィリアさんたちは俺が生きていると思っていたようだ。
「無事戻って来たね」
俺の姿を見て、ヴィリアさんが笑みを浮かべながらそう言う。
「つまり、それだけ俺の事を信頼してくれているって事ですね?」
「はいはい。そういう事でいいから、さっさとあの場を静めてきな。水の高位精霊のところに行くんだろ?」
「そうですね。待たせて何が起こるかわからないですし」
水の高位精霊は、そういうタイプな気がする。
なので、投げた剣を回収しつつ、水の高位精霊についての話をして、もう大丈夫だと全員一緒にヒュルム湖まで行く。
その途中、リュオがどことなくビクビクしていたのは、また流される事になるんじゃないかと思っていたのかもしれない。
特にそんな事は起こらず、ヒュルム湖に辿り着く。
水の高位精霊が出迎え、もう落ち着て大丈夫だと伝え、「浄化じょうろ」と「精霊転移門」を用意してもらう。
代表としてラロワさんが水の高位精霊に渡すのだが、その際、このような事態を起こした国の王として申し訳なかった、みたいな事を言って謝った。
俺、リュオ、リュヒを除く全員が、水の高位精霊に向けて頭を下げる。
リュオとリィヒは……まあ、下げる必要はない。
何しろ、元々関係ないのだし。
でも、俺はどうなんだろう?
どう考えても人サイドが悪行の結果だし、下げた方がいいような気がしないでもないけど、水の高位精霊の俺に対する態度から察するに、下げると余計な事を口走りそうで怖い。
「神からのお手紙と、神の御使いであるハクウさまに免じて、今回限りで許します。ですが、もし次があれば容赦はしません。人の国が滅ぶと」
「ちょいちょいちょい!」
言い切る前に、水の高位精霊を連れて隅に移動する。
まさかいきなり口走るとか!
少々お待ちくださいとお断りを入れてから、水の高位精霊に小声で話しかける。
「神の御使いの件は内緒だって」
「ああ、そうでした。当事者ではありませんが、人と見ると複雑な感情が溢れてしまい……つい……」
申し訳ありません、と水の高位精霊が謝る。
落ち着いた事は落ち着いたけど、まだ闇堕ちは抜けてないのかな?
そういう事なら仕方ないので、水の高位精霊には、大丈夫だと伝える。
問題なのは……。
『………………』
御使い? と俺に窺うような視線を向けているみんなである。
「……俺が手紙を持ってきたから、そう思ったんだと思います」
「そうです。その通りです。誤解させたようですね」
水の高位精霊と協力して、それで押し通す。
ラロワさん一行はそれで納得してくれたけど……ヴィリアさんたちと、リュオとリュヒからは、そういう事にしておこう、という雰囲気だった。