これは無理だと思いました
闇堕ち女性が手紙を読んで、泣き崩れた。
これで落ち着いてくれるみたいなので、その時を大人しく待つ事にした。
………………。
………………。
あまりにも暇だったので、「生命の核」を使用した三体合体について、木の棒で地面に描きながら真剣に考えていると、声をかけられる。
「それはなんですか?」
「俺の中で三体合体といえばゲ〇ターなんで、それを元に……」
答えながら、ふと気付く。
今、声かけてきたの誰?
声が聞こえてきた方に視線を向ければ、闇堕ち女性がいつの間にか近くに居て、俺の手元をのぞき込んでいた。
「えっと……どうも」
「どうも」
そう挨拶を返してくれる闇堕ち女性に、先ほどまでの雰囲気は感じられない。
寧ろ、何か憑き物のようなモノがなくなり、落ち着いた雰囲気だ。
改めて、闇堕ち女性に向き直る。
「それで、水の高位精霊……で合っていますか?」
「はい。先ほどまで、我を忘れてしまっていた、愚かな水の高位精霊です。神の御使いさま」
「………………」
「………………」
「え?」
「え?」
今、俺の事をなんて呼んだ?
「……神の、御使いですか?」
自分を指差しながら聞いてみる。
闇堕ち女性――水の高位精霊は、その通りだと頷く。
「違いましたか? 神からの手紙を届けたのですから、普通の人には無理です。それに、気配も人とは違いますので」
……それな。
「そんなに違いますか?」
「心が落ち着いた今であれば、よりハッキリと違いがわかります。人ではなく、神の御使いさまであると」
「そうですか……」
ちょっと俺にはわからない感覚だけど、確信を得ているようなので否定は通用しなさそう。
なら、いっその事……。
「あの、できれば、それは内密でお願いします」
やらか神の御使い認識は嫌なので。
「わかりました。そうですよね。世に知られてしまうと、人がゴミのように群がって大変ですものね」
……ん? まだ闇堕ちしているのかな?
「と、とりあえず、手紙で落ち着いたのは間違いありませんか?」
「はい、もう大丈夫です。この度は、色々とお手を煩わせたようで申し訳ございません。先ほども、神の御使いさまを流そうとしてしまいましたし」
「いえ、それは気にせず。それと、気軽に『ハクウ』と呼んでいただければ」
「そうですね。かしこまりました。ハクウさま」
「いや、普通に、気軽に『ハクウ』と」
「かりこまりました。ハクウさま」
うん。これは駄目だ。
それは譲れません、と顔に書いてある。
「それで、ハクウさま。これから私はどうすればいいのでしょうか? 正直、この湖がこれからもこのままですと、いつまた前の状態に戻るかわからないのですが?」
「ああ、それは大丈夫。解決策は用意しているから」
「まあ! さすがです。ハクウさま」
なんだろう……何を言っても全肯定されそうで怖い。
とりあえず、「浄化じょうろ」と「精霊転移門」を……あっ、そっちは渡されてないや。
水の高位精霊にそういう道具がある事を説明して、ラロワさんたちを迎えに行こうと思うんだけど……。
「申し訳ございません。私は今ここに束縛されているようなモノですので……」
「ああ、それは気にしないで」
確か、「精霊転移門」の説明に、そんな事が表示されていた。
今俺が気になっているのは別の事。
俺は自分が飛んできた方向……削れた大岩の方を指差す。
「方角、あっちで合ってる?」
「少々お待ちを。人の気配には敏感ですので……」
だろうね。
これまでここから迎撃してきたんだろうし。
でも、探ってくれているのだが、中々見つけられない……というよりは、人が集まっている場所がいくつかあるそうだ。
そのどれかがわからない、と。
「え? そんなに近辺に居るの?」
「津波が届かない付近に居ます。ハクウさまが探し求めている者たち以外は、おそらく盗賊とか、そういう類いの者たちでしょう」
上手い具合に隠れているのかな?
水の高位精霊にはバレているけど。
あとでその場所を聞いて、ラロワさんに教えておこうかな。
でも、そうなってくると他との違いなんて……あっ。
追加情報として、リュオとリュヒ――竜が居る事を伝える。
「ああ、私が撃ち落とした、あの無様な竜の事ですね」
……できれば、穏便な方向で話が終わって欲しいな。
ただ、それでわかったのか、削れた大岩の横にある道をそのまま進めば合流できると教えられた。
「ありがとう……ちなみに聞くけど、ここの地面がえぐれと、大岩が削れている理由って」
「津波の発射台です」
だよね。
そうだと思った。
という訳で、水の高位精霊にはここで待ってもらい、俺は合流を目指すべく向かう。
ほどなくして近場まで戻る事ができたが、騒がしい声が聞こえてくる。
一体何事かと近付いて様子を窺うと、リュオが俺を投げた事について必死に弁明していた。




