忘れません
水の高位精霊に手紙を届けるのに失敗したリュオは、激しく落ち込んだ。
原因は、空を飛んでいこうとしたら、上手く撃ち落とされてしまった事。
なんでも、水レーザーの威力自体はそうでもないが、突進力というか勢いの圧が半端ではないらしく、その上、空中で踏ん張りが効きづらいという事もあって、あんな簡単に撃ち落とされてしまったそうだ。
ぼそぼそとそう述べるリュオから、それだけ聞くのは大変だった。
今は竜の姿なのに器用に体育座りして、遠くを眺めている。
同じく竜の姿へと戻ったリュヒが、その背を撫でて慰めていた。
……頑張った。うん。頑張ったよ、リュオは。
ただ、結果に結びつかなかっただけ。
たとえ条件があったとしても、自ら行動して、助けようとしてくれた事が大切だよ、うん。
とりあえず、頭を下げた事は根に持つ事になるかもしれないけど。
なので、再び水の高位精霊の下へ向かう手段を失ったため、ラロワさんたちは緊急会議を開き、今は頭を悩ませている。
そう簡単に解決策は出ないようだ。
実際、勢いでいけないかと、護衛で共に来ていた騎士さんたちが突貫したが、津波で綺麗にも押し戻されてきた。
その時だけ、リュオは優しい表情を浮かべていた。
まるで、仲間を見つけたと言わんばかりに、優しい目で騎士さんたちを見ていたものだ。
けれど、解決は何もしていない。
ここでずっと立ち往生し続ける訳にもいかない。
なので、俺も考えてみる。
……確実なのは、俺単体では無理だという事だ。
まず間違いなく、津波に押し戻される。
それは確か。
なら、他の協力者と共になら、と考えてみる。
……たとえばヴィリアさんと行った場合。
一緒に押し戻される事になるだろうな。
でも、重要なのは、一緒にという事。
離れては危険だと、手を繋ぐ、もしくは抱き合う事になる。
絶叫系アトラクション的な?
……いいかもしれない。
でも、将来の息子の前でその姿を見せるのは……ちょっと。
却下だな。
というか、真面目に考えよう。
どのような行動を取ろうとも、この中で最も成功率が高そうなのは、やはりリュオとリュヒ。
だって竜だし。
ただ、津波を避けるために空を飛べば、あの水レーザーが最大の問題になる。
……待てよ。俺の魔力で……たとえば、あのバカでかい火の玉をリュオの前に出し続ければ、水レーザーでも蒸発してしまうんじゃないだろうか?
でも、下手をすれば間違いなく周囲一帯が焦土化するだろうし、ヒュルム湖も干上がってしまいそうだ。
それは本末転倒というか、そんな周囲に影響を与えないような細かい調整は無理。
良くも悪くも、俺の魔法はピーキーだ。
そのまま考えてみるが、いい案は思い浮かばない。
ラロワさんたちも同様だ。
すると、とうとう復活する。
「我に良案がある!」
立ち直ったリュオが、自信満々にそう言った。
ラロワさんたちは代案がなかったため、再度お願いする事になる。
ただ、リュオは詳細に関して何も言わず――。
「我に任せろ! ただし、ハクウの協力が必要だ!」
と言うだけ。
……俺?
まあ、俺も代案がある訳ではないので、リュオに協力する事にした。
俺は手紙の入った小箱を抱える。
その俺を抱えるリュオ。
「………………いや、待って。ちょっと嫌な予感がす」
「では、行ってくる!」
言い切る前に、リュオは飛び上がった。
空から見ると、よくわかる。
少し遠く、黒い靄の向こう側に大きな湖が見えたので、そこがヒュルム湖だろうという事と、もう逃げられないという事が。
「それで、俺の協力って何? どうすればいいの?」
「状況に身を任せればいい」
不安の残る指示だった。
一回下りない? ちょっと「D五六四零八ー」を手に持って、詳しく話を聞きたいんだけど。
そう提案する前に、リュオが大きく動き出す。
水レーザーが照射され始めた。
左右に大きく、時に回転が加えられ……酔いそう。
そして、水レーザーは段々と数を増していき……遂に弾幕のような面攻撃が……。
「ここだっ!」
そんなリュオの叫びと同時に、俺が前に出される。
えっと、この位置って……。
「俺を盾にするつもりかっ!」
「それ以外に何がある! 我のドラゴンブレスを防いだのだ! いけるいける! それより、その小箱をしっかり守れよ!」
やってくれたな! リュオ!
だが、体勢的に抵抗はできない。
小箱が破壊されないようにアイテムボックスにしまった瞬間、水レーザーをもろに受ける。
「………………無事だな」
特に痛みもないし、濡れただけ。
「よし! これで勝てる!」
リュオの勝利宣言がフラグのように聞こえた。
そのまま俺を盾にして、水レーザーを防ぎながら進むリュオ。
……マジで覚えておけよ。
けれど、もう少しでヒュルム湖に着きそうなところで、フラグ回収。
空を覆わんばかりの巨大津波が発生した。
「いや、これは無理だろ!」
「いや、いける! 我の立てた仮説を信じろ! あとはハクウに任せるぞ!」
……は? 仮説? 俺に任せるってどういう意味?
リュオが振りかぶって……俺を投げた。