異世界転移するようです
どうもこんにちは。ナハァトです。
ちまちま書いていたのが形になったので、投稿する事にしました。
大体20話くらいまでは書いているので、そこまでは毎日投稿します。
楽しんでいただければ幸いです。
では、どうぞ~。
何もない部屋。壁も。天井も。床も。
どうして立っていられるのかも……あれ? もしかして座っている?
もしそうなら、立っていると思っていたとか、なんか恥ずかしい。
それに、こうなってくると部屋って表現も変だ。
……空間。そう、空間。
………………。
………………。
なんだってこんなところに?
というか、どうしてこんなところに居るんだっけ?
いや、そもそもが思い出せない。
こういう時は自分の名前……名前……なんだっけ?
なんか出てこない。
でも、なんとなく思い出した事はある。
確か、道路で蹲っている猫が居て……そこに猛スピードの車が突っ込んできて……運転手は猫に気付かず……猫も動かず……で助けに入って………………あれ? 死んだ? 俺。
ん? ん? と頭を捻っていると、目の前にいきなり扉が現れ、そこからジャー……と水を流す音が響く。
「ふぅ~……出た出た。便秘ってつらい。でも、出た時の体が軽くなった感覚がたまんない。今なら戦神の攻撃だって軽やかなフットワークでかわせるよ」
扉を開けて出てきたのは、人型の発光体。
見た目的には……男性かな?
「あっ、もう来てたんだ。時間ぴったりだなんて、規則正しいねぇ、地球の神は」
なんか俺を見て、そう言っているように見える。
なので、まずは後方確認。
……誰も居ない。
自分を指差すと、発光体が頷いたように見えた。
え? 自分ですか? と言おうとしたが、声が出ない。
口がパクパク動いているような感覚はあるけど。
「あっ、無理に喋らなくてもいいよ。表面に出ている思考は読めるし、そもそもキミは今、魂だけの存在だしね」
「あっ、そうなんですね」
「………………」
「………………あっ、喋れましたね」
「ええ! なんで!」
それはこっちが聞きたいくらいなんですけど。
「ちょっと調べさせてね」
ジロジロ見だす、発光体。
「……なるほど。既にボクの魔力に適応し始めているのか。ここに居る影響かな?」
「意味がわかりません」
「まあ、そう難しく考えなくていいよ。これは所謂、異世界転移ってヤツだから。そこら辺はわかるでしょ?」
う~ん……あっ、確かに、なんかそこら辺の知識はある。
でも、相変わらず自分の名はわからない。
「うんうん。大丈夫みたいだね」
「いえ、明らかに大丈夫ではないと思います」
「名前とかそこら辺の事? それは仕方ないよ。地球に対する未練がなくなるように、そういう部分は消されちゃっているから」
……ええっ!
「まあ、一度死んでいるしね。これからボクの管理する世界の一つで生きていくんだから、第二の人生だと思って、そう悲観せずに」
だから思い出せなかったのか。
理由が判明してスッキリ!
「……キミ、割とこの状況を受け入れてるね。なんかこう、なんでそんな勝手を! とか怒らないの?」
「でも、俺は死んじゃったんですよね?」
「猫を助けた代わりにね」
「猫が助かったのなら本望です」
「猫、好きなんだ?」
「たまりません!」
「可愛いよね~、猫」
「可愛いですよね~、猫」
あはは、と発光体と笑い合って和む。
「それで、俺はこれからどうなるんですか? なんか第二の人生とか聞こえましたけど」
「うん。ボクの管理する世界の一つに行ってもらう」
「どういった理由で?」
「理由? ないよ」
………………。
「強いて言えば、行ってもらうだけで大体完結しているから」
「はあ」
「説明すると、キミに今から行ってもらう世界は、一度邪神が誕生していて……ああ、安心して。既に邪神は消滅しているから。でも、その力の残滓が世界中にあって、それはとてもよくない事なんだ。で、それを打ち消すために、キミを送り込むという訳。ボクの力の性質を宿らせて、ね」
「……つまり、アナタの力を宿した俺が行く事で、世界が安定する感じですか?」
「そうそう」
「……自分で行けない感じですか?」
「正解。降臨できなくもないけど、面倒な手続きが多くて……」
辟易してます、と発光体が肩を落とす。
「それで、その世界に行って何をすれば? その邪神の力を打ち消しに各地へ?」
「それも必要ない。世界に存在するだけで浄化されていくから。だから、生き続ける事を念頭に置いて行動するんだったら、他に何をしても構わないよ。もちろん、世界崩壊とかはなしで。なんだったら、世界征服とかしてみる? それとも、世界最強とかかな?」
う~ん……。
「なんか世界征服とか世界最強とか、ピンとこないですね」
「みたいだね。ちょっと見させてもらっていいかな?」
そう言って、発光体が再び俺をジロジロ見だす。
「……なるほどなるほど。ふんふん。わかったわかった」
何が?
「キミを世界に送る際に恩恵を与えるんだけど、キミの性質に合わせたのにしておくから楽しみにね。体も丈夫にしておくよ。なんだったら顔もいじれるけど、どうする? すっごい美形にする?」
「よくわかんないですけど、元のままで」
「そう? 元だと……なんか冴えない感じだから、多少はいじっておくよ。あと年齢も」
と言われても、そこら辺の記憶はないから判別できないんだけど。
「……うん。これでよし。支度金も用意したから。それじゃ、そろそろいってもらおうかな。生き続けて欲しいから、安全な場所に送るね」
「はあ」
「それじゃ、頑張って生き続けてね。恩恵はあとで確に……へっ……へっ……へっくしょい! あっ」
「あっ?」
視界が暗転した。