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お弁当

スマホの目覚ましを止めて、目を擦り、画面に映し出される時間を確認する。

まだ5時半。

私は今日、月野さんにお弁当を作って行こうと早起きした。

階段を降りてキッチンへ向かうと既にお母さんがエプロンを身につけて立っていた。

「おはよう、お母さん。」

「可憐ちゃん、おはよう。」

私はお母さんと一緒にお弁当を作った。

と言っても、私は卵焼きを作ったぐらいで、あとは昨日の残りやお母さんの作ったおかずを一緒に詰めただけ。

「可憐ちゃんが一緒に作ってくれたなんて、お父さん泣いて喜ぶわ。」

そんなことを言ってお母さんはニコニコしている。

「私は月野さんのために作ってんだけどな……」

それでも、お母さんやお父さんまで喜んでくれるなんてお弁当作ってよかった。

月野さんも喜んでくれるといいな。

私はそんなことを考えながら支度をした。


お昼休みになって2人分のお弁当を持って、月野さんのいるA組を覗く。

教室の中をぐるっと見渡すと、月野さんと目が合った。

「可憐、こっち。」

月野さんが声をかけてくれたおかげで私はすんなりとクラスに入れた。

ただ、他の生徒の視線を集めている気がする。

「月野さんお待たせ。えーっと……」

「ん?」

「実はね、お弁当作って来たんだ。月野さんと私の2人分……」

他の生徒からの視線を感じて、急に恥ずかしくなる。

月野さん目立つし、ベタベタするとあんまり良く思われないのかもしれない。

「そういう事だったんだ。ありがとう。」

そう言った月野さんの笑顔にドキっとする。

「とりあえず座りなよ。」

「あ、うん。いいのかな。」

私は戸惑いながら、月野さんの前の席の椅子に座った。

そして月野さんの机にお弁当を広げる。

「すごいな。」

「別に、ほとんど昨日の残りだから。それにお母さんも一緒に作ったし……卵焼きは私だけど。」

「夕飯こんな豪華なんだ……」

月野さんはボソっとつぶやいて咳払いをした。

「よし、じゃあいただきます。」

「は、はい。」

家族以外にお弁当というか、お料理したものを食べてもらうのは初めてだから少しだけ緊張する。

月野さんは迷わず卵焼きに手を伸ばす。

私は月野さんの口に卵焼きが入って行く瞬間を固唾を飲んで見守る。

「うん、美味しい。」

「ほんと?」

「もちろん。可憐は料理上手なんだな。」

「そんなことないよ……お手伝いで良くお母さんと一緒に作ってるだけだから……」

私は恥ずかしくなって否定する。

すると、何故か月野さんに頭を撫でられる。

「え?え?」

教室で何してるの。

いや、お弁当を持って押しかけちゃった私も大概かな。

恥ずかしさが一周回ってそんな事を考えながら、私は髪の毛を整えるように撫でられた頭を触る。

「そんなに気に入ったなら全部食べて。」

私は自分の分の卵焼きを彼女のお弁当の上に置いた。

その様子を見て月野さんは可笑しそうに笑った。

調子が狂う。


「聞いていいのかわからないけど……」

お弁当を食べ終えた月野さんがそんな前置きをして質問してくる。

「なんでこんなに良くしてくれるんだ?」

「えーっと……」

私もほんとの理由はよくわからない。

純粋に心配だから?

それとも月野さんがかっこいいから?

あとは、お昼は絶対に鈴木さんと一緒に居られないから、って理由もあるかもしれない。

鈴木さんはお昼休みは佐藤さんとどこかへ行ってしまう。

きっと色々なものが合わさってる。

純粋な善意ではないことは確か。

そんな自分がちょっと嫌で胸の奥がぎゅっとした。

しかも、それでちょっといいことして気分になってた事に自己嫌悪がさらに込み上げてくる。

「なんでだろう?」

そんなこと正直に話せる訳もなく、私は苦笑いを浮かべてそう答えた。

「困らせて悪かった。別に深い意味はないんだ。ただ——」

「ただ?」

「あー、うん。同情だったら、やめてほしい。」

「え?なにに?」

よくわからない。

同情?

「……ごめん。忘れて。」

「う、うん。」

月野さんとの間に沈黙が流れた。

しかし次の瞬間、その沈黙はお昼休みの終わりを告げる予冷によって破られた。

「じゃあ、そろそろ……」

「う、うん。今日はありがとう、月野さん。」

「いや、それはこっちのセリフ。」

「そっか。」

「そっかって……」

私たちは顔を見合わせて笑った。

「やっぱり腹黒キャラなんじゃ?」

「もー!」

さっきまでの暗い思考や雰囲気が急にバカバカしく思える。

「あの、月野さん!」

私は勇気を振り絞って笑顔の月野さんに切り出した。

「良かったら、今晩の夜ご飯も作らせてもらえないかな?」

「それは……」

月野さんは少し考え込むような顔をした。

「それってウチでってことだよね?」

「そうなると思う。」

「だったら……」

再び黙り込んだ月野さんは何か決意したように息を吐いた。

「いや、じゃあお願いしようかな。」

「うん!うん!じゃあ昨日のコンビニで待ってるよ。」

そう言って私は逃げるように教室を飛び出した。


そういえば時間、聞いてなかった。

昨日と同じぐらいで大丈夫だよね。

「連絡先交換しなきゃ……」

私は一人つぶやいた。

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