表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/98

一番好き

昨日の文化祭も終わり、今日は一日後片付けだ。

クラスの文化祭実行委員の私は、みんなに分担した仕事をお願いして、残っためんどくさい仕事をする。

横目での子ちゃんと佐藤さんと3人で片付けをしている鈴木さんを見るとため息が漏れる。

でも今はそんな私を気にかけける人はいない。

早く片付けを進めなきゃ。

もし鈴木さんがそばにいたら、きっと心配してくれるんだろうなぁ。


帰りのホームルームが始まる少し前にはほとんど片付けは終わっていた。

教室の端に寄せておいたダンボールの束を校舎裏のゴミ捨て場まで持っていけば、私たちのクラスの片付けは全て終了する。

放課後の居残りはなさそうで胸を撫で下ろした。

「後はゴミ捨てちゃうだけだから、みんなもう帰りの支度してて大丈夫だよ。」

そう言うとクラスのみんなはそれぞれ自分の支度を始めた。

少し騒がしくなった教室で私は畳まれたダンボールの束を持ち上げようとするが、意外とダンボールが大きくて一度にたくさん持つことができない。

何回か往復することになっちゃうかな……

「大丈夫?」

「え……す、鈴木さん。」

私がダンボールをうまく持てず四苦八苦していると、突然鈴木さんから声をかけられる。

「ほら、大きいのは私が持つから貸して。」

「は、はい。」

情けない所を見られたようで私は恥ずかしくなってあたふたする。

鈴木さんが大きいダンボールを含めてほとんど持ってくれたから、私は余った小さいダンボールを少し持つだけでよかった。

「これ、校舎裏のゴミ捨て場まで持っていけばいいの?」

私はコクコクと頷いた。

「りきー!どこか行くの?」

「ゴミ捨ててくる。」

「僕も行く!」

「私と早乙女で間に合ってるから。アンタは待ってて。」

「えーっ!」

の子ちゃんが悲鳴にも似た叫んで不満を露わにする。

その後ろでは佐藤さんがこっちを見ている。

無表情だけど、逆に怖い。

「さっさと捨てに行こう。」

「う、うん。」

私は鈴木さんと並んでゴミ捨て場まで歩いた。

歩幅が大きくてもっと早く歩けるはずの鈴木さんが私のペースに合わせてくれている。

私はもう一歩鈴木さんに近づいて、体が触れないギリギリの距離を保った。


ゴミ捨て場に着くと鈴木さんはダンボールを投げるように置いた。

「貸して。」

私は鈴木さんにダンボールを渡すと、彼女は同じように投げ置いてパンパンと手を払った。

「ありがとう鈴木さん。」

「このぐらい別にいいって。」

「やっぱり鈴木さんって優しいんだね。」

「そう?」

「うん。それにすごくカッコいい……」

私がそう言った時、予鈴が鳴った。

「そろそろホームルームだから戻ろう。」

「あ、うん。」

先に歩き出した鈴木さんの背中を見ていると、少し寂しいと思った。

もっと一緒にいたい。

もし、私じゃなくて佐藤さんやの子ちゃんだったら、そう思うと胸の奥が痛い。


私は鈴木さんに駆け寄って後ろから抱きついた。

「うわっ!」

鈴木さんは少し驚いたように声を上げる。

「まだ、鈴木さんと一緒にいたい。」

鈴木さんは抱きつく私の手を振り解く。

やっぱり私じゃダメなのかな。

「なにかあった?」

鈴木さんは私の方に向き直り、心配そうな顔をする。

「ううん。」

私は首を横に振る。

すると、鈴木さんは私を抱きしめて、後ろからぽんぽんと頭を優しく叩く。

「全然そんな顔には見えなかったけど。」

「ほ、本当になんでもないよ。」

「早乙女は嫌なこと全部引き受けちゃうでしょ。今日だって、一人でダンボール捨てようとしてたし。」

鈴木さんは純粋に私を心配してくれてるんだ。

文化祭の日もそうだった。

鈴木さんのそんな気持ちを利用しているようで、罪悪感を覚える。

でも、それとは裏腹に少し嬉しい気持ちもある。

「ありがとう鈴木さん、ちゃんと見ててくれてたんだね。嬉しいな。」

私は鈴木さんを押すようにして引き剥がした。

「私は本当に大丈夫だよ。」

「なら良かった。」

そう言って優しく笑う鈴木さんの顔を見ると、すごく幸せを感じてしまう。

胸の奥が心地良く締め付けられる。

顔が熱い。

私は顔を伏せて前髪を触る。

こんな感情になるなんて、月野さんが言うように私は性格が悪いのかもしれない。

そう思ってため息をついた。

「やっぱり、もう少し一緒にいようか。」

「うん。」

ため息を聞き、また心配してくれる鈴木さんに私の感情が溢れ出そうになる。

私は再び鈴木さんに飛びついた。

力強く抱きしめる私を優しく受け入れてくれる。

大好き。

やっぱり鈴木さんが一番好き。

でも、一番好きって思うなんて、ニ番目がいるのかな。

きっとなってニ番目は月野さんだ。

本当に最低だと自分でも思う。

でも、そんな自己嫌悪までも鈴木さんの胸の中では、甘く、いつまでも浸っていられる。

私って性悪のクズだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ