一番好き
昨日の文化祭も終わり、今日は一日後片付けだ。
クラスの文化祭実行委員の私は、みんなに分担した仕事をお願いして、残っためんどくさい仕事をする。
横目での子ちゃんと佐藤さんと3人で片付けをしている鈴木さんを見るとため息が漏れる。
でも今はそんな私を気にかけける人はいない。
早く片付けを進めなきゃ。
もし鈴木さんがそばにいたら、きっと心配してくれるんだろうなぁ。
帰りのホームルームが始まる少し前にはほとんど片付けは終わっていた。
教室の端に寄せておいたダンボールの束を校舎裏のゴミ捨て場まで持っていけば、私たちのクラスの片付けは全て終了する。
放課後の居残りはなさそうで胸を撫で下ろした。
「後はゴミ捨てちゃうだけだから、みんなもう帰りの支度してて大丈夫だよ。」
そう言うとクラスのみんなはそれぞれ自分の支度を始めた。
少し騒がしくなった教室で私は畳まれたダンボールの束を持ち上げようとするが、意外とダンボールが大きくて一度にたくさん持つことができない。
何回か往復することになっちゃうかな……
「大丈夫?」
「え……す、鈴木さん。」
私がダンボールをうまく持てず四苦八苦していると、突然鈴木さんから声をかけられる。
「ほら、大きいのは私が持つから貸して。」
「は、はい。」
情けない所を見られたようで私は恥ずかしくなってあたふたする。
鈴木さんが大きいダンボールを含めてほとんど持ってくれたから、私は余った小さいダンボールを少し持つだけでよかった。
「これ、校舎裏のゴミ捨て場まで持っていけばいいの?」
私はコクコクと頷いた。
「りきー!どこか行くの?」
「ゴミ捨ててくる。」
「僕も行く!」
「私と早乙女で間に合ってるから。アンタは待ってて。」
「えーっ!」
の子ちゃんが悲鳴にも似た叫んで不満を露わにする。
その後ろでは佐藤さんがこっちを見ている。
無表情だけど、逆に怖い。
「さっさと捨てに行こう。」
「う、うん。」
私は鈴木さんと並んでゴミ捨て場まで歩いた。
歩幅が大きくてもっと早く歩けるはずの鈴木さんが私のペースに合わせてくれている。
私はもう一歩鈴木さんに近づいて、体が触れないギリギリの距離を保った。
ゴミ捨て場に着くと鈴木さんはダンボールを投げるように置いた。
「貸して。」
私は鈴木さんにダンボールを渡すと、彼女は同じように投げ置いてパンパンと手を払った。
「ありがとう鈴木さん。」
「このぐらい別にいいって。」
「やっぱり鈴木さんって優しいんだね。」
「そう?」
「うん。それにすごくカッコいい……」
私がそう言った時、予鈴が鳴った。
「そろそろホームルームだから戻ろう。」
「あ、うん。」
先に歩き出した鈴木さんの背中を見ていると、少し寂しいと思った。
もっと一緒にいたい。
もし、私じゃなくて佐藤さんやの子ちゃんだったら、そう思うと胸の奥が痛い。
私は鈴木さんに駆け寄って後ろから抱きついた。
「うわっ!」
鈴木さんは少し驚いたように声を上げる。
「まだ、鈴木さんと一緒にいたい。」
鈴木さんは抱きつく私の手を振り解く。
やっぱり私じゃダメなのかな。
「なにかあった?」
鈴木さんは私の方に向き直り、心配そうな顔をする。
「ううん。」
私は首を横に振る。
すると、鈴木さんは私を抱きしめて、後ろからぽんぽんと頭を優しく叩く。
「全然そんな顔には見えなかったけど。」
「ほ、本当になんでもないよ。」
「早乙女は嫌なこと全部引き受けちゃうでしょ。今日だって、一人でダンボール捨てようとしてたし。」
鈴木さんは純粋に私を心配してくれてるんだ。
文化祭の日もそうだった。
鈴木さんのそんな気持ちを利用しているようで、罪悪感を覚える。
でも、それとは裏腹に少し嬉しい気持ちもある。
「ありがとう鈴木さん、ちゃんと見ててくれてたんだね。嬉しいな。」
私は鈴木さんを押すようにして引き剥がした。
「私は本当に大丈夫だよ。」
「なら良かった。」
そう言って優しく笑う鈴木さんの顔を見ると、すごく幸せを感じてしまう。
胸の奥が心地良く締め付けられる。
顔が熱い。
私は顔を伏せて前髪を触る。
こんな感情になるなんて、月野さんが言うように私は性格が悪いのかもしれない。
そう思ってため息をついた。
「やっぱり、もう少し一緒にいようか。」
「うん。」
ため息を聞き、また心配してくれる鈴木さんに私の感情が溢れ出そうになる。
私は再び鈴木さんに飛びついた。
力強く抱きしめる私を優しく受け入れてくれる。
大好き。
やっぱり鈴木さんが一番好き。
でも、一番好きって思うなんて、ニ番目がいるのかな。
きっとなってニ番目は月野さんだ。
本当に最低だと自分でも思う。
でも、そんな自己嫌悪までも鈴木さんの胸の中では、甘く、いつまでも浸っていられる。
私って性悪のクズだ。




