三人の思い出
文化祭が終わり、荷物を置いていた教室で高橋先生のいつも以上に簡単なホームルームが行われた。
それも終わると、園田が私に勢いよく飛びついてくる。
「りき!一緒に帰ろ!」
園田は私を力強く抱きしめながら言った。
「早く早くー!今日、僕予備校でチューターの人と面談なの!」
「わかったから。離れないと歩けない……」
「ほら、佐藤さんも行こ。」
私に引き剥がされながら園田は佐藤に声をかける。
「待って。」
歩き出そうとする私たちを佐藤は引き止めた。
「なになに?」
「いや、その……」
佐藤は言葉に詰まったように俯いて黙る。
「もしかして、後夜祭?」
私は佐藤に問いかける。
彼女が思っていることはなんとなくわかる。
「佐藤さん、後夜祭参加したいの?なんか意外。」
「え?……はい。」
後夜祭のことを知らなかったのか、佐藤は一瞬戸惑うが、すぐに園田の言葉を肯定した。
ただ単に帰りたくないだけだったのかも知れない。
「私は残ってもいいけど。」
「えー!?りきも参加するの?」
園田は少し考え込むように「うーん……」と唸る。
「りきが行くなら僕も行く!」
「いやアンタ予備校は?」
「サボる!ね、佐藤さんもいいでしょ?3人で行こ!」
即答した園田に佐藤も「それがいいですね」と頷いた。
3人で校庭に出てると、外は大分暗くなっていた。
少し風が冷たくて肌寒い。
「りきあっためて!」
園田が私の腕に抱きつく。
「そこまで寒くはないでしょ……」
「えー、ダメなの?」
「ダメじゃないよ。」
園田は「ふふん」と得意げに笑ってさらに強く抱きしめてくる。
すると、園田に抱きつかれた反対の手が握られる。
「なにニヤニヤしてるのよ……」
振り向くと、私の手を握った佐藤が不満そうな顔でボソッと呟いた。
「別にニヤニヤなんて——」
その時、私の声を遮るように歓声が上がった。
校庭の真ん中に組まれたキャンプファイヤーに火がついた。
炎はみるみる大きくなって、校庭を優しく照らした。
「綺麗ね……」
そう言って感嘆する佐藤の横顔は穏やかでとても綺麗だった。
少しすると、音楽が流れ始めて学生たちがキャンプファイヤーの周りに少しずつ集まっていく。
「りき、僕たちも行こう!」
「いやアレってダンスでしょ。私はいいよ。」
「えー!一緒に踊ろうよ。」
「じゃあ、佐藤と行ってきなよ。私は待ってるからさ。」
「え?私?」
「ペアで踊るなら誰か1人余るんだからさ、ほら。」
私が強引に2人の背中を押すと、2人は少し体勢を崩しながら前へ出た。
「ちょっと。」
「りき力強ずぎ!」
そう叫んだ2人はお互いの顔を見つめ合った。
「あははー……どうする佐藤さん?」
「はぁ……あんなのほっといて行きましょう。」
「そうしよっか。」
2人は再び顔を見合わせて笑った。
「後から来ても混ぜてあげないからね!」
園田がそう叫んで、2人は輪の中に入っていった。
「あれ、鈴木さん?」
少し離れた所から佐藤と園田を眺めていると、早乙女に声をかけられる。
「こういうの参加しないものだと思ってた……」
「うん、まあね。」
「一人、じゃないよね?」
「あ、うん。佐藤と園田と一緒。」
「そ、そうだよね。うん。」
早乙女は少し残念そうに言った。
「園田?」
早乙女の後ろにいた学生が反応した。
「え?月野さん、の子ちゃんと知り合い?」
「……いや、なんでもない。」
早乙女は「そう」とだけ返事をしてこっちに向き直った。
「あ、ごめんね鈴木さん。これ月野さん。」
「これって……私は月野はじめ。まあ、よろしく。」
「あ、どうも。」
早乙女の紹介された月野は改めて名乗った。
「それで、この人は同じクラスの鈴木りきさん。」
「なんでもいいけど、一緒に踊るんじゃなかったのか?」
「ちょっと、鈴木さんの前で変なこと言わないでよ!」
「強引に連れてきておいて、まあいいけど。」
「鈴木さん、ごめんね。またね。」
そう言っていつもと少し様子の違う早乙女は月野の背中を押して去っていった。
しばらくすると、佐藤と園田が戻ってくる。
「おかえり、もういいの?」
「うん、なんかみんなイチャイチャしてて僕たち浮いてたから。」
そう言った園田に佐藤も頷いた。
確かに、踊ってる学生はそれほど多くはなく、私にように少し離れた所から見ている人の方が多い。
女子校だし、結構親密な間柄じゃないと後夜祭でダンスなんてしないんだろう。
「案外面白かったわよ。」
「へー。」
私が興味無さそうに返事をすると佐藤は何故かムッとする。
そんなやりとりをしていると、音楽が少しずつフェードアウトしていき、「これから花火を打ち上げます、校舎の方をご覧ください。」という放送が校庭に響いた。
校舎の方を向くと屋上から、様々な形や色の花火が、次々と打ち上げられていく。
後夜祭の花火は毎年の恒例で、園田や私も含めて地元の住民にはお馴染みだったが、こんなに近くで花火を見たのは初めてだ。
佐藤が私の手を握る。
佐藤の方を振り向くと、彼女は穏やかな笑顔で花火を見つめていた。
反対にいる園田は、「わー!」と目をキラキラと輝かせている。
花火も終盤に差し掛かり、校舎から滝のように花火が降り注ぎ、私たちを一層明るく照らした。
私の両隣でその光に照らされた佐藤の優しい顔と、園田の無邪気な顔はとても愛おしく思えた。
永遠に続けばいいのに。
「そうだ。二人とも、反対向いて。」
「どうしたの?りき」
「いいから早く!」
「ちょっと、何するのよ!」
佐藤と園田を半ば力ずくで花火と校舎に背を向けるように体の向きを変えさせた。
私はスマホを取り出してインカメラを起動する。
「ほらもっと寄らなきゃ!」
花火と私たち3人を一緒に写すために、縦にしているスマホの画角に収まるように2人を抱き寄せる。
「じゃあ撮るよ。」
シャッターを切るとこれでもかというぐらい密着した私たちの姿が写し取られた。
滝のように落ちる花火の光で逆光になった私たちの顔を明るく写すために自動で調整され、写真の花火は過剰に明るく光輝いているように見える。
私の胸元に顔を押し付けられながらも満面の笑みを浮かべる園田、私と頬がくっつきそうなほど近くで優しく微笑んだ佐藤。
その二人の間で私はにこやかに笑っていた。
「おぉ!よく撮れてるじゃん!りきすごい!」
写真を撮り終えて園田がスマホを覗き込む。
その時、私たちの背後で花火の破裂音が連続で響いて、その後静まりかえった。
「最後見れなかったじゃない。」
「ご、ごめん。」
「別にいいけど。」
佐藤はそう言って微笑んだ。
「ねえりき、その写真送ってよ。」
「うん。アンタは?」
佐藤は無言で頷いた。
2人にエアドロップで画像を送る。
「ありがとー、りき。壁紙にしちゃおー。」
「私も……」
「お、佐藤さんとお揃いだ。ねえ、りきは?」
「え?私も?」
「嫌なの?」
「そういう意味じゃ……はい、設定したよ。」
怪訝な顔を向けてきた佐藤に押されてすぐに設定をした。
「おぉ、これで3人お揃いだね!」
私は少し気恥ずかしくて思わず照れ笑いをした。
でも、3人の思い出ができたことはなんだか嬉しく思う。
「またニヤニヤしてる……」
設定したロック画面を眺めていると、佐藤に呆れるような表情で指摘された。
更新遅くなってすみません。
これからも頑張りますのでよろしくお願いします。




