文化祭3/3
照れる早乙女を眺めていると、私のスマホのバイブレーションの音が鳴り響いた。
スマホを開いて確認すると、佐藤からの着信だ。
画面に映し出された時間は当番の交代の14時ピッタリだった。
スマホを眺める私に早乙女は不思議そうな視線を向ける。
「交代の時間だって。」
私は佐藤からの着信を切って、早乙女にスマホの時計を見せた。
「そっかぁ……ちょっと残念かも。」
そんな会話をしていると、早乙女に見せていたスマホが再びブーブーと音を立て始める。
今度は大量のメッセージが佐藤から送られてきているようだ。
私は思わず画面を見て苦笑いをした。
「そろそろ、行こうか。」
「うん。」
私は早乙女の手をとって立ち上がった。
教室を出ると、佐藤と園田が二人で待っていた。
「りき、お疲れさま!」
「あ、うん。」
大して疲れることはしてないが、そんなことを考える必要はないのだろう。
園田の明るい態度はなんだかほっとする。
「鈴木さん、ありがとう。」
「うん。早乙女はこの後も働くんでしょ?頑張って。」
「うん!」
早乙女は満面の笑みで頷いた。
「の子ちゃんは受付だったよね?」
「うん!」
「じゃあ、ここでお願いね。用紙のここに——」
早乙女と園田が引き継ぎを始めたので、佐藤の方へ歩み寄るとあからさまに不機嫌そうにふんっと顔を逸らされた。
「行くわよ。」
「ちょっと待って。」
スタスタと歩き始めた佐藤を追った。
「ねえ、どこ行くの?」
「出店で食べ物を買って遅めの昼食にするわよ。」
「え、ごめんもう食べてるんだけど……」
「私は食べてない。」
佐藤はますます不満そうな顔をして立ち止まった。
「流石にまた出店のはなぁ……」
ただ、きっと私のために待っててくれてたのだろうと思うと少し申し訳ない気もする。
「よし、じゃあこっちきて。」
私は佐藤の手を引いて校舎裏へ向かった。
校舎裏へ向かう道はカラーコーンとコーンバーで塞がれていて、それを跨いで校舎裏へ行くと、そこには誰もいなかった。
私たちはあの茂みの中へ入った。
「コンビニ行ってくるからちょっと待ってて。何か食べたいもの——」
「私も行く。」
「えーっと、それ本気?」
「本気。」
「分かった。」
コンビニで買い物をすませて茂みに戻った私たちは、そこで並んで座った。
茂みの中は近くにある講堂からバンドの演奏が聴こえてくる。
「通報されたらすぐあなたってバレるわね。」
「まあ、そうなってもアンタは庇うから安心して。」
「別にそんなこと頼んでないわよ。」
「はいはい。」
私はペットボトルの蓋を開けて水を飲んだ。
「それ少しちょうだい。」
「え?なんで?」
「飲み物買い忘れたのよ。」
「学校の自販機で買ってくればいいじゃん。」
「めんどくさい。」
「はぁ……」
私はペットボトルを渡す。
「なんでそんなに機嫌悪いの?」
「別に。悪くないわよ。」
「もしかして、交代の時間すぐに電話してきたり、教室の前で待ってたり、寂しくて拗ねちゃった?」
だいたい理由は分かっていたが、少し冗談めかして言った。
「みんなと一緒にならないで」とか「特別でいて」なんて、まだ気恥ずかしい。
しかし、佐藤は耳まで赤くして俯いて黙ってしまう。
「あー……冗談です。すみません。」
「ワルかったわね。」
赤面して涙ぐんだ目で佐藤は私を睨む。
「あたなって意地悪な所あるわよね。」
「うん。ごめん。」
ツンケンした態度がたまらなく可愛い。
私は佐藤の頬に手を当てて、そっと彼女と唇を重ねてキスをした。
「謝りながらキスって、なんだかクズっぽいわね。」
「はい。すみませんでした。」
「まあ、許してあげる。寂しかったのも事実だし。」
佐藤はそう言って私に抱きつく。
「でも、まだまだ足りないから。」
今度は佐藤からキスをしてきた。
私もそれに応える。
さっきのキスとは違い、お互いの舌を絡める。
口を離すと佐藤のトロンとした顔があまりにも可愛く思えて、再びキスをした。
私たちは文化祭の終わる16時まで何度もキスをし続けた。




