文化祭2/3
教室の前へ着くと、白装束でお化け姿の早乙女が駆け寄ってくる。
「鈴木さん、待ってたよ。」
「コスプレ?」
「午前中はお化け役をやってたの。どうかな?」
「どうって、まあ、可愛いと思うけど……」
白装束で三角形の布を頭につけているが、顔のメイクは普通だし、髪型もいつものふわっとパーマのかかった短めのツインテールで普通に可愛いが、それはお化け役としてどうなんだとも思う。
ただ、「そっかぁ」嬉しそうに言って頬を手で抑える早乙女に、そこまで喜んでくれるならいいかと、それは言わないことにした。
「早乙女さん、早く交代を終えた方がよろしいのではないでしょうか?」
突然、声がしたので振り向くと、佐藤が入り口の横の受付の机で顔をしかめていた。
どうやら佐藤は午前中に受付をやっていたらしい。
当番の交代の時間で客を待たせていることもあってか、お化け屋敷には十数人の人が並んでいた。
「あ、そうだった。ちょっとだけ急いで。」
そう言って早乙女に私は手を引かれて教室へ入る。
手を引かれながら後ろを振り返ると、佐藤と目があったが、彼女はふんと顔を逸らしてそのまま立ち去ってしまった。
後でご機嫌斜めな佐藤にまた振り回されるんだろうなと思ったが、それもいいかと思えた。
「私は何をすればいいの?」
「鈴木さんは私と一緒に火の玉を動かしてもらうよ。」
「あー、あれか。」
早乙女と私は黒い布とダンボールで作った簡易的な壁の中にある火の玉を動かすためのスペースに入るが、そこは人が二人入るには狭く、またダンボール製の壁を支えるために教室の壁とダンボールの壁を繋ぐ構造が邪魔で直立することができない。
私たちは身を寄せ合って床に直接座り、オモリとして養生テープの芯を結びつけた火の玉を動かすための紐を手に取った。
「ほんとは一人でやる役割なんだけど、鈴木さんと一緒にいたくて……」
早乙女は前髪を触りながら恥ずかしそうに言った。
「そんな職権濫用じみたこと……」
「あ、鈴木さん、人が来たよ。火の玉揺らさなきゃ。」
早乙女はダンボールの壁に空いた穴を覗き込んでそう言った。
穴は早乙女と私の間にあるから、早乙女の体が私にピッタリとくっつく。
「やっぱり二人だと少し狭いね。」
「鈴木さんの体あったかい。」
「そう?」
「うん。この服すこし寒いから……あ、もう通り過ぎた見たいだから揺らさなくていいよ。」
「うん。」
早乙女と私の間に少し沈黙が流れると、彼女は紐から手を離して私の腕に抱きついてきた。
「ちょっと……抱きつかれたら紐を動かせない。」
「別にいいよ。」
「え?」
「ねえ鈴木さん、いつもの子ちゃんにしてるみたいに撫でて欲しいな。」
「別にいいけど……」
私が早乙女の向かい合うように体勢を変えると、早乙女は私から離れて目を瞑った。
ちょこんと女の子座りで俯いて、少しもじもじとする姿はとても可愛らしい。
頭を撫でると早乙女は今度は私の体に抱きついた。
「鈴木さん、あったかくていい香りで、なんだかすごく落ち着いちゃう。」
「それは、よかったです……」
「鈴木さんってかっこいいだけじゃなくて、優しいんだね。」
少しの間、早乙女を撫でていると、彼女は私の胸の中で寝息を立て始めた。
早乙女は昨日も最後まで残って作業をしていたし、今日も朝から休みなく働いている。
「お疲れさま。」
私はこのまま寝かせてあげることにした。
「あれ?私寝ちゃってた……」
早乙女が目を覚ました。
「よく寝れた?」
「うん。」
ふわふわとした声で返事をした早乙女の頭を撫でると、早乙女は私から離れた。
スマホで時間を確認すると、もうすぐ私の当番が終わる時間だ。
「ごめんなさい。私ずっと寝ちゃってた……」
「いいよ。疲れたんでしょ?」
「うん。」
「ずっと頑張ってたんだし、少しぐらい休んだってバチは当たらないって。」
そう言って再び早乙女の頭を撫でる。
早乙女は黙って前髪を触って赤面した。




