おんぶ
食事を終えた私たちは周辺を一通り回った。
その時に、たまに渋谷からこの辺りまで歩いてくることがあると話すと、佐藤は「歩けるの」と目を輝かせた。
「そんな特別楽しいものじゃないよ。疲れるし……」
「一緒に歩きたい。」
そこまで言うならと私たちは渋谷方面へ歩く事にした。
しばらく歩いていると、佐藤が時折り少し遅れて歩くようになる。
「やっぱり疲れた?」
立ち止まり、振り返って少し後ろを歩く佐藤に話しかける。
「大丈夫。」
そう言って佐藤は駆け寄って来る。
その足取りからはまだ余裕を感じられた。
「あっちにスタバがあるから、そこで少し休もうか。」
「そうね。」
私の提案をすんなりと受け入れた佐藤と脇道に入りスターバックスに入る。
「そういえばスタバは知ってるの?」
「知ってるわよ。喫茶店でしょ。」
呆れた顔で言った佐藤は「来たのは初めてだけど」と続けた。
「まあそうだけど……多分アンタの世界のそれとは違う。」
私がマンゴーパッションティーフラペチーノを注文すると、佐藤は「私もそれ。」と同じ物を頼み、二人分の会計をカードで払った。
私たちは中の席が埋まっていたので外のテラス席に座った。
少し恥ずかしい気もするが、ストローを咥える佐藤があまりにも画になっているので気にしないことにした。
甘すぎず、少し酸味のある爽やかな味は佐藤の口にあったようで、彼女は元気を取り戻したように見えた。
休憩を終えて渋谷に着いた私たちは、特に見たい場所もないので私の提案でゲームセンターで時間を潰す事にした。
佐藤は初めてのゲームセンターで、最初こそ興味深そうに見てまわっていたが、やはり疲れているのか、少しテンションが低かった。
佐藤がまた足を止めた時、そこに大きめの熊のぬいぐるみが景品のUFOキャッチャーがあった。
「この熊どう思う?」
「え?」
佐藤はまるで別のことを考えていたかのように力の抜けた反応をした。
「ほら、この中にあるぬいぐるみ。」
「あ、うん。可愛いと思うわ。」
「待ってて。」
「ちょっと……」
私は駆け足で両替機へ行き、1000円を崩して戻った。
硬貨を投入してアームを動かす。
「これ取れるの?」
「うん。」
アームで重い頭を掴み、少しずつ動かしていく。
「全然掴めてないじゃない。」
「こうやってちょっとずらして落とすんだよ。」
「ふーん。」
私がゲームをプレイしていると佐藤は足元を少し気にした様子で、爪先でトントンと地面を蹴っている。
少し退屈させてしまっているのかもしれない、そう思って焦ってしまい、手元が狂う。
すると、せっかくズラしたぬいぐるみがかなり戻ってしまう。
私は慌ててもう一度1000円を両替してきてプレイを続け、なんとかぬいぐるみを落とす事に成功した。
「すごい。本当に取れるのね。」
「いや、1800円もかければね。」
佐藤の称賛が照れ臭くて否定する。
「じゃあこれはプレゼント。」
「え?」
私が差し出したぬいぐるみを佐藤は戸惑った顔で受け取る。
「今日のお礼。全部払ってもらったから。」
「でも今日は私が勝手に——」
「好意は素直に受け取るものなんでしょ?」
ぬいぐるみを少し見つめると佐藤は優しく微笑んだ。
「ありがとう。嬉しいわ。」
「ならよかった。」
その後、私たちは特に何か話すこともなく、ダラダラと時間を潰していた。
「そろそろ時間だわ。」
そう言って佐藤は山崎さんに連絡をした。
私たちは少し離れたパーキングで山崎さんと合流する事になった。
外に出ると完全に日が沈んでいて、少し肌寒さを感じる。
私は歩きだそうとするが、佐藤が立ち止まったままなことに気がつく。
「大丈夫?」
「なんでもないわ。行きましょう。」
澄ました顔で答えた佐藤だが、一歩踏み出すと顔を歪めて足元に視線を落とした。
「ちょっと見せて。」
佐藤をゲームセンターの出入り口のすぐ正面にある歩道と車道の間を仕切る柵に座らせる。
靴を脱がせてカカトを見ると、靴擦れを起こし、靴下に血が滲んでいた。
「何でもっと早く言わなかったのよ。それにこれ通学用のローファーでしょ?どうしてこんなの履いてるのよ。」
「それは学校に行く体で家を出たから……」
「あー。」
「見られたら怪しまれると思って避けたけど、靴も持ってきて履き替えればよかったわ。」
私は佐藤の靴下を脱がせた。
「痛っ……」
そして、ボディーバッグから絆創膏を取り出して彼女のカカトに貼る。
「これでよし。」
「あ、ありがとう……」
「じゃあ急いで待ち合わせ場所まで行かないと。山崎さん待ってるかも。」
そう言って私は佐藤の前でしゃがんだ。
「え?なに?」
「おんぶ。歩くの辛いでしょ?」
「嫌よ。そんな恥ずかしいこと。」
「じゃあ裸足で歩く?」
「分かったわよ。」
私は佐藤をおぶって歩き出した。
「重くない?」
「重くない。」
「ねえ、見られてる。」
最初は黙っておぶられていた佐藤も少しずつ不満を漏らすようになった。
「全然気付かなくてごめん。」
「あなたが謝る事じゃないわ。」
そう言って佐藤は少しの間沈黙した。
「つまらない事言ってごめんなさい、照れ隠しよ。つい。」
「別に気にしないって。」
「迷惑かけてるのに、嬉しいって思っちゃったの。」
そう言って佐藤はため息を吐いた。
「私って嫌な女よね。」
「そんなことないって。」
「ありがとう。でも、優しすぎるわね……」
佐藤は抱きつく力を強めた。
「あなたの体、温かい。」
そう耳元で囁かれて、一瞬ゾクッとした。
更新が開いてしまい申し訳ないです。
二回目のワクチンを摂取したら、発熱はしませんでしたが、ダルさが数日間続きました。
そして気がつけば学校が始まる時期に……
更新頑張ります。
皆様もご自愛ください。




