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教科書
園田と会話をしているとチャイムが鳴り、授業が始まった。
それと同時に佐藤が机を寄せ、私の机とくっつけてきた。
「鈴木さん、教科書を見せて下さい」
転校生にありがちなセリフだが、私には一つの疑問が浮かんだ。
「夏休みに準備できなかったの?」
「転校が決まったのがギリギリだったんです。制服は1週間で届いたのですが、教科書は注文から2週間程度かかるみたいで間に合わなかったんです。ご迷惑でしたか?」
別に教科書を見せる事が嫌だったわけではない。
元から授業を真面目に受けるつもりもなかったから、そのまま渡してしまってもいいぐらいだ。
「私はそんなに見ないから好きに使っていいよ。」
「ありがとうございます。」
二人の机の間に教科書を置くとそのまま私たちは黙った。
授業中だから当然なのだが、なぜだか居心地が悪かった。
「あー、あのさ。」
「はい?」
「敬語やめたら?」
「うん。」
沈黙を嫌って話しかけると、目線を前に向けたままあっさりと返事をされた。
話しかけるなということだろう。




