サボり
スマホの着信音に目を覚ます。
「んんー……もしもし?」
「おはよう。情けない声ね。」
目を擦りながら通話に出ると、佐藤の声がした。
「こんな時間になに?」
寝返りを打って時計を見るとまだ6時前だった。
「今あなたの家の前にいるわ。」
「は?」
カーテンを開けて窓から外を覗くと、高級車にもたれかかってスマホを耳に当てる佐藤の姿があった。
それに何故か佐藤は私服を着ていた。
「あなたの部屋ってそこだったのね。」
窓越しに目が合うと佐藤は車に預けた腰を上げて、自立した。
「出かけるから早く準備して。」
「学校はどうするのよ?」
「決まってるでしょ?サボるのよ。あなた得意でしょ?」
「今日なんか当たり強くない?」
「イライラしてるの。何度かけても起きないし、もう我慢の限界でインターホン押すところだったわ。」
「それは困る。」
そんな事をされたら、空さんが心配して私の部屋の前まで飛んできて、気まずい問答が始まってしまう。
「だったら、私をこれ以上待たせないように早く支度を済ませる事ね。」
そう吐き捨てるように言って佐藤は通話を終わらせた。
スマホを確認すると、明け方から何十件も佐藤からの不在着信があった。
急いで支度を済ませて玄関へ向かうと、途中の廊下で空さんとばったりと出くわした。
「あれ?りきちゃん?」
「あ、おはようございます。」
「いつもよりも早いけど、それにその格好……」
「えーっと。」
私服である事を空さんに指摘されて私は一瞬だけ考えた。
「友達と出かけてきます。」
できれば見つからずに出て行きたかったが、見つかってしまったらしょうがない。
私は諦めて正直に話した。
それに黙って出て行ったら帰った時に過剰に心配されて、それの方がめんどくさい気もする。
「学校は……お休みするのかな?」
「まあ、そうですね。」
「うん……分かった。気をつけてね。」
空さんは不安そうな目をしていたが、それ以上深入りはしてこない。
「すみません、行ってきます。」
私はそう言って家を出た。
佐藤の元に駆け寄ると、隣に山崎さんが立っていた。
私が軽く会釈をすると、山崎さんは丁寧にお辞儀をした。
「遅い。」
「ごめん。」
顔をしかめて不満をこぼす佐藤に私は謝罪する。
「ねえ。」
「ん?」
「キスして。」
とんでもない事を言い出す佐藤に私はたじろぐ。
「いや、こんな所で無理でしょ!山崎さんだっているのに。」
「はぁ……じゃあいいわよ。早く乗って。」
山崎さんは顔色を一切変えずに、車のドアを開けた。
さっさと車に乗り込んでしまった佐藤を追って、私は慌てて車に飛び乗った。




