キスの意味
再テストの結果を見て、鈴木を強く抱きしめる園田に、彼女は優しく微笑んでいた。
鈴木のその優しい笑顔に私の心は掻き乱される。
突然、鈴木が園田と一緒に登校してきた少し前の朝と同じような気持ちだ。
あの時のように教室を飛び出したりはしないが、鈴木と目が合っても、悟られないようにするのが精一杯だった。
しばらくして昼休みの開始を伝えるチャイムが鳴り、私は鈴木と購買へ昼食を買いに教室を出た。
「怒ってる?」
「怒ってはないわ。」
「なんか含みのある言い方じゃん。」
「別に。」
買い物を済ませて教室に戻ろうとした時、私は鈴木の手を掴んで彼女を引き留めた。
「一緒に来て。」
「やっぱなんかあるんじゃん。」
「いいから。」
「ちょっと!」
私は叫ぶ鈴木の手を強引に引いて校舎裏の茂みの中へ向かった。
茂みの中に入ると私たちは手を繋いだまま向かい合う。
私が俯いていると、鈴木はため息をついて、
どうしたのと私に問いかける。
そして、彼女はあの優しい笑顔を浮かべた。
その顔を見ていて私は自分の感情を少しずつ理解する。
私は怖かったんだ。
「えーっと、佐藤さん?」
私に見つめられて鈴木は少し照れたように言った。
「何ソワソワしてるのよ。キスでもされると思った?」
「なに言って——」
「目、閉じて。」
私は鈴木の頬を触って、そのまま彼女の髪の毛を耳にかける。
背伸びをして顔を近づけると鈴木は目を閉じた。
力んだ眉間が可愛いらしい。
私はキスをせずに、彼女の耳元に口を触れそうなほど近づける。
「学校でぐらい一人にしないで。」
「それってどういう——」
私は言葉を遮るように、彼女の耳にキスをした。




