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ハンバーガー

急いで支度をしたが結局1時間弱かかってしまった。

佐藤はさぞ機嫌が悪いだろうと思ったが、意外にも支度を終えた私を見た彼女は満足そうにうんうんと頷いた。


山崎さんの運転する車に乗って、移動する。

「今日は行きたい所があるの。」

「どこ?」

「それは秘密。着いてからのお楽しみ。」

佐藤はふふふと楽しそうに笑った。

「今日は、なんというか、出かけてよかったの?」

「あー、うん。まあ休日の予定までは束縛できないんじゃないかしら?手伝いに来てくださってる方の目もあるだろうし……」

「山崎さんの他にもいるんだ。」

「でも男と密会しないように山崎の監視付き。」

「なるほど。」

「だけど、あなたと会ってるって知ったら相手が男の人より怒られそう。」

冗談か本気か分からないが、佐藤は笑いながらそう言った。


連れて来られたは表参道のメインストリームにあるハンバーガーショップだった。

「この前連れて行ってもらってから色々調べたのよね。」

「マックとは随分違うけど……」

ほらと言って、佐藤は立ち止まる私の手を引いて入口の階段を登る。

「二名様でよろしいですか?」

「はい。お願いします。」

「カウンター席のご案内でよろしいでしょうか?」

そこまで広くはない店内を見渡すとテーブル席はいっぱいだった。

佐藤が私の意見を求めるように顔を向けてくる。

「私はどっちでもいいよ。」

「カウンター席でお願いします。」

「かしこまりました。」

そう言って案内してくれる店員に佐藤はそのままついて行こうとする。

「ねえ、まだ手繋いでないとダメ?」

そう言うと佐藤は眉をひそめて手をより強く握って、強引に歩き出した。


席についてメニューを開くと思わずその値段に驚く。

お店を一目見た時から分かっていたがかなりの高級店だ。

ハンバーガーとポテトとドリンクのセット価格がどれも2000円前後で、決して払えない額ではないがマックとは大違いだ。

「安心して。今日は私がご馳走するわ。」

隣の佐藤はメニューを眺めながら言った。

「流石にそれはワルいでしょ。」

「お礼とお詫びを兼ねてるの。気にしなくていいわ。」

「お礼とお詫びって、何に対しての?」

私が質問をすると佐藤は大きくため息をつく。

「いいから人の好意は受け取って。それに高いって横顔に書いてあったわよ。」

結局、私は佐藤の好意に甘えてご馳走になることになった。


運ばれ来たハンバーガーは上からナイフが刺されていて、別のお皿にソースがたっぷりと入っていた。

目を輝かせた佐藤は一緒に運ばれてきた黒いゴム手袋をはめて、ナイフを抜いてハンバーガーを両手で鷲掴みにする。

「手で食べるなんて、何かワルい事してるみたいで楽しいわよね。」

「そんな風に思ったことない。」

些細なことから育ちの違いを感じる。

やはり、彼女の家庭環境は浮世離れしている。


食べ終えて、席についたまま会計を終える。

テーブルチェックというシステムを初めて知った。

家庭環境もあって子供の時以来、家族で外食なんてしたことなかったし、自分で行く時も安いファミレスやファストフード店ばかりだからだ。

階段を降りてお店を出ると目の前に山崎さんと車が待っていた。

「じゃあ、私は帰るから。」

「え?もう?」

「女の子の友達とランチだけって約束だったから。」

「十分束縛されてるじゃん……」

そう呟く私に佐藤は顔を寄せる。

「同情してくれるのね。」

そう言って彼女は少し笑った。

「あなたはどうするの?乗ってく?」

私は少し考えてから断った。

「時間潰してからにする。」

私にとってあの家は居づらい。

あの時、帰りたくないと言った佐藤に協力したのは、ある種のシンパシーを感じたせいだ。

「そう。」

「ご馳走さま。」

「うん。」

そのあと佐藤は私の顔を見て少しの間黙っていた。

「なに?」

「今日はありがとう。楽しかったわ。」

「こちらこそ。」

「今日は何時ぐらいに帰るの?」

「え?多分、19時とか20時には帰ってると思うけど、なんで?」

「分かったわ、19時ね。」

そう言って佐藤は車に乗り込んで、そのまま帰ってしまった。

19時までに家に着くようにしておこう。

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