お泊まり
鈴木をクローゼットに押し込んでしばらくすると、ノックもなく部屋のドアが開いた。
「いみ、入るぞ。」
私は机に座り勉強をしていた振りをする。
「おかえりなさい、お父様。今日は随分とお早いのですね。」
「昨日はお前の帰りが遅かったからな。」
「そうですか。今、学校の課題中です。意外に授業の進度が早くて大変なので、用事がなければ——」
「お前はいつまで拗ねてるつもりだ。」
私の話を遮ってお父様は声を荒らげる。
「いい加減自覚を持ちなさい。お前は特別な人間なんだ。」
その後に続いた説教を私は黙って聞いた。
「まあいい。」
返事をしない私に、お父様はそう言い残して部屋を出て行った。
クローゼットを開けると鈴木と目が合い思わず私は苦笑いする。
「ごめんなさい。嫌な所を聞かせてしまったわね。」
「いーよ、別に。」
返事のできないでいる私に彼女は続ける。
「私、どうやって帰ればいい?」
「帰らないで。」
私は即答した。
「は?」
「正確には帰るのは無理ね。部屋から出ればお父様に見つかるかもしれないし、もしお父様と鉢合わせしなくても玄関を出た所でバレるわ。大きな門見たでしょ?あれすごくうるさいから。」
「じゃあ私はどうすればいいのよ。」
早口で捲し立てる私に鈴木は顔をしかめる。
「明日の朝、お父様が仕事に行くまでこの部屋から一歩も出ない。つまり、お泊まり。」
「ちょっと待って、お風呂とかどうするの?」
「我慢して。」
「は?」
「大丈夫。臭くないわよ。」
「そう言う問題じゃないでしょ……」
妥協案として、鈴木はお父様が寝ているであろう深夜にシャワーを浴びる事になった。




