クローゼット
そのあと私は、佐藤となにをするわけでもなくダラダラと過ごした。
会話が途切れて沈黙が流れる時間も多かったが、不思議とその沈黙も気まずさは感じなかった。
大分佐藤に慣れた気がする。
時間は19時になろうとしていた。
そういえば、どうやって帰ろう。
「ねえ、佐藤——」
話かけたその時、ピロンと音が鳴った自分のスマホを見た佐藤が勢い良く立ち上がり、そのまま部屋を飛び出していった。
ドタドタと廊下や階段を走る音が響き、しばらくして聞こえなくなる。
その後また慌ただしい足音が近づいてくる。
ガチャっと扉を開けて戻ってきた佐藤の手には、私のローファーが握られていた。
「これ持って。あとお茶とお菓子も。」
「え、なに?」
ローファーとオボンに乗ったお茶とお菓子を無理矢理渡されて、状況の理解できない私は訝しむ。
「そこのクローゼットに早く!隠れて!」
「だからなに!」
佐藤に釣られて私も声が大きくなる。
「お父様が帰ってくるのよ!いつもより2時間も早く。」
そう叫んだ佐藤に私はクローゼットに押し込められた。
ウォークインクローゼットになっているその中は4畳程の広さがあり、大量の洋服で多少の圧迫感はあるが、人が隠れるには十分すぎる広さだ。
「私が中に入るまで絶対に出てこないこと!いいわね!」
「お、おう。」
あまりの気迫に私は圧倒された。




