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佐藤の部屋

3階にある佐藤の部屋は大体12畳程の広さで、子供部屋にしては広すぎるぐらいだった。

山崎さんから飲み物やお菓子を受け取った彼女は、部屋の中央にあるテーブルにそれを置いたが、そのまま奥のベッドに座った。

「なに突っ立てるのよ?」

そう言って佐藤はベッドを右手でポンポンと叩いた。

私は彼女の隣に座る。

しかし、彼女は何か話し出す気配はなかった。

「東京から来てたんだな。」

「大して珍しくもないでしょう。」

確かにそうだが、彼女程遠くから来ている生徒は他には多分いない。

東京から来ている生徒はみんな電車とバスを使っている。

うちの学校は近くに私鉄が2本通っていて、それぞれの最寄り駅からバスも出ているから東京からのアクセスも決して悪くはない。

しかし、この家から公共交通機関だけで学校まで行こうとすれば片道2時間近くかかるはずだ。


「話ってなに?」

考えても仕方ないから私は単刀直入に聞いた。

「私、夏休み前まで近くの学校に通ってたの。近所ってわけでもないけどね。」

「じゃあ、なんで転校したの?」

「男の子に告白されたから。」

「は、はあ?告白って……」

「勘違いしないで。別に付き合ったわけじゃない。」

動揺する私に佐藤は身を寄せて否定する。

「いや、そうじゃなくてなんで告白されると転校になるのよ。」

そっちねと佐藤は咳払いをする。

「その時に貰ったラブレターを取っておいたのよ。なんだか捨てるのも忍びないじゃない?」

「あー、うん。」

「そしたら、それをお父様が見つけて大激怒。この部屋に勝手に入ってね。」

「だから女子校のうちに?」

「そんな所よ。」

「いやいやいや、子供の恋愛程度にいくらなんでもやりすぎじゃない?」

「私には婚約者がいるから、仕方ないわ。」

「婚約者?高校生で?」

「私は3代目なの。お祖父様が作った貿易会社のね。」

「は、はぁ……」

「だから政略結婚。」

話の展開や飛び出す単語があまりにも浮世離れしていてついていけない。

「どうしても私に会社を継がせたいみたい。私を出産してすぐにお母様が亡くなったから、きっと私に面影を見ているのね。すごい執着よ。」

そう言った彼女はベッドに座ったままガバッと後ろに倒れて、腕を広げたポーズで私を見た。

「友達とも引き離されちゃったし、束縛も強くなっていくし、学校は遠いし……まあ、そんな感じよ。」

そう言って彼女は寂しそうに笑った。


「意外と家では行儀悪いの?」

少しの沈黙の後、私は話題を変えようと声をかけた。

「一人の時だけよ。家族の前でもちゃんとしてる。」

「今は私がいるけど……」

「いいでしょ別に。」


「制服、シワになるぞ。」

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