回想 お風呂
家に帰るとしんと静まりかえっていた。
「パパとママまだ仕事なんだ。」
両親は数年前に2人で起業してから、いつもバタバタしている。
僕はそのままお風呂場へ直行した。
体操着とジャージは汗と砂まみれで気持ち悪い。
少しお行儀がワルいけど、今この家にそれを咎める人はいない。
服を脱ぎながら今日の事を思い出す。
りきはあのフェンスを越えて僕にパンを買ってきてくれたんだ。
足元に置いたカバンからパンの袋を取り出す。
食べ終わってもなぜか捨てれずに持って帰ってきてしまった。
いや、理由は嬉しかったから。
分かってるのに、何故か自分に言い訳をしているようで嫌になる。
脱衣所の洗面台の鏡に映る自分の幼い裸が、僕の幼稚な心の象徴のように見えてしまう。
「はぁ……子供っぽいなぁ。」
でも、手に持ったチョコチップメロンパンの袋に目を落とすと、あたたかい気持ちになる。
そして、りきの優しい笑顔を思い出して、また胸の奥がぎゅーっと握られたように苦しくなる。
苦しいけど、不快感はない。
そっと左胸に手を当てる。
どくどくと少し早い心臓の鼓動が手に伝わる。
「りき……」
手に少し力が入る。
湯船に浸かり目を閉じる。
とても穏やかな気持ち。
思わず口元が緩み、皮膚を撫でるように一瞬鳥肌が立った。
心地良い。
今日一日でりきは僕の中で特別な存在になった気がする。




