解散
22時までの学生向けフリータイムが終わり、私と佐藤はカラオケを後にした。
「佐藤、お腹空かない?」
私の問いかけに彼女は頷く。
「マックでいい?」
「私はどこでもいいわ。」
「マックも初めてだったりするの?」
「そうね。」
素っ気なく返されたが、佐藤はかなり特殊な環境で育っていると思う。
二人で注文を済ませて席に座る。
注文の時に私は佐藤にみんなこれを頼むと嘘をついてハッピーセットを注文させた。
子供向けのオモチャを選ばされ、私が普通のセットを注文するのを見て騙された事に気がついたようで膨れている。
ご機嫌斜めの彼女に謝ると、すぐにまあいいわと許してくれた。
そして貰ったプラスチック製の犬のような生き物のストラップを眺めていた。
どことなく嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
食事も終わり特に話し込むわけでもなくダラダラと席に座っていると知らない男に声をかけられた。
「君たち、その制服は橘学園の学生だよね?もう、23時。未成年は補導される時間だぞ。」
私たちは逃げるように店を出た。
「私は電車で帰るけど佐藤は?」
「私は……車を呼ぶわ。でも、駅までは一緒に行く。」
並んで歩き出すと佐藤は私の手を握ってきた。
「もう遅くて危険だから。」
立ち止まって彼女の方を向くと、よくわからない言い訳をしてきた。
私はそっかとだけ返事をして再び歩き出す。
駅の改札前に着いても佐藤は手を離そうとしなかった。
「いや帰れないんだけど。」
「迎えが来るまで。」
「危険だから?」
「そうよ。」
そう言って彼女は私の手を握ったまま電話で車を呼び出す。
私たちは手を繋いだまま車の到着を待つ。
迎えの車が到着する。
「今日私は一人だった。いいわね。」
車から降りてきた男性にそう言った佐藤は、そのまま車に乗り込んだ。




