茂みの中
佐藤の手を引いて校舎裏まで来た。
ここの奥の茂みを抜けるとフェンスがあり、それを越えると住宅地の路地に出ることができる。
山を切り開いた土地に建つこの学校では、校門とこの裏口以外は崖になっていて出入りはできない。
茂みの中に入っていっても佐藤は黙っている。
質問も文句もなく手を引かれるまま私についてくる。
十数歩程度入りフェンスが現れた。
すでに校舎は草木で全く見えない。
同じように校舎から私たちのことも見えないだろう。
私はフェンスの前で足を止めて佐藤に話しかける。
「このフェンスを越えれば外に出られる。多分、私しか知らないから他の人に言わないで。」
「うん。わかってる。」
「で?なんで正面から帰りたくないの?あの人だかりも関係あるの?」
その質問に佐藤は俯いて答えない。
「じゃあ、いいけど。これからどうするの?」
「どこか連れてって。」
「どこかって。」
「どこでもいい。家に、帰りたくないの。」
「はぁ……わかったよ。」
そう言って私はフェンスに手をかけて登ろうとするが、制服の裾を佐藤に引っ張られる。
「ありがとう。」
佐藤は私の制服を掴んだままそう言った。
私たちはフェンスを越えて外に出た。
そして寄り道をすることにした。




