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18 奏からだと思ったか!? オレだよ!!

「そういえばなんすけど、霊界とかに来る人間って殆どいないんすよね?」


「うむ、そうじゃな。大抵お偉方か、天魔省関係の人間が主じゃのぅ」


「あの……今のオレみたいに、別に来ようと思えば来れる訳じゃないですか。だったら、死んじゃった家族に会いに来たりとか…そういうの、もっとあってもいいんじゃないかと思って……」



 霊界が死人の魂が集う門であり、天界と魔界がいわゆる天国と地獄であるならば、或いは天界か魔界で親族に会うことが出来るのではないか──。


 そう考えた末、玲は質問した。



 玲の家は、妹と父親との3人家族である。母親は彼が幼い頃に死んでしまったし、父、母共に1人っ子であったために従兄弟もいない。

 そして、父方の祖父母も母方の祖母も彼が高校に入るまでの間に死去している。


 近しい親族と言えば、県を越えた先に住む母方の祖父だけである。



 そんな3人家族の赤月家だが、玲は学生寮に入ってしまったし、父親も『幻想魔導士』の仕事のせいで殆ど家にはいない。

 そう、この4月から、奏は家に1人なのだ。


 ただでさえ、年頃の女の子が1人というのは心細いだろう。



 だから、僅かでも妹のために出来ることがあるのなら、何かしてあげたかったのだ。



 しかし、クロノスは目を伏せると、静かな声で答えを示した。


「生ける人間が持つエネルギーは、死人にとっては猛烈な毒なのじゃ。従って、それを避けるため、死人の魂は生者には見ることが叶わんし、霊界に渡った死人からも生者を認識できないようになっておる。どうあっても、会うこと出来んのじゃよ」


『三途の川』を渡っている際に、誰にも会わないといった玲の疑問に、リィエルは誰も使用しないような道だからと回答したが、どうやらそれは主観の違い故の言い回しであったようだ。


 リィエルにとっての『誰も』とは鬼族や天界種、魔界種を指すものであろうから、それも当然と言えば当然だ。

 もし玲が明確に『死人』と言っていれば、別の言い方になっていたのだろう。



「……そう、ですか…。(かなで)に母さんの顔を見せてやりたかったんすけど、仕方ないっすね…」


「すまぬのぅ…」


「いえ、こっちこそすみません」


 寂しそうに笑って、玲はお茶を口に含む。先程アイオーンが淹れ直してくれたお茶は温かく、玲の沈みかけた気持ちを引き上げてくれた。

 そのお陰か、玲は気持ちを切り替え、別の明るい話題へシフトすることに成功する。


「あ、そうだ。これも気になってたんすけど、魔王様ってこう……任侠な感じがあるじゃないですか」


 クロノスもそんな玲の思惑を察してか、表情を和らげてそれに返答する。


「ほっほっほ、まあそうじゃな。若いのからは、姐さん等と呼ばれておるしのぅ。して、それがどうかしたのかのぅ?」


「いや、リィエルのやつが、『教育に悪いーとかで買ってきて貰えなかった』って言ってたんすよね、『龍が如く』。けど、魔王様見てたら、なんかあんま関係無いんじゃね、って思っちゃって」


「ああ。それは簡単な話じゃよ。天界にも魔界にも霊界にも、やはり悪さをする輩というのは残念ながらおってのぅ。リィエルちゃんは、それらの討伐に当たっておったりしたのじゃがな」


「へぇ、リィエルそんなことしてたんすか」


「うむ。しかしあの子はこう、ノリで動くというか無邪気というか……。ヒートアクションというやつは、ファンタジーなものではないじゃろう?」


「あー、まあシリーズ重ねるごとに人間離れしてはきてますけど……そうっすね」


 思い浮かんだ幾つもの映像。

 壁クラッシュとか追討ちの極みとかはまだ人間の範疇だが、確かにシリーズを経る毎に超人的なものが出てきている。

 それでも炎や冷気を飛ばしたりする訳ではないし、まあ人間の延長上の技とは言えるだろう。


 ──いや、それでもやはり幾つか、どう考えても不可能なものもあるが。



「それでじゃのぅ、リィエルちゃんは流石に天魔の姫君じゃ、そこいらの者では足元にも及ばん実力を持っておる。して、そこまで実力差があると、遊んでおっても余裕で相手が出来るのじゃがのぅ……。その結果、アニメやらゲームの技を真似してやり始めるのじゃよ」


「あー……」


 容易に想像出来た。

 高笑いしながら崩れ落ちた相手の顔面を踏み潰して、その上で両足で乗り付けて、とどめに肘を落とす絵が。

 そんな殺人技を嬉々としてぶっ放す、高笑いする幼女の絵が。



 まさに物語の中で語られるような、残虐な魔王のような、そんな絵が。



 確かに教育に悪いだろう。それを見せられる周りが、であるが。



「──大根おろしの極みはわかるかのぅ?」


「あー……あの、5で出てきたアスファルトに顔面をゴシゴシするやつっすね…」


「あんなものを見たら、よりエグくアレンジを加えて『灼熱おろしの極み』とかやり始めるに決まっておる」


「……」


 ──どうしよう。どうやら自分は、とんでもなくド畜生な映像を作ることに手を貸してしまっているようだ。




 そんなこんなでクロノスと話し始めてどれくらい経ったか、左腕に付けている魔力封じの腕輪──魔力そのものを抑制するのではなく、魔力の気配が外に漏れることを遮断するもの──に内蔵された時計盤を見ると、時刻は既に21時を回っていた。



 そろそろ頃合いだというクロノスに従って隣の大部屋に戻って数分、一番最初に戻ってきたのはリィエルとヘパイストスだった。


「おお、随分と打ち解けたようだな」


 リィエルがそう言ったのも、玲が胡座をかいて座っていたからである。


 いや、本当はこの部屋に戻ってきてすぐに正座をしていたのだが、クロノスから楽にするよう促されたのである。


 連れだって戻ってきたヘパイストスを見てやはり姿勢を改めようとしたのだが、ヘパイストスも苦笑しながら手で「構わない」と合図をしてきたため、結局のところ正座するタイミングを失った形である。



 さて、ランランと鼻唄混じりに戻ってきたリィエルは、玲の隣にどっかりと腰を下ろすと、そら、と『天魔の十字架(ヒュムネクロイツ)』を手渡した。


「……結局のところ、何してたのさ?」


 別段、これと言って変化があるようには見えない銀色のロザリオを首にかけ直しながら、玲はそう疑問を口にした。


「ヘパイストスに手を加えて貰ってな。お前が『魔力門(ゲート)』を開くと、服装を変える魔法が自動的に発動するように細工したのだ」


「あん? ……何だってそんなこと──あっ……」


 疑問を呈しかけた玲であったが、その途中で答えに辿り着いて言葉を詰まらせた。


 先程さんざん『魔力門(ゲート)』の開閉をやらされたこともあって、自身の女体化が服装にまでは及ばないということは玲もよく知るところであった。


 そうだ。失念していたが、服装が変わらないということは、状況によっては粉うことなき一大事になる、と。


「……」


 下手をすれば、警察にドナドナされることになっていたかと思うと、内心ひやひやものだった。

 リィエルがいてくれて本当に良かった。そう思わずにはいられない。



 そんなふうに首に下がる『天魔の十字架(ヒュムネクロイツ)』を手に取って感慨深げに眉をひそめる玲に、しかし隣に座るリィエルは口の端を吊り上げていた。


 それを見て、何とも言えない、申し訳なさと哀れみが混ざったような表情を浮かべるヘパイストス。


 クロノスはリィエルが仕込んだ(・・・・)それが何なのかこそ知らないが、しかしその表情は悪戯をする子供を見るような柔らかなものだった。

 リィエルが某かを企てていることはお見通しなようで、しかしそれを口にするつもりはないらしい。



 三者三様のそれに、玲はまるで気づいていなかった。

 尤も、この場でリィエルの企てに勘づいていたとしても、リィエルが是と言えば是になってしまうだろうから、意味はないのだが。



「──おりょ?」


 ふと、玲はブレザーのポケットから振動を感じて視線を落とした。

 振動の発生源たるスマホをポケットから取り出してみると、画面には「赤月家」という表示が浮かんでいた。


 どうやら、家から電話が掛かってきたようだ。


「まだ父上と母上が戻ってくるまで多少時間もあるだろうし、出て構わんぞ」


 画面を覗き込んだリィエルがそう言った。

 視線をクロノス、ヘパイストスに向けて見れば、彼等も首を縦に振って応答する。


 愛しの妹()からだろうか。だとしたら、出ない訳にはいくまいて。



「恐らく奏からだろう? 昨日あんなことがあったからな。せっかくだ、私にも声を聞かせてくれ」


 リィエルの言葉に頷いて、玲は通話ボタンを押し、続いてスピーカーのアイコンをタップする。

 言われずとも、自慢の妹の美声を集う神達に聞かせようなどと考えていた辺り、やはり行き過ぎたシスコンっぷりである。



 ──完全に、思考の外であった。


 仮に奏からの電話だとして、何故家の電話番号から掛かってくるのか。

 奏もスマホを持っているのに、何故わざわざ固定電話から掛かってきているのか。



『──汚職事件で会社が倒産! 首を切られた憐れな父さん! 残るローンで人生困難! 呆けて眺める綺麗な青い海(オーシャン)! 寺に来てみりゃ諭すは坊さん! 見つけた新職キツいぜ冗談! めげずに食い付き頑張る称賛! けれどやっぱりキマリは通さん! ──oh, yeah!』


「父さんだったーッ!!」


「「「……」」」


 スマホから響くは、無駄にいい音をした男の声色。随分とノリノリなふうではあるが、奏が出るものだと思っていたリィエルは目を剥いていたし、ヘパイストスもクロノスも流石に顔を引きつらせていた。



『カナちゃんからかと思ったか? くくく…残念、パパでしたーっ!! あの子はもう寝ちまってまーっす! てへぺろ!』


 だが、面食らうリィエル達を他所に、スピーカーから響く声からは依然そのテンションの高さは変動しない。

 まるで中学校や高校にいるバカ騒ぎしている学生のようだ。


「くそぅ…! よく考えたら、奏からだったら家電からは掛かって来ねぇわな……。って、あれ…父さんも何でわざわざ家電からなのさ?」


『あー、実はな。昨日のことをカナちゃんから聞いた時に、勢い余って握りつぶしちまったんだよ。愛しの娘の声が突然途切れちまった悲しみったらねぇよ…!』


「あー、なるー。そりゃ仕方ないわ。じゃあ裏に貼ってたプリクラも?」


『握り潰した拍子にボロボロになっちまったよ…! 今度オレが家にいるときに戻って来いよ! また撮るぞ、4人で!』


「ん、4人?」


『おう! 実は今日からおじいちゃんに越して来て貰っててな。そんな訳だから、おじいちゃんにも久々にお前の顔を拝ませてやってくれや』


「そういうことか。奏1人ってのもやっぱり心配だもんなぁ。あいよ、オレも近々帰るつもりだったからさ」



 終始テンションの高い声が聞こえてきているのだが、玲の反応は通常運転。咎める様子も止める様子も無い。

 どうやらこの賑やかさは、赤月家では日常なのらしい。


「……まあ、奏でなければそれしかないのだが…。また、随分とハイテンションな親御さんだな…」


 玲と奏の2人から何となく想像は付いていたが、このテンションの高さは自身の父であるヴァイスにも劣っていないな、等と思いながらそう言ったリィエル。


 すると、すぐに反応があった。


『お? 何だー、玲よォ。早速寮の部屋に女の子なんぞ連れ込みやがってこのこのー! ──やるじゃねぇの』


 天魔第6高校は全寮制で、既に時刻は21時を回っている。

 まあそう考えるのも頷けなくは無い。


 尤も、第一に息子の手の早さを疑うのもどうかとは思うが。



「いや、オレ第6高に入学した(はいった)んだから、他に真っ先に思い当たるやつがあるじゃん」


『お、わかったぞ! オメェ見た目がなよなよしてっからなぁ……女子の先輩にお持ち帰りされてんだろ!』


「何それルックスを貶されてるの褒められてるのどっち!? つか第6高関係ねぇじゃんそれ! そうじゃなくて『守護天魔(ヴァルキュリア)』だよ!!」


『するってぇと、あの麗しい声音はリィエル様のものか。こりゃ失礼。昨日はうちの娘がお世話になったそうで。いやーホント助かりました! どうもありがとうございました! 何処に出しても恥ずかしくない自慢の娘とは言え、まさか幻妖まで寄ってくるとは驚きですわー。あ、オレ、玲とカナちゃんの親父の赤月 (まどか)っていいまーっす! ヨロっす!』


「お、おぅ……」


 この2日、何だかんだでリィエルのやることに驚いてきた玲だったが、よもやそのリィエルがここまでたじろいでいるというのも、何だか新鮮に思える玲だった。


 とは言え、流石にファーストコンタクトからこのハイテンションでは、それも仕方の無いことだ。


「父さん父さん。流石にリィエル、ドン引いてるから。それに実は今霊界に来てて、クロノス様とヘパイストス様も近くにいるからさ、だから悪いんだけどもーちょいテンション下げて」


『おおっとすまんすまん! いやな、久しぶりにカナちゃんに会えたもんだからつい、な。それより霊界だぁ? 何だってそんなとこに』


「ちょっと諸々問題があってさ。今度帰った時にでもちゃんと説明するよ」


『…まあ、無事ならいいがな』



 1拍の間を置いて再びスマホより聞こえてきた声は、芯の通った落ち着きのあるものだった。


『……リィエル様。厚かましい話ですが、どうか息子を頼みます。若干ですが娘から話は伺っています。聞いた限りでも、うちのせがれにゃよくわからん問題があるようで。親としちゃ、そも『幻想魔導士』なんぞにゃなって欲しくはねぇところなんですが、本人がなると決めたことですからね…。何分ポンコツかもしれませんが、どうぞ見捨てないでやってください』


「……」


 それまでとのテンションの差に最初こそ戸惑ったリィエルだったが、しかしその言葉に宿った声音から、子供への確かな愛情を感じ取り、リィエルは小さく笑みを溢した。



(──なるほど、玲と奏が健やかに真っ直ぐ育ったのも、この父親だったからだろうな)


 母を早くに亡くし、『幻想魔導士』の仕事で家を空けることが多いだろう父親は、それでも昨夜奏を送り届ける際に聞いた限りでも十分に好かれているようだった。


 きっと家にいるときは、自身の疲れなどお構いなしに子供達に愛情を注いでいたのだろう。

 陽気に朗らかで、それでいて根っこの部分は真摯にひた向きに、向き合ってきたのだろう。



「──ああ、任せておけ。それに存外、私も私でこいつといると楽しいからな。こちらこそ、よろしく頼む」


 だからリィエルは、円には決して見えることはないが、満面の笑みを浮かべてそう言った。

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