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10 逃れられないポンコツっぷり! そしてハゲ鷹は笑う

「え、欠陥?」


「今朝説明しただろう? お前の『魔力路』はあり得ないことになっている、と」


「ん、ああ……それは聞いたけど」


 口ごもる玲を見上げ、雅は何事かと眉を潜めた。

 そんな様子を感じ取ったのか、既に武器選びを終えたらしい棗も、訝しげに歩み寄って来る。


 璃由は勿論、雅も棗も言葉を口にしない。

 どうやら本当に大変な内容であろうことが、リィエルの表情から予想できたからだ。



「昨日の鎧戦とその後の調査から、今朝は言わなかったが、実はもっととんでもないことがわかった」


「もっととんでもないこと…?」


 思わず、玲の喉が鳴る。1つの『魔力門(ゲート)』に合計10本の『魔力路』が結び付いているという時点でもとんでもないのに、この期に及んでいったい何があるというのか。


「──2回、だ」


「……?」


 言葉の意味が理解できず、玲の眉が深い皺を刻んだ。

 見れば、璃由も雅も棗も、クランでさえも、その言葉の真意を理解出来ないというように困惑顔であった。


「2回って……何が2回なんだ?」


「……一定時間内に、お前が攻撃魔法を使える推定回数だ」


「…………ふぁ?」


 唖然──。玲だけでなく、その会話を聞いていた者全てが、ただただ唖然として口を開けたまま凍りついた。

 クランでさえも、すぐに言葉を切り返すことが出来ずにいた。


「肉体強化や防御の方向への魔力運用については、どうやら私の『魔力門(ゲート)』に合わせて出来た『魔力路』から賄われるようなのだが、こと攻撃のために使用される魔力は、既存の9本によって行われる形……のようだ。何故そうなるかは、まるでわからんが」


 その言葉を聞いた時点で、事前知識の無い玲を除く全ての者が絶句した。

 人間の『魔力門(ゲート)』最大数は、現時点で10とされている。


 そして、『魔力門(ゲート)』の数と『魔力路』の数は一致する。

 つまり、何も知らない者からすれば、赤月 玲には馬鹿げた魔力量だけでなく、その魔力を遺憾なく発揮するだけの道がある、ということを意味している。

 既存とか、その辺りは意味がわからないのだが。


「ちょ、ちょっと待ってください。玲くんの『魔力門(ゲート)』はリィエル様のものを移植したもの……。なら、『魔力路』も1本だけの筈ではないですか?」


 クランのその指摘は、他の全員が思ったことであった。

 先程の玲と雪奈の会話から、『魔力門(ゲート)』が移植された、ということは雅も棗も把握していたが──もっともそれ事態既に眉唾な話であるが、縦しんばそれを呑み込んだとしても、『魔力門(ゲート)』が1つしかないという状況に変わりはない。


 だから、「既存の9本」という言葉は、まるで意味のわからないものであった。



 従って、それをリィエルに説明された一同は、さらに驚愕することとなった。

 この時、リィエルが『魔力門(ゲート)』を記憶と共に奪われた、ということまで言及しないでくれたことが幸いであった。


 その辺りは、どうやら汲み取ってくれたようだ。契約さまさまである。



 まあ、そのせいで「何故か『魔力門(ゲート)』が無いのに『魔力路』が無駄に9本もあった」等という、トンチンカンな設定が出来上がってしまったが。



 ──閑話休題。



「えっと……んで、それでなんで2回って断定出来る訳なんだ…?」


 説明も一段落ついたところで、玲がそう切り出した。何せ、これは死活問題だ。

 幻妖と戦う術を身に付けようというのに、あろうことか攻撃出来ないとあっては、話にならないのだから。


「調べたところ、現状で活性化している『魔力路』は、新規のそれを除いて2本だ。残る7本は、繋がってこそいるが機能していない。そして、この2本も酷く衰弱……と言えばいいのか…。幅こそ人間にしては広いものの、キレやすい若者のように、熱くなりやすい性質を持っているようなのだ」


「ええっと……するってぇと簡単にオーバーヒートする……ってこと?」


「……そうなるな」


「おおぅ……」


「とは言え、根性があると言えばいいのか……オーバーヒートを起こしかけても、その1発が終わるまでは何とか頑張るようだ…。だから、合計時間や累積負荷ではなく、回数と断言した訳なのだが……」


 何ということだ。

 リィエルが2回と断定していることから鑑みて、どうやらそのオーバーヒートに至る条件は、相当にゆるっゆるらしい。


 リィエルの説明からすると、どうやら玲の既存『魔力路』は、魔法の行使に耐えられないということになる。

 それが鎧戦で放ったような全開の一撃であっても、例えば炎の球を飛ばすような小さな魔法であっても。


 1発魔法を使うと、1本ダウンする。活性化している既存『魔力路』が2本だから、計2発。

 馬鹿でもわかる勘定の仕方ではあるが、あまりにもあんまり過ぎた。



 MPゲージではなく、コスト制でもなく、某配管工よろしく残機制である。



 最早、誰もが言葉を失っていた。

 ツッコミどころが多すぎて、もう何をどう突っ込めばいいのかわからなかったのだ。


 余りにも宝の持ち腐れに過ぎる。

 その潤沢な魔力量も、リィエル・エミリオールという至高の『守護天魔(ヴァルキュリア)』も、何もかもが。



「そ、そんな訳だから、その剣はお前には打ってつけなのだ!」


「うう……オレ、この2日間だけで何回絶望すればいいのやら…。で、それはどういう訳なのさ?」


 魂が抜けそうな、そんな憔悴しきった顔をしながら玲はそう呟いた。


「ほれ、その剣には6つの白い文字が書かれているだろう?」


「ああ……このよくわからん文字か…」


 言葉に元気がまるでない。いや、これで元気ハツラツだったら、その能天気ぶりに拳を叩き込んでいるところだが。


「その剣は、吸い上げた魔力の一部を一時的に保有しておく特性もあってだな…」


「……? つまり?」


「ざっくりと言えば、その文字の数だけ、小規模な魔法を使える、ということだ!」


 明るい調子を作ってそう言ったリィエルだったが──。


「……つまりは、現状では逆立ちしても8発がマックス……と」


「……」


 玲の絶望は、思いの外大きかった。


 魔法の練習をするにしても、8発。『魔力路』の回復にどれだけ時間が掛かるのかは定かではないが、そしてこのレーヴァテインの魔力充填にどの程度時間が要るのかはわからないが、ともあれ8発である。


 先が思いやられる。本当に、どうしたものだろうか。



「というか、それ朝の間に教えてくれても良かったんじゃねぇの?」


 同じ落ち込むにしても、どうせなら一度に言われた方が立ち直るのも早かったろうに。

 何故にこう時間を置いて、まるで追い討ちをかけるように告げて来るのか。


「いや、そのぉ……ほら、な…。その剣の必要性を説く上でも、このタイミングが良かった……というか」


 説明のしやすさを考えれば、確かに頷ける話ではある。頷けても、納得できるかどうかは別問題だが。


「ま、まああれだ! お前には私との『天魔武幻(アーティファクト)』があるではないか! あれならそんなことを心配する必要も無い! よ、要はだな、あれがあれば無敵だということだ!」


「そ、そうだった……!」


 ──そうだ。あるじゃないか。オレにはあれが……あの『天魔武幻(アーティファクト)』があるじゃないか。

 とんでもなく強かった鎧をも圧倒した、あの『天魔武幻(アーティファクト)』が。



「お、おおそうだぜ! いやー、今の段階から『天魔武幻(アーティファクト)』が使えるとか、羨ましい限りだぜ!」


 半ばひきつったような笑みを浮かべながらも、そう言葉を掛けてくる雅。

 だが、内心ではこう思っていた。



 ──なんだこのへっぽこは、と。



 ──武器についてはあれだが、自分はこんなんじゃなくて良かった、と。







 ********************



 夕刻──。

 それは校長室における、怪しげな者達の物語。


「……ふむ。今年のピックアップは、こんなものかね」


 第6高の校長──ハゲ鷹は、バインダーに目を通しながらそう呟いた。

 ハゲ鷹を除くと、その部屋には他に2つの人影がある。ネクタイの色からして、どうやら3年生のようだ。


「目下最有力なのは、やはり3組の刈茅(かるかや) (みやび)ですね。あれは90はあるんじゃないかと」


「うむ……君も中々目が鍛えられて来たようだね」


 バインダーには、リストアップされた生徒の名前とクラス等の情報、そしてCやらDといったアルファベットが記載されている。

 それを見やりながら、ハゲ鷹は満足げに頷いて嫌らしい笑みを浮かべる。


「彼女なら、仮登録だけでなく、本ランキングの上位も間違いないでしょう。とは言え、在校生も捨てがたいですね。この1年の成長の成果を、存分に見せてほしいところ…」


「あー、何にしても、身体測定が待ち遠しい! あれを終われば正確なランキングが作れる…!」



 校長室に充満する、吐き気を催すような悪臭。その常人なら耐えがたい悪臭も、この場に集う猛者達には些末事。

 彼等は、同じ頂きを目指す同士なのだから。


 下卑た笑いをあげながら、3人は各々が手に取った写真を眺め、ため息を漏らす。

 彼等が座るソファーに挟まれたテーブルには、この学校の女生徒の、あらゆる手段を用いて行った盗撮の成果が、これでもかと積まれている。



 下着姿。体操服。バスタオル。部屋着。ウェイトレス。果てにはナース服やらまである始末。

 どれを取っても一級品。垂涎ものである。


 いや、写真だけではない。各女生徒のスリーサイズを記載した資料まである。校長のあらゆる権力を悪用し、毎年身体測定の際に入手している、極秘情報。


 あの教頭とて、こと校長のこの手の暴走には手を出せないでいる。

 野放し──。野放しの変態。



 故に──至福。圧倒的至福。



「身体測定もそうだが、今週末に迫った1年生恒例のマラソン大会。私はあれが楽しみだがね。体操着、揺れる胸。グフフ……男子がいるのは煩わしいが、実に心が踊るじゃないか」


「ですね」


「撮影はお任せください」


 再び、下衆な笑い声が校長室に木霊する。



 だが、そんな至福の時間は不意に破られる。


「た、大変です!」


 ノックもせずに、校長室のドアが開かれた。

 この集会がある時、校長室は特定の人物しか開けないように鍵が掛かる。


 従って、入って来る者は同郷の者に他ならないのだが、何にしてもそれまでの空気をぶち壊したことに変わりはない。



「何だね、騒々しい」


 ドスの利いた声色で不快そうに呟くハゲ鷹に申し訳なさそうに頭を下げつつも、2年生らしき少年は大慌てでそれを提示する。


「これを見てください!」


 テーブルに置かれたそれを、ハゲ鷹はもちろん、他2名の男子生徒も覗き込む。



「「「お、おおおおぉおおッ!!!」」」


 3つの歓声が重なった。

 テーブルに置かれたのは、1枚の写真であった。そこには、1人の少女が映っている。


 鮮やかな赤い髪。大きな蒼い瞳。そして──凶悪な胸。

 どうやら何かあったようで、写真の少女は泣きそうな顔をしているが、その表情がまた堪らない。



「こ、これは1年生かね!?」


「はい、そうです!」


 何ということだ…、とハゲ鷹は嘆いた。

 これ程の逸材を見逃していたというのか。この私が、と。


 スタイル、ルックス、どれを取っても文句無し。あどけなさを感じさせる童顔のそれは、その大きな果実のせいか、凄まじいまでの背徳感を抱かせる。


「間違いない……これはランキング入り確定ですね!」


「これなら5位……いや、3位はいくか!? 何にしても、この偉大なるランキングの歴史に名を残す逸材ですね!」


「うむ……! 実に素晴らしい……。で、誰なのだね、これは」


「……それが」


 喜ぶ3人とは対照的に、その2年生の口調は芳しくなかった。

 しばらくの間を空けた後、迷いながらも、不審に思って眉を潜める3人に少年は答えを突き付ける。


「その人物は……1年3組の生徒で……その……赤月 玲です」


「「「……は?」」」


「あの……赤月 玲です……」


「ま、待て待て! あ、赤月 玲だと!? どういうことかね!? では、これは女装で、この素晴らしき頂きは偽乳だとでもいうのかね!? この私が、偽物を見極められなかったというのかね!? この私がッ!!」


 あり得ない。そんなことはあり得ない。

 あらゆる女性のバストサイズを見極め、偽乳を切り捨ててきた、その神の領域にまで足を踏み出さんばかりの眼力を持つ、この鷹の眼をもってして、騙されたと。


 ブラの補正は勿論のこと、パットの枚数から豊胸手術の有無まで、数多の虚像を写真の上からでも暴いてきた、この眼が欺かれたと。



「その……確かにその少女はあの赤月 玲なのですが、断じて偽乳ではありません。女装でもありません」


「……言っている意味がさっぱりわからんのだが…?」


「情報の提供者によれば、何でも『魔力門(ゲート)』を開こうとしたら女体化してしまった、とのことです」


「「「「何だそのワンダフルな展開は!!」」」


 意味はさっぱりわからないが、「女体化」というパワーワードの前ではそんなことはどうでもよかった。

 常識的に考えてあり得ないが、そんなことはどうでもよかった。



 女体化──則ち、女になるということだ。

 女体ということは、女である。


 仮にあの赤月 玲であろうとも、女である。



 ……アリじゃないか? だって女だもん。


 いや、しかしどういうことがあってそうなったのか。

 いやいや、最早そんなことはどうでもいいのかもしれない。

 仮に、もし仮に、だ。そのロジックが明らかとなることで、自分達以外の男を女に出来れば──。



 築くことが出来るのではないか。禁断の花園を。



 ということは──そうだ、問題無い。女ならば、問題無い。

 この「第6高女生徒おっぱいランキング」に加えても、何も問題無い。


 だって、おっぱいが本物なのだから。

 元が男でも、確かにそれは女の子で、おっぱいはおっぱいなのだから。



「……私は…アリだと思うがね?」


「右に同じく」


「同感です。元が何だろうと、女子生徒になっているならOKでしょう」


 即決であった。やはり何の問題も無い。

 決まりだ。赤月 玲には、身体測定の際に、スリーサイズの測定を追加する。決定事項だ。



 浮かれるハゲ鷹を他所に、だが2年生の顔色は未だに優れない。

 まだ何かあるというのか。


「それと……別件でもう1点…」


「……何だね?」


「……誰かはわかりませんが、我等『おっぱい四天王』に、宣戦布告をして来た1年生がいます」


「──ほう」


 差し出されたのは1枚の便箋。

 そこには、綺麗な文字で短くこう書かれていた。



「──『おっぱい四天王』を名乗りながらも巨乳しか愛せない憐れな猿山の大将達に、何れおっぱいの真理を解く。近くして、貴殿等はその地位を失うこととなるだろう」



 最後に、この手紙を用意しただろう人物を表すだろう名称が記載されている。



 その名は、胸ソムリエ──。

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