09 武器って何だ!? 躊躇わないことさっ!
「それじゃ、僕達も武器選びを始めようか」
棗の言葉に各々頷くのだったが、ここでもやはり玲は頭を捻っていた。
「武器選びねぇ……。それ、どういう理屈なんだ?」
いまいちピンと来ないのである。
『天魔武幻』のためにも、早い内に武器に慣れておく、というのは頷ける。
だが、そんなものは合わなかったら「はい、じゃあ次の武器」といった感じに変えていけばいいのではなかろうか。
そんな玲に、いつものようにリィエルが答えを差し伸べる。
「ふむ、いい機会だ。ここで『守護天魔』の武器と『天魔武幻』について、簡単にレクチャーしてやろう」
「おなしゃす!」
既に玲は聞く気満々。地べたに正座をしているレベルであった。
それを見て苦笑する璃由と、何故そんなことも知らないのかと言いたげな雅と棗。
温度差はあるが、どうやら玲が無知であるということは知れ渡った様子である。
「まず、『守護天魔』には扱える武器の適性というものがある」
「適性……。ゲームでいうあれか、このキャラはこの武器は使えるけど、これは使えない…みたいな?」
「うむ。まさしくそれだ。例えば……クラン、お前の適性は何だ?」
名指しされたクランが、もう諦めたような優しげな笑みで玲をチラッと見た後、リィエルの言葉に返答を述べる。
「私の扱える武器は、弓と槍になりますね。ですから、璃由にもそれに準じて貰う必要があります」
「私は薙刀の扱いを少しおじいちゃんから教わっていたから、ちょうど良かったわ」
そう言った璃由の手には、一振りの薙刀が握られていた。
純白の柄に、反りの小さな細く蒼い刀身。鍔に取り付けられた紺色の飾り布が、その美しさをより引き出している。
どうやら璃由は、事前にクランと相談していたようだ。
クランの適性である槍は薙刀も含まれていたらしく、めでたく相互にとって都合の良い状況のようだ。
「『天魔武幻』を使うには、事前にその『守護天魔』が魔力を通した武器である必要があるのだが、武器に魔力を通すには、この適性に一致している必要がある。場合によっては、適性が1つしかない『守護天魔』もいるから、その点、璃由は非常に運が良かったと言えるな」
「そうね。もしクランが薙刀も勿論、槍も駄目だったら、私も困ってたかも」
「その上、魔力を通しておくにも、それが可能な素材で作られている必要もある。人間界の素材ではまず不可能というわけだ」
「なるへそ……。それで『守護天魔』からわざわざ武器を借りる必要がある訳だな」
「そういうことだな」
頷きながら、玲は考える。
ということは、少なくともリィエルには剣の適性がある、ということか。
剣と一口に言っても、短剣から片手剣、両手剣、幅を広げるならば、璃由の持つ薙刀も刀剣の1つである。
最低限、片手剣は間違いない、といった具合か。
「んじゃあさ、クランみたいに複数の適性がある場合は、状況に応じて使い分けるっていうのもありなんじゃねぇの?」
複数の適性があるのならば、当然その考えに至るだろう。
そしてそれは、複数の適性がある『守護天魔』となら、複数の『天魔武幻』を使用できる、ということを意味するのではないか。
もし、リィエルが剣だけではなく他の武器の適性も持っているなら、それこそ無敵である。
剣であれならば、例えば銃とかだったらもっと凄いことになるのではないか。
そんな考えに胸を膨らませた──実際に膨らんでいるが──玲だったが、リィエルは頭を振った。
「お前の想像通りにはいかんのが、世知辛いところだな」
「え?」
「基本的に『天魔武幻』というものは、初めて発現したものと似たものとなるのです。何せ、『守護天魔』と人間、両者の幻想を紡いだ武器ですからね。一度形を得てしまうと、覆すことが難しくなるのです。メイン、サブと割り切って使い分けるならまだ良いのですが、複数を並行してしまうと、出来上がる『天魔武幻』が中途半端になってしまう、等ということもあります。何せ、術者の幻想が鍵ですからね」
「……そういうことか。確かにそれだと、下手に複数扱おうとするのは悪手ってことか」
クランの説明のお陰で、ようやく納得が行ったご様子である。
なるほど、それならば確かに最初の武器選びは大事になってくる。
『天魔武幻』を発現するに至るには、まず『守護天魔』と心を通わす必要がある。
その上、初めて発現したそれに定着してしまうのであれば、無論使いやすい武器でそこに至るのが当然だ。
そして、武器の扱いに習熟するにも時間が要る。
なればこそ、1つの武器に的を絞っていった方が、熟練度的にも出来上がるだろう『天魔武幻』的にも利に叶っている。
『天魔の十字架』の起動確認と銘打って時間を取るのも、頷ける話だった。
──いや、それにしたって説明が不十分過ぎやしないだろうか、うちの先生は。
「まあ、その点お前は悩む必要が無いわけだがな」
「え? ……ああ──」
リィエルの言葉に、玲はハッとする。
そう。そうだった。
初めて発現した『天魔武幻』──その幻想が定着するのであれば、つまり玲のそれは、既に押し固まったものである、ということだ。
何せ、昨日の鎧戦において、既に『天魔武幻』を用いているのだから。
即ち──武器を選ぶ必要性が無い。
「つまりあれか、オレは選ぶまでもなく剣を使うことになったって訳か…」
どのみち何を使えばいいかわからなかっただろうし、というか、完全に素人の玲にとってはどの武器も差は無いだろうし、そういう意味では特に不満も無い。
むしろ、なまじ選択肢があるより気楽なぐらいである。
「そして、やはりそうなるとこの剣がお前には相応しいだろう」
しかし、リィエルが取り出した剣に関してだけは、声を大にして文句を言いたい代物であった。
リィエルの右手が、突如空間を裂いて現れた黒い歪みに沈んでいき、戻ってきた時には一振りの剣が握られていた。
ドシュッと、リィエルの手から放たれて、眼前の地面に突き刺さったそれ。
柄から剣先に至るまでが漆黒に彩られた、闇色の片刃の直剣。唯一、刀身に浮かんだ6つの謎の文字だけが白いという、まるで夜の星空のような剣である。
見覚えがあった。いや、何となく予想はしていたが、よもや──。
「ちょっ…! やっぱりこれかよ!!」
思わず後ずさった玲。
魔剣レーヴァテイン──の模造品。
人間界に伝わる神話からリィエルが鍛冶神に無理矢理作らせたという、破滅の神の力が宿った恐ろしい剣である。
この時点でも既に触りたくないというのに、この剣の能力といったら……。
「お、いいな赤月! 剣じゃんか! やっぱ無難が一番だよなぁ…」
大袈裟に飛び退いた玲を見て、雅がそう声をかけてくる。
どうやら、リィエル達の講義の間に武器選びをしていたらしい。
「この剣の怖さを知らないのが羨ましい……」
そんなふうに毒づいて、玲は視線を雅に移して──固まった。
「……刈茅さんや、そいつは……」
先入観があったことは否めない。
事実、武器と聞いて頭に浮かんだのは、剣とか槍とか、鞭とか鎌とか、拳銃とかそんなところだった。
だから、雅のそれを見て「そう来るか……」と思ってしまった。
雅の右手は、何かバカデカい金属に覆われていた。いや、最早巨大な拳とでも形容した方がよいだろうか。
拳が武器とはよく言ったものだが、余りにも愚直過ぎる。
某エグゼなロックマンのガッツスタイルのようなガントレット。文字通りの鉄拳。
それが、どうやら雅の武器のようだった。
(──いや、浪漫はあるよね。うん。何というか……そう、重量感がある。やっぱり武器は1発の威力だよね!)
言葉にはしなかった。それがフォローにならないことは、言うまでもなくわかりきっているから。
どうあっても近接武器なのに、なまじデカいが故に取り回しも難しいだろう。
つまり、一発屋というか、浪漫大砲である。
ガッツマンよろしく、床に穴でも空ければいいのか。それとも岩石でも落とせばいいとか。
武器とは何か。何を差す言葉なのか。雅を見ていると、そんな哲学的な考えまで浮かびそうだった。
「……他の選択肢はなかったのか?」
「ああ……付けると怪我しそうなぶっ飛んだメリケンサックと、あとは何でも出来ちゃいそうなトゲバット──もとい棍棒があったぜ……。これも握ったら手が穴だらけになりそうだったけど…」
「……」
……言葉が無かった。
雅の『守護天魔』である堕天使シアは、どうやら碌な武器を所持していないようだった。
持ち主が天使ということも相まってか、「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ~」等と聞こえてくるような気さえする。
確かに、そんな怪我が必須のメリケンサックやトゲバットと比べれば、幾分マシなような気がしなくもない。
泣きそうな顔の雅が、静かに規定の呪文を唱えると、その巨大なガントレットは光の粒子と化し、彼女の首に掛かる『天魔の十字架』に吸い込まれていった。
「いいなぁ……剣……。やっぱ剣だよなぁこういうのはよぉ。あたしも剣が良かったなぁ……」
(お……重てぇ…! 言葉が重てぇええ!!)
人間側にとって、武器の選択は『守護天魔』次第である。
夢に描いたカッコいい武器が扱えるとは、限らない。
その事実が、今ここに示されていた。
「な、なぁ……リィエル。あのシアって奴の武器適性って何なんだよ…」
思わず小声でそう問い掛けた玲に、リィエルも苦い顔をしながら小声で言葉を返す。
「ナックル系の武器と、棍棒だな……。ただ、あいつはちょっと変なところがあってな……。こう、無骨というか厳ついというか……奇をてらったぶっ飛んだ武器を好むというか……それしか用意しないというか……。気に入らん奴には問答無用で鉄塊をぶち込むような奴だからなぁ…」
「……」
とんだ見かけ倒しもあったものだ。そのエロティックな風貌しかり、堕天使という特殊な存在しかり、もっとそれらしい武器の適性があってもいいではないか。
尚更、クランを引き当てた璃由がどれ程幸運であったのかが見て取れる。
「はぁ……仕方ねぇけどさ…。あー、いいなぁ剣。ちょっと貸してくれよ、それ」
「え? あっ……ちょい待っ──!」
落胆に暮れる雅が、せめて剣を振ってみたいとでも思ったのだろう。
玲の返事も待たずに、玲の近くに深々と突き刺さったその黒剣を握り、次の瞬間崩れ落ちた。
「がっ…!? な、な…ん……だ…!?」
「やば…!」
大慌てで玲が雅の手から黒剣を奪い取ったことで、雅は黒剣から解放され、両手を地面に着いて苦しげに肩を上下させる。
「大丈夫か刈茅!」
「っはぁ…はぁ……! な、何だよその剣」
雅が触れてから玲が奪い取るまで、僅か5秒程度。
その僅かな間に、雅はかなりの魔力を奪い取られたようだった。
この剣がどれ程恐ろしいものなのか、それをまざまざと見せつけられた格好だ。
「えっと……鍛冶神ヘパイストス様に無理矢理作らせた、魔剣レーヴァテインの模造品……らしい。持った奴の魔力を吸い上げて、代わりに斬りつけた相手に、傷口から魔力が漏れ出す呪いを掛ける……とんでもない代物っす…」
「……お前…そんなもん持ってて平気なのかよ…?」
「魔力だけは腐る程あるらしいからね、オレ……」
「……女になったり、お前ホント何でもありだな…」
若干ではあるが、雅の赤い瞳には陰りが見える。
あと少し、彼女と剣を引き離すのが遅かったら、魔力切れを起こしていたかもしれない。
とはいえ、こうして軽口を叩ける程度で済んで良かった。
「なぁリィエル、この剣は流石にヤバイだろ。オレの手にゃ余ると思うんだけど」
膝に手を着いてようやく立ち上がった雅を心配そうに見やりながら、玲はそうリィエルに言葉を投げ掛けた。
──どうでもいいが、息を荒げる巨乳美少女と、それを心配そうに見ながら身を屈める巨乳美少女。
高校1年生の男子達には、酷く刺激的な光景だった。
そんな男子達の欲望の眼差しにはまるで気づかず無頓着で無防備な姿勢の玲に、リィエルが少々複雑な表情を浮かべる。
(自覚がないというのも困りものだな……。まだジャージを着ているからいいものの…)
玲の女体化は、服にまでは作用していない。従って、その魔性の果実を隠す下着は無い。
服装によっては、目のやり場に困る痴女の出来上がりである。
(というか……元が男でもいいのか……男子諸君…)
人間界の未来が心配になるリィエルだった。
「玲、お前にとってその剣は非常に好都合な武器なのだ」
とりあえず今は疑問に対する答えを返しておこうと、リィエルは口を動かした。
「好都合……? この剣が?」
「ああ。何せ、お前はとんでもない欠陥を抱えているからな」




