表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/48

01 説明しよう! 魔力とは(以下略) その1

 眩しい──。


 確かな明かりを感じて、沈んでいた意識が少しずつ浮上していく。

 だが、それでも、未だ半分以上微睡みの中にある意識は、事態を正常に認識出来ていない。


 そもそも、何故眩しい等と感じるのだろうか。記憶が飛んでいる。


 覚えている範囲では、確か鎧を倒してしばらくした頃、急激に全身を強い痛みが襲って、それから──。


(ああ……気絶、したのか…?)


 ともすれば、この明るさは太陽の光か。


(……ん? あれ…そういやアラーム掛けてねぇよな……。それでこんな眩しいってことは…)



 ──遅刻!?



「やべぇえええ──うごぉッ…!?」


「ぶはっ…!」


 勢いよく持ち上げた頭が、すぐに何かにぶつかり、重々しい音をあげた。

 そして、自分とは別の悲鳴が聞こえてくる。


 どうやら、誰かにぶつかったようだった。



「~~~! 顎ぐぁあああっ!!」


 再び枕に沈んだ玲は、聞き覚えのある声が耳に入って、打ち付けた頭を押さえながらも何とか周囲の状況を確認する。


 室内は、暗かった。朝どころか、日もまだ昇っていないだろう程に。

 壁に取り付けた時計を見てみれば、まだ5時を過ぎたくらいだった。


 深く息を吐く玲。入学2日目から遅刻等という憂き目には遭わなくて済んだようだ。



 そこまで認識してから、ようやっと玲は、身体に加重を感じることに気がついた。

 頭を持ち上げてみれば、玲に跨がったまま、顎を押さえて悶絶する少女の姿があった。


「……何やってんだ、リィエル」


「馬鹿者…! お前がいきなり…頭を上げるからだろう…!! い、痛ぃいい…! 脳が…脳が震えるぅぅうぅううっ!!」


「痛がっててもネタに走るとか、勤勉デスね」


 どうやら、玲の頭がリィエルの顎を強襲したようだった。


 天界、魔界にその名を馳せるリィエル・エミリオールとはいえ、意識の外から顎に直撃を食らっては、流石に堪えるようだった。



「眩しかったのはそれかよ…」


 未だひーひーと唸っているリィエルの右手には、小さな懐中電灯があった。

 どうやら、それを目に向けられていたから眩しかったようだ。


「危うく遅刻したかと思ったぜ…。食パン咥えて全力疾走とか、定番っちゃ定番だけど」


「うぐぐ…。きゃー…大変、遅刻よ遅刻……」


「付き合ってくれるのはありがてぇけど、その台詞だと女の子じゃねぇか……って」


 そこで、ふと気づく。耳に入る自分の声が、幾分か低くなっていることに。


 ──まさか。



「うがぁっ…!?」


 跳ね起きた玲。そのせいで、小さなリィエルの身体は玲から転がり落ち、ベッドから転落。

 ゴン、と再び固いものがぶつかった音がしたが、それどころではなかった。



 胸に両手を当てて──。


「ないッ!」


 そして、股間に手を当てて──。


「あるッ!」


 それから頭を触ると、あんなに長かった髪もすっかり元通りになっていることに気がついた。

 布団をはね除けてみれば、服装は依然としてスカートのままであったが、いや、服装なんかどうでもいい。それよりも──。


「戻った! 戻ったぞぉおお!」


「こんのぉ……昇龍拳っ!!」


「うごッ…!?」


 喚く玲に、高速の一撃が決まる。

 それは、床に落とされ、苦悶に顔を歪めるリィエルが放った強烈なアッパーだった。


 今度は玲が、苦痛にひーひー言う番であった。




「んで…何してたんだよ…。目にライトなんか当てやがって…。アラーム掛けてなかったから、起きられたのは良かったけどさ…」


 殴られた顎を押さえながら、ベッドに腰掛けた玲は半眼でリィエルを睨む。


 今さらもう一度寝るという気にもなれなかったので、部屋の電気は点けている。

 そのお陰で、椅子に腰掛けながら、頭に出来たたんこぶを擦ってこちらを睨むリィエルの表情がよくわかった。


 見た目が13歳くらいにしか見えないことも手伝って、目に涙を湛えているリィエルは、非常に幼女めいていた。



「鎧を倒した後で、お前が急にぶっ倒れたから調べてやっておったのだ! 公園の修復依頼を天界に出し、泣きじゃくる奏を何とか宥めて家まで送り、倒れたお前をここまで運んで、その上調査までしてやっていたのに……それなのにこの仕打ち…! お前私を誰だと思っているのだっ!」


「う…ご、ごめん…」


 思いの外、色々とやってくれていた。

 確かに玲の記憶は、鎧を倒してしばらくのところで無くなっている。


 よもや、天魔の姫君にここまでさせる人間が、果たしているだろうか。

 きっとクランなんかは、あれこれ言っていたことだろう。



「まあ…いい。私は心が広いからな! 条件次第では許してやってもいい。痛かったけども。凄く痛かったけども!」


「わ、悪かったってホント…。頭突きはまだしも、突き飛ばしたのはホントに悪かったよ。で、何だよ?」


「クレープだ」


「は?」


「今日の放課後、クレープを買って寄越せ。私はあれを食べてみたいのだ。だから、それで水に流してやるぞ! 感謝しろっ!」


「お、おおぅ…それくらいでいいなら…」


「ホントか! 約束だぞ!? 破ったら酷いからな!」


「近い近い近い! わーったから、買うから!」


 嬉々とした様子で身を乗り出してくるリィエルの両肩を押さえて顔を遠ざけながら、玲はそう言って苦笑した。


 クレープくらいでここまで顔を明るくするのだから、意外に可愛いげのある奴だ、等と考える玲。

 どうやら、クレープを食べたことが無いようだ。


 天界や魔界には、そう言った食べ物も無いのだろうか。

 いや、それ以前に、そもそも『守護天魔(ヴァルキュリア)』は、食事を必要とするのだろうか。



 疑問はあったが、そんなことよりもやるべきことがあると、玲はスマホを取り出した。


 そう、心配を掛けた愛しい妹に、兄の無事を伝えなければならない。

 きっと今ごろ、兄の安否を憂いて、眠れぬ夜を過ごしているのだろうから。


 取り出したスマホを見れば、そろそろ充電が切れそうだった。

 というより、壊れていなくて良かった。ずっとブレザーのポケットにしまったままだったので、壊れていても不思議はなかったが、特に異常はないらしい。


 多少傷は出来てしまったようだが、それよりも今は、兎にも角にも連絡だ。



 すぐさまSNSアプリで、奏にメッセージを送る。


『奏ー! お兄ちゃんは無事だぞ! 愛してるー!!』


「……そんな内容で大丈夫か?」


「大丈夫だ、問題ない」


 画面を覗き込んだリィエルの疑問に応答しながら、送信のアイコンをタップする玲。


 数十秒後、スマホが通知音をあげた。


『良かったぁ! あたしも愛してるよーお兄ちゃん!』


「おおぅ……」


 返信を盗み見たリィエルが、頭痛を覚えて頭を押さえる。


 家まで届ける間にも、無事であることは何度も説明した。なのに、こんな時間だというのに即返信。

 この早さから考えると、どうやらずっと起きていて、どころかスマホを握りしめて連絡を待っていたようだ。



 ──余りにも、常軌を逸している。



 そのぶっ壊れ具合に、ぶつけた痛みも相まって、余計に頭が痛かった。


「……お前達兄妹は本当に何なのだ…」


「何って、仲良し兄妹だろ。っと、それよりさ」


 スマホをしまいながら、玲が話を切り替えようとする。

 リィエルも、これ以上この訳のわからないバカップルのような兄妹に付き合うのはご免だったので、特に反論しなかった。



「オレ、なんでぶっ倒れたんだ? やっぱいきなり無理し過ぎたとかなのか?」


「ふむ、それがそうとも言えんのだ。ちょっと待っていろ」


 その質問を待っていたとばかりに得意気に頷いて、リィエルはそう言って右手を鳴らす。

 すると、どこからともなくスケッチブックとサインペンが現れ、リィエルは鼻唄混じりに何やら描き始めた。



 しばらく掛かるようだ。



 リィエルがお絵描きに興じてしまったため、玲はスマホを充電器に繋いだり、取り敢えず部屋着に着替えたりと、そんなことをしながら時間を潰す。


 そう言えば、女体化する前に着ていた血塗れのスウェットは弾けとんでしまったので、部屋着が一着無くなった形である。

 どころか、無駄に女子用制服が2つに増えた訳だった。


 ……頼んでもいないのに、予備が出来てしまった。



 そんなこんなでしばらくすると、「出来たぞ!」とリィエルが満足げに頷きながら、描いたものが玲に見えるよう、胸の前に掲げてみせる。


「ファッ!?」


 そこには、劇画タッチで描かれた、ブーメランパンツ姿の筋肉モリモリマッチョマンの姿があった。

 玲が待っていたのは、せいぜい数分だ。そんな短時間で、この仕事である。


 無駄にクオリティが高い。余りに完成度が高すぎて、いっそスケッチブックのそれが実物であると言われても頷ける程だった。


 どや顔のリィエル。そして、ほくそ笑みながらフロント・ダブル・バイセップスというポーズをとっている、筋肉質の男のイラスト。

 幼女とボディービルダー。余りにもミスマッチ過ぎる。



 よくよく見れば、ビルダーを避けるように、『よくわかる☆魔力運用!』と書かれている。

 どうやら、これは表紙のようだ。


 ともすれば、いったいこの短時間に何枚描いたのだろうか。



「諸々説明するためにも、今回はわかりやすいようイラストを用いながら解説していくぞ。なお、これは人間に限らず、我々『守護天魔(ヴァルキュリア)』は勿論、幻妖にも当てはまる話だ。よーくそのへっぽこな頭に入れておけ」


「絵が気になって話が入ってこなさそう…。もっとポップなイラストが良かったなぁ…」


「さて、魔力は精神エネルギーを燃料にして作られるものだ」


「スルーかよ…」


 リィエルは玲に構わずページを捲る。どうやら、取り合って貰えない様子だった。

 仕方がない。絵があるだけいいと思うことにする玲。



「精神エネルギーの魔力への転換は、『魔力の器』と呼ばれる概念器官の中で行われ、作られた魔力はそこに蓄えられていく」


 先程の筋肉質の男の上半身が拡大された絵。その胸部に壺があり、その壺の中に炎が描かれている。

 どうやら、この壺が『魔力の器』のようだった。


「魔力は、器の中で常時生み出されていくが、この器の容量以上には溜まらない。余分な魔力は、溢れて精神エネルギーへと還っていく」


「ほうほう。エコな作りだな。魔力量って、つまりはこの壺のサイズってことか?」


「それも勿論あるが、もう1つ。魔力への転換スピードも関わってくる。器が大きいほど大量の魔力を保持しておけるし、器が小さくとも転換速度がそれを補うほどに早ければ、魔力量は高いとされる」


「なるほど、オレの場合は、器がデカい方か?」


「ああ。その上転換スピードも、決して遅くはない。その点は恵まれているな。さて、器に蓄えられた魔力だが、実はこの段階ではまだ魔力としては未完成の状態だ。溢れた場合等に精神エネルギーへ戻すことが出来るよう、完全な転換はされていないのだ」


 そう言ってページを捲るリィエル。次のページは、内容が盛り沢山だった。


 壺、そこから伸びる筒、その先に繋がる門、そして門から矢印が引かれ、その先にようやっと炎とか雷とかを迸らせる人のイラストがあった。


 余談だが、今度はデフォルメ調である。玲の希望であった、ポップな絵だ。

 思いの外、芸が細かい。



「未完成の魔力は、『魔力路(まりょくろ)』と呼ばれる、『魔力の器』と『魔力門(ゲート)』を繋ぐ管を通ることでコンバートされ、完全な形となる。そうして『魔力門(ゲート)』を抜けた魔力が、本人が自由に扱える魔力というわけだ。この過程を終えると、もう精神エネルギーには戻らない。これが件の鎧が大気中の魔力を吸収するという能力を持っていることがあり得ない、とされた理由だ。そもそも、大気中の魔力と、捻出された魔力……これらはまるで物が違うのだ」


「どうでもいいんだけど、何で門の方だけ英語なんだ?」


「日本語の発音のせいだな。魔力路(まりょくろ)魔力門(まりょくもん)、発音が似ていて紛らわしいだろう?」


「そういうことか。どうせなら"魔力路"か"魔力量"のどっちかのがいいような気はするんだけどな…。まあ、どうでもいいか。んで?」


「うむ、続けるぞ。魔力を使う上でよく取り上げられる問題は、次の2つ。まず1つ目が、”魔力の枯渇”だ」


「ああ、それは説明なくてもわかるな。要は、器の中身が空っぽになっちゃう訳だろ?」


「その通り。厄介なのは、『魔力の器』には、常時一定量の魔力が無いといけない、という点だ。『魔力路』でのコンバート作業の動力源も、実は器の中の未完成な魔力でな。ここが空に無くなると、コンバートも行うことが出来ないのだ。おまけに、元が精神エネルギーだけに、魔力の使用はダイレクトに精神的な疲労、ダメージとして翻る」


「じゃあ、器がすっからかんになると、相当精神的にキツいって訳か」


「うむ。それだけに、こうなった者の判断はつきやすい。精神的に衰弱しているし、目を見ればわかる。具体的には、このように瞳が光を失った感じになる。アニメ的に言えば、ハイライトが無くなる」


「おい、SEED弾けてんじゃねぇか! 衰弱してねぇよ、怒り狂ってるよそれ!」


 捲られたページには、さも機動戦士のコクピットに座っているかのような、ヘルメットを被った少年の絵が2つあった。


 漫画のようにコマ割りがされており、吹き出しまで用意されていて、そこには「アスラン!!」「キラ!!」等と書かれている。


 親友同士の決戦シーンである。無論、とても衰弱した様子の絵ではない。



「……けど、それで目を見てた訳か」


「そういう訳だ。魔力が回復しても、しばらくは症状が残るからな」


「うーん…。それが原因じゃなさそうな気がするなぁ。別に元気だったし、魔力もまだまだある感じしたぜ?」


「だろうな。さて、では次。”魔力の枯渇”と並んで多いのが、”『魔力路』ないしは『魔力門(ゲート)』のオーバーヒート”だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ