複数盗めるのはなんで?
「仕切り直し二回目ェ!」
「二回……じゃ済まないと思うけど、とりあえず行こう!」
「おう、強引に行くぜ! 盗めるシーフにも二種類あって、その区別は盗むモノだ!」
「キャーカックイーダイテー。お金とアイテムのことですね」
「舟長が盗めるのは素材だから、アイテムの方だなあ!?」
唯一叫んでいない斧戦士が、いつも通りの茶々を仕込む。
むろん、舟長はイラッと来たが、それをするとまた話が逸れてしまう。ここはぐっと我慢だ。いい加減、次に行きたい。
「お金の方は専門じゃないからぱぱっと解説しちゃうよ! よく分かんないし!」
「ツッコミたいとこが山程あるけど、最後のは言っちゃダメだと思う!」
結局突っ込んでる……なんて追及するのは野暮だろう。それに、魔法使いの一言はどう考えても余計だった。食わず嫌いに通づるものがある。
「金を盗むシーフつーと、やっぱ相手は人間かあ!?モンスターだと色々面倒だしなあ!」
「何でモンスターを倒すとお金が手に入るのか、とかそもそも分かってないこともあるのに、さらに増えるとかどういうことよ」
「お前まともなこと言えるのか! じゃなくて、世界観がちゃんと設定されてる場合はその説明が着くこともあるよな! ……例えば、討伐証拠になる部位の価値を分かりやすくお金として表示してるとか、パーティー内に鑑定士とか商人がいて1回の戦闘ごとに金額を割り出してるとか」
「魔物が普通にお金を使う世界だったら、持ってても不思議はないね!」
「舟長あとで殴ろう。しかしながら、世界観によってはなお説明が着かなくなる可能性も。討伐証明の部位がいつも無事だとは限らないし、仮に無事だとしても盗んだことで取得金額が増えることの理由にはならない。あと、魔法使いさんの説だと、いくら魔物といえどヘソクリまで奪っちゃうのはどうなのよ」
専門外とは一体なんだったのか、怒涛の勢いで可能性の話を述べていく三人。アサシンは全く口を挟めない。剣士とて、話のきっかけとして先鋒を務めたものの、あとはご無沙汰だ。
あと、舟長の口から出た災いによりまた死にかけているが、ここで描写を挟むと字数が危うい。なかったことにさせてもらおう。
「通常とは異なる魔物って説明ができるような部位をさらに盗んだんだよ、たぶん」
「つまり、どういう状態なんだあ!?」
「レア種だったとか」
「特別変異した……とか?」
「色ちがいだったのです。ボスとかイベント的な意味で」
「そのイロチは嬉しくねーな。手抜きじゃねーか」
「ところで、種の特別性で価値が上がるなら、色は同じだけど、やたら強くて苦労したモンスターの取得金額も上げてくれませんかね?」
「思わなくもないけど、今回の話題とは関係ないし、そのタイプって戦闘前も戦闘中も見分けが着かないからすごく面倒じゃない?」
「(やったことないけど)」
魔法使いが余談を口にするも、すかさずアサシンがフォローして話を終了させる。剣士は感心していた。
一方、斧戦士の一言は本当に余計だった。
◇◆◇◆◇
「アイテム奪取系シーフの巻~」
「アイテムって分類した理由をまず知りたいぜ!」
「ボクのイメージだと、舟長は素材を盗んでるって感じなんだけど」
「その素材っていうものの定義をはっきりさせるのじゃ」
「唐突なジジイ化に笑うしかない。あと舟長うぜえ」
仕切り直し早々にdisられる舟長。素材を盗むときくらいしか需要がないもんね、仕方ない。
「魔法使い、てめぇ! ……素材は素材だろ、モンスターの部位とか」
「なにかね、舟長? 宝石とか貴金属とかはどうしようか。人から盗むのは容易に想像できると思うけど」
「カーバンクルとかゴーレムとか便利なモンスター群がいるので、それで。採取した扱いにすればいいんじゃね、たぶん」
「そうすると、木材とか染色とかも同じ感じなのかな」
「武器とか防具はドロップだけだから……違うかあ」
「我々的にはそうだけど、他のゲームだとむしろ盗みオンリーだったり、デマだったりするから困る」
「そういえば、戦闘後に返しちゃうから厳密に存在するかは分からないけど……誰かのお財布とかラブレターはどうなのかな」
魔法使いと舟長の顔が同時に強ばる。背景が暗くなり、雷のエフェクトと爆音が見えた気もする。
「エンドレスハートスティール!」
「やめろ、あれは夢だったんだよ、悪夢を思い出させないでくれ!」
「拒絶反応やばすぎだろ」
「お財布って10分の1、分け前くれるやつかあ?」
「そうそう。舟長強化クエストの」
正しくは、舟長がメインジョブとして活躍しているシーフの、強化クエストである。
舟長以外にシーフをマスターしていたアサシンや剣士も、しかるべき手段を取れば、自身のシーフ系スキルを強化することができる。あんまり使われないシーフ系スキルをだ。
一人いるだけで十分だから使われないのだが。やったね、舟長! 仲間は増えないよ!
「おいやめろ」
「元ネタからすればやめなくてもいいと思います」
「オレからすると激しく止めてほしいんだが」
「そんなことは知らん」
しかるべき手段をとるために受けるのが件のクエスト。ミドル級シーフまでマスターした、舟長とシーフギルドの面々が、己の盗み技術を競いあう……。まさにシーフ的なクエストだ!
実際は、舟長の盗みスキルだけが試されるのだが。
「魔法に強いのが魔法使いじゃないように、それに長けている人がそれを防御する術にも長けている訳じゃない、それがよく分かる一例でしたね」
「実際の戦闘上でプレイヤーに盗みを仕掛けてくるようなモンスターはいないので、身に付ける必要はなかった。アンダースタン?」
「イベント中だと容赦なく盗まれるけどなー」
「大体は貴重品……イベントアイテムだから別にいいんだけどね。そういうシナリオってことだから」
「負けイベントみたいなもんだし。勝ってもムービーでは負けてるって感じ。面倒だけど仕方ないよなー」
「ちなみに魔法に強い職は僧侶です。魔法使いもそれなりだけど、一番は回復職とか騎士職に譲っちゃうね」
五人用意された舟長の同僚から、マスターシーフのもとをそれぞれ盗み出す。これがスカイアドベンチャー、もとい舟長に課せられた役目だ。
だが、ただ盗むだけではもちろん駄目だ。通常の戦闘と同じく、盗んだものを手に入れるには、その戦闘に勝つか全滅せず逃げ出す必要がある。
舟長の同僚たちはイベントモンスターに属しているから、我々が『逃走』の選択肢を選ぶことはできない。そのためクエストの達成には、舟長が盗みに成功し、さらに相手のHPをゼロにしなければならない。
「ま、むしろこっちは、倒さずにいるってのが難しいっていうか」
「舟長が盗めるまで、無力化させて置かないと面倒だもんね。相手によっては即死とか麻痺とか、嬉しくない手を持ってることがあるし」
「こっちの状態異常が効くとしても、物理ダメージ+デバフじゃだんだん体力が削れちゃうから、魔法使いさんのスキル頼りになっちゃうしね」
「状態異常も呪縛とか麻痺ならいいけど、混乱だと分を叩いたりこっちを叩いたりしてくるもんな。無駄に攻撃力が高い相手だと、魔法使いとかが危なくて。まあ、オレが無事なら守ってやれるんだけどな!」
「あとはオレが盗むだけ、なんだがな……。なんなんだよあの仕様は……」
「絶対作った人は面白いと思って入れたんだよ。私も楽しかったよ? 乱数が片寄らなきゃね」
問題はその仕様だ。
舟長の同僚たちから盗むことができるアイテムは二つあり、片方はちょっとしたイベントが見られる“ハズレ”アイテムであるということ。それから、そのハズレアイテムは戦闘後、所持者の元に戻るため何回でも盗むことができること。
戦闘中に盗めるアイテムは一種類だけであること。そして、運が悪ければ、ハズレアイテムばかり盗み出してしまうはめに陥ること。
ハズレを盗む→会話イベントを見る→やり直しになる→ハズレを盗む……という無限ループが、五人のシーフでそれぞれ起こりうるという現実。
舟長と魔法使いのトラウマも、ここに原因がある。
幸い、そのうち二人しかループしなかったが、それでも十分だった。
「あんときはもう……精神的に死んだよ……」
「いーかげんにしろよ、って思いました。キレました。怒りました」
「人によってはあのイベントを見るためにリセットしたりなんだりしてるのにねー」
「何で戻るんだろうネー。被ったんなら被っただけ手元に残れば、まだ笑えたのにネー」
「お財布はともかく、行ったり来たりするハート(恋心)って、アウトじゃね?」
「どっちかに決めてほしいですね」
「おい、それじゃこっちに来ちまうかもしれねーじゃねーか。乙女なら心はちゃんとしまっとけ!」
という訳で。武器の錬金素材でもなく、
「ハート五個ぐらい使ってラブラブステッキ作ろーぜ!」
「正気か? おまえ。だいたい消えるから無理だし」
「もしも出来たなら、追加効果が気になるな」
「ステッキだから、杖だよな? 魔法使いが装備すんのか?」
「うんにゃ。売ります」
「金の亡者!」
「舟長に言われたくないです」
売却アイテムでもなく、
「ハート売り買いして金稼げないかな」
「R-18逝き間違いなしだな」
「プレイ可能年齢が見直されちまうぜ!」
「それなんてエロゲ?」
「たぶん、色んな犯罪で捕まると思うんだ」
消費アイテムでもなく、
「盗むまでに使用されたMP分を回復してほしいな☆」
「近くに宿屋があるだろ。そっちに行けよお」
「どうせ消えるなら、盗んだターンだけでも使えればいいのにな」
「ラブレターはともかく、ハートを使うのはどうかと思うよ!」
「どうあがこうが漂う犯罪臭」
ミッション用でも使えない……
「正規ルートとかクエスト終了とかでドロップしなくなるから、というかバトルできないから、不公平になっちゃうだろ」
「ハートを納品とかいうすごい状況について」
「ラブレター2000個もってこいとかどうよ?」
「まだ言うか!」
「ま、まあ、エロ本と水着ポスターが交換できる時点でな……?」
そんな用途不明品すら盗めちゃうので、単に素材奪取スキルと言うのは変だ。
この結論により、舟長の盗みスキルは「アイテム奪取系」と呼ばれることになった。
「説明なげーよ!」
「ごめん」
◆◇◆◇◆
「さて、そろそろこのスキルについて言及していくよ」
魔法使いが、何か文字の書かれた板を掲げた。白い厚紙にマジックで書いたようだ。
手作り感満載!だけど、紙に対して文字が小さ過ぎる。余白が多いぞ、魔法使いさん!
「盗む個数アップ……アビリティか」
「舟長が常に装備してるアビリティだね。効果は読んで分かる通りさ」
「アビリティは装備しなきゃ効果が出ねーぞ。スキルと同じくジョブを育てると入手できるが、スキルと違って装備枠には限界がある」
「これは、シーフ系ジョブをマスターしたときに手に入れられるものだな。効果もかなり高いし、ドロップ系と組み合わせるとなお強いぞ」
「アビリティにはいろいろ種類があるけど、これは能力強化ってとこかな。ほかには、ステータス強化とか装備ステ強化とか、追加攻撃とかスキルの効果を自動で発動させたり、ステータス上昇効果を上げたりだとか、特定のモンスター特攻効果を付けたり、属性防御を上げたりできるアビリティも存在するよ」
「本来なら装備できないジョブに斧を持たせるアビリティもあります」
「ドロップとかお金の取得率を増やしたりもできるね」
「ちなみに『盗みスキル』はレベル1~レベル3(MAX)まで存在しレベル増加に伴い盗み成功率が上がるんだが、それとは別に盗む率アップというアビリティもレベル3まで存在する。一人に装備させたアビリティは効果が重複するから、確率アップをレベル1+レベル2+レベル3と装備し、ここに個数アップも追加。最後に、シーフ系マスターで覚えるオールスティールを使えば戦闘時間が短縮されてはかどるぞ」
「最初の茶番で、舟長はこれをしてたのですよ」
「これだけ積んでも盗めないときもあるからな。そういう時に保険としてドロップ率増加レベル1~3、ドロップ個数増加、レアドロ率増加とか装備しておくとちょっと気が楽になるぜ」
「ついでにお金取得増加もレベル3までつけておくと、いいことあるかもね」
「このパーティでは、舟長が盗み系、アサシンちゃんがドロップ系、斧戦士さんがお金系を常時装備しているよ。本気でボス戦したいときは別装備だけど、ただ移動するだけでお金と素材が集まるのが魅力かな」
「探索用アビリティってとこかな。ボクたち冒険者なんだし、やっぱり一番は冒険しないとね!」
説明ありがとうございます。
「で、これがどうしたんだ?」
「くくく、これからが真骨頂よ」
「そういうセリフはいいんで、早く説明してください」
「えー。じゃ、個数アップ系のアビリティを二つ装備すると運が良ければモンスター一匹から1素材を4つ入手できるのはご存知よね?」
盗み個数アップ(二個になる)とドロップ個数アップ(二個になる)の効果が重複すると、
盗んだアイテム+ドロップアイテムの最大個数が、一匹につき4個になります。
個数系アビリティはこの二つしかないので、全部アビリティを付けた、と言い換えてもいいですね。
もちろん戦闘相手のモンスターが二体以上であれば、4個以上手に入れることは可能です。
「必ず二個以上手に入れられるわけじゃないんだよな」
「かなり運に左右されるけど、舟長のスキルが成功してアビリティ効果も発揮されるなら、そういうことが起こるだろうね」
「ところで、茶番の相手モンスターはユニコーンホーンを落としたわけだけど」
「なんだその地味な表記ゆれ」
「この戦闘で、もしもユニコーンホーンが4つ手に入ったとしたら?」
「一つ角が4つ……!?」
「ユニコーンホーンを落とすのは、どれも角が一本生えたモンスターばかりだな……」
「どこから盗み、どこからドロップしているのか。って話か」
「ご名答」
ユニコーンホーンまたはユニコーンの角、一角獣の角は素材アイテムだ。
盗みでもドロップでも入手でき、先ほどの二つが適用されるカテゴリーにある。
そして、素材の中でも地味に使用頻度が高く……素材が入手可能なモンスターは少ない。個数アップの効果によって一度の戦闘でたくさん手に入れたいアイテムだ。
しかし剣士の言う通り、数少ないユニコーンホーン持ちのモンスターはどれもグラフィックで一角が表現されているものばかり。
舟長とアサシンはいったい何を目指してその技量をふるっているのだろうか。
「スペアってことじゃ駄目か?」
「3つもスペアがあるのでござるか」
「唐突なジャパニーズパフォーマンスに驚きを隠せないぞ」
「発言の内容を指摘しようよ」
「一本取ったら生えてくるとしても……ほか二本は、いや違うよな」
「外道じみてるけど、内部に収納されていた分を奪ったって説はどうだろうか」
「せっかく剣士がぼやかしたのに……明確にしないでよ」
「まさに外道!」
「言ってる場合か」
今回のテーマは、ゲーム的に・システム的に導入されている仕様をどう現実的に表すか。
これに尽きる。
実際には、いわゆるモダンな現実ではなく、魔法やスキルの存在が当たり前にある異世界……いわばキャラクターが十全な能力を発揮できる世界……を想定しているためわりかしファンタジー的な展開は許される。だが、それにすべて寄りかかってしまうのは堕落。
禁句、ゲームだから。ファンタジーだから。
このようにこの考察を根本から覆してしまうような、横暴な行為は駄目だ。せめて努力はしようと、こうして熱く語っているのが無駄になってしまうではないか!
「ご都合主義感はなるべくなくしていきたい、書き手の鑑ですね」
「ほとんど言い訳じゃねーか」
「努力不足で設定が思いつかないものは、ファンタジーって言い換えればいいと思います!」
「おい」
「この子、感動的な説明文を台無しに……!」
「本音が漏れてるじゃないですかーやだー」
「あ、あれだ。ほら、ゲームエフェクトを再現する的な意味合いもあってだな!」
「舟長が魔法使いちゃんをフォローした!?」
「エフェクトは現実の物理法則とかを逸脱したもんが多いからな」
「舟長がオールスティールしてるシーンとかね」
「あれは舟長が高速で動きすぎて分身してるように見えるだけで、実は敵一体一体の懐に忍び込んでは盗み行為をしているってことになっただろ!」
「ほぼ同時に敵の懐に入るほどの速さだしな、別にミスってもおかしくないよな?」
「どいつもこいつも……」
「アサシンちゃんは、言い訳してもいーわけ?って言いたいのね」
コメントは控えさせていただきます。
「それはねーわ」
「寒いと分かって言ったんだよな?」
「たぶん、みんな言おうとしてやめたセリフだよな……」
「すごくおもしろいよ」
「ぶっひゃっひゃっひゃ。泣ける」
珍しくもなんともないことだが、魔法使いが泣いた。顔に涙の後はないものの、心はそれなりに傷ついたことだろう。自業自得? なにそれおいしいの?
「よしゃ、じゃあこういうのはどうよ。三つ以上盗める敵が仮にメスだとして」
「ちょっと待て。嫌な予感がするからストップ」
「一個から二個しか盗めない敵はオスなのか」
「そう。メスのおなかの中にいる胎児の分を合わせればちょうど四つ!」
「待ってってば!」
「なんでそんなえぐい想像してんだよ!」
とても心に傷を負った乙女の発想とは思えませんね。だって嘘泣きだろ、だって?
そりゃそうだけど。まず女の子の発想じゃないと思いませんか。
「やめろって言っただろ!」
「考察の一つに過ぎないよ。そんなに怒らなくてもいいじゃない」
「その発言は高確率で相手を煽らせることでしょう」
「そういうとこが空気読めないって言われるんだろ」
「リアルの話はやめてください」
「この話題はいいよ、もう。次の考察に行こ!」
ギスギスしたり、えぐえぐしたり、もうこりごり! という訳で次の話です。