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魔力を持たないパンピー(死語)と知らされた俺は、部屋に着くとまず紙にこれからやりたい事を書き上げる事にした。
取り敢えず、簡単な事でもいいから何かを取り組めばこのやるせなさを忘れられる気がしたからだ。
ざっと5つ箇条書きにして読み返す。
・町に行く
・剣術を習う
・メイドと仲良くなりたい
・彼女が欲しい
・そんな事よりアニメがみたい
........最後絶対無理じゃねぇか!
書いてるうちに欲望が溢れ出てしまった。
漫画読みたい、ネサフィしたい、動画でニコニコしたい。
現代日本人がテレビ無しで平気な訳ねーだろ。情報過多な時代で生きていた俺にとって、身の回りの事もろくに分からないのはどうにももどかしい。分からない事はネットで調べれば直ぐに分かった生活に戻りたい。パソコン召喚できないかな。
つってもそんなのは無理だし、先ずは剣術を学ばせてもらう事にする。
魔法が使えないなら、剣士になれば良いじゃない。
剣士になってダンジョン巡り。そこで出会った魔法少女とモンスター退治をして冒険をするのも良い。
『危ないから下がってろ!』
『でも、あなたに何かあったら私....』
『大丈夫だ、俺は死なねぇ』
『ニベウス....』
『この冒険が終わったら、俺達、結婚しよう....!』
『好き!抱いて!』
みたいな?
あれ?でもこれ死亡フラグじゃね?
とにかく、魔法でチートは出来なくても、もしかしたら剣術の方で才能が開花するかもしれない。俺はまだ異世界チートを諦めた訳ではないのだ。今日の夕飯に親に習わせて貰えるように頼んでみるか。
そう言えば、夕飯で思い出した。昼の葬式ランチ....。
あれ、どうにかならないもんかね。
あんなんじゃあ折角の料理も味が分からないし、息も詰まって食べ物が喉を通らない。どうせなら美味しく頂きたいものだ。
貴族だからワイワイ騒ぎながらは無理でも、あの重い空気をどうにかして欲しい。
....何か..何か策は無いのか...。
うーん........。
空っぽの脳ミソで何とか対策を練ろうと考え出した俺だったが。
「........zzz」
いつの間にか眠ってしまった。
新しい出来事ばかりで疲れていたのかも知れないが、メイドが夕飯の仕度が出来たのを伝えにくるまで、俺は机に突っ伏して爆睡していた。
「ニベウス様、夕食の仕度が整いました」
結局何も思い付かなかった。
しかも寝てたからそんなに腹も減ってない。
でも行かない訳にもいかないし....。
俺は机に転がっていたペンをポケットにしまうと、食堂に向かった。
食堂に入ると既に両親が席について俺を待っていた。お母様は俺がやってくると、安心した顔でニッコリと微笑む。俺も微笑み返すが、多分ぎこちなくなってるだろうな。
昼と同じ席につくと、給事が父親のグラスに白ワインを注ぎ始めた。どうやら俺が来る前に飲み物は決めたらしい。俺のグラスにはオレンジ色のジュースが注がれた。
三人に飲み物を注ぎ終えると、料理が運ばれて来て昼間のように乾杯して食事を始める。相変わらず、ろくに会話の無いしみっ垂れた夕食だった。
「......................」
........誰でもいいから、この空気を払拭してくれ。
お母様、本当に楽しいの?ケロッとした顔してるけど辛くないの?俺は辛いよ。テレビも無いからバラエティ番組で場も持たせられないし、控えてる執事やメイドは壁と同化してるしで誰も干渉してこない。
俺は、覚悟を決めた。
このまま葬式ディナーを続けるくらいなら、俺は自爆をしてでもこの空気をぶち壊す。
ポケットに入れていたペンを掴み、音を発てて立ち上がった。
突然の俺の行動に、両親は不思議そうな表情を浮かべ俺を見詰める。
「どうしたのニベウス?お腹でも痛いの?」
「お母様、お父様、お二人に伝えたい事があります」
「伝えたい事?」
心配そうなお母様と、訝しげな父親。
俺は二人の顔を交互に見て、意を決した。
「実は、俺は魔法が使えるんです」
その言葉に、二人は目を丸くした。
「ま、魔法ですって!?」
「どういう事だニベウス?」
「ふふふ、今、御見せしますよ....」
俺は持っていたペンを横にして目の前にかざす。
二人が固唾を飲み込む音が聞こえた気がした。
「魔術!ラバー・ペンシル・イリュージョン!」
ペンの端を持ち、上下に振って魔法を発動させた事によって、ペンがふにゃふにゃに曲がった。
そう、日本人のだれもが小学生の頃に一度は使った魔術。
ラバー・ペンシル・イリュージョンってちゃんと名称があったんだぜ。みんな知ってた?俺も三代に教えてもらったんだけどな。
さて、俺の魔法に対する両親の反応は。
「................」
「................」
ポッカーーーーーーン........。
二人とも、口を開けて呆然としていた。
心なしか、何してだコイツ、って声が聞こえるよ。
「何をしているんだニベウス」
「これ、ペンが曲がって見えません」
お父様は、はぁ?と言いたげな顔をすると、興味を無くしたのか俺から視線を外すと食事を再開した。
「ふざけて無いで座りなさい」
「....はい」
お父様に怒られてしまいますた。
俺は大人しく座った。
せめて、寝ないでいたらもっとましな手品の準備が出来たはずなんだ....。紐から落ちないトックリとか....ちくせう....ちくせう....。
俺は....無力だ....。
仕方なく、食事を再開しようとした時だった。
「ぶふっ!」
「?」
え?今誰か笑った?
「ふ、ふふふっ....あははははは!!!!」
お母様が、腹を抱えて笑っていた。
あれ、そんなに面白かった?
「あはは!!ニ、ニベウスったら....!もうっ....ルキウスも、真面目な顔で....二人とも面白いわぁ!」
お父様、まさかのとばっちり。
え?俺も?って顔でびっくりしてて草。
「そんなに笑わなくてもいいだろう....」
「だって....ふふっ」
「......」
あれ、お父様ちょっと笑った?
一瞬で分からなかったけど、俺にはそう見えた。
でも、少し空気は明るくなったようだ。
二人の表情から固さが抜けたように見える。
会話もぽつぽつと交わし、昼よりはましな夕食が出来そうだった。
会話の流れは自然と俺の事になり、家庭教師の事も話し始めた。
「とりあえず、明日には一人雇う事が出来そうだ。遅れてしまった分、頑張って取り戻しなさい」
「はい」
病気で寝込んでたらしいし、その分を取り戻せって事だろう。学校3日休んでたら授業ワケわからなくなったりしたしな。家庭教師ならその心配はないだろうけど、お父様としては何か基準があったりするんだろう。
「お父様、他にも習いたい事があるのですが」
「何だ?」
「剣術を習いたいと思っているんです。今後、何かあったとき自衛できるようになりたいので」
もっともらしい理由を述べると、父親は難しい顔をしてカトラリーを皿に置いた。
「それは駄目だ」
「え!?どうしてですか?」
「お前は病み上がりだし、身体は恐らく万全では無いはずだ。暫くは勉強に専念して、体調が戻るまで屋敷で大人しくしていなさい」
まさかの外出禁止令も出た。別に、具合悪いところなんて無いんだけど。
「俺、もう大丈夫です」
「駄目だ」
ぬぅ....
この有無を言わさぬ言い方。こりゃ反発もしたくなるな。
「お願いニベウス、ルキウスはあなたの事を思って言っているの。少しの間だけだから、我慢して頂戴」
ずっと俺の見方だったお母様までそんな事を言い出した。
ぐぬぬ....。剣士になって魔法少女とイチャイチャする計画が..。
「..........身体の調子が戻ったら、警備隊の一人に剣術を教えるよう言っておく。だからそれまで我慢しなさい」
「......分かりました」
ちぇっ
何とも無いのに何で信じてくれねーんだよ。
まぁ、二人からすると熱病で死んだから心配になるのは分からなくないけどさ、一日中屋敷にいるとか退屈すぎる。せめて町に出れれば文句無いのに。
「それと、今日は用意出来なかったが明日から薬も飲みなさい。少しでも早く回復するためだ。分かったな」
「はい....」
仕方ない。こうなったら超元気だって事を知らしめて、なるべく早く剣術と外出をさせて貰えるようにしよう。俺はそう決意して、夕食を完食した。