17
「運命に、絶望した!!」
手足縛られたまんま絶望〇生決めたら見張りのゴロツキに「うるせぇぞ!!」と怒鳴られますた。
モヒカン頭は完全に俺達を嘗めきっているらしく、口笛を吹きながら何処からかとってきた木の実の皮をナイフで削ぎながらむしゃむしゃと咀嚼している。
くっそ〜、俺も腹減ってきた......。
そういや朝飯食ってすぐ出てきたから、もうそろそろ昼時じゃなかろうか。腹も減るはずだ。
背を向けて木の実をかじる男の背中を恨めしく睨みながら、俺はどうにかして逃げ出す手段を考えていた。このまま黙って売られてしまっては俺の人生お先真っ暗な転落人生が始まってしまう。絶対に逃げてやるんだから!!
「おいスギナ......大丈夫か?」
さっきからめたくそ落ち込んでいるスギナは黙りと顔をうつむかせて何も喋らない。気持ち的には首まで地面に埋もれてそうな程の落ち込みようだ。顔は骸骨顔の男にフルボッコにされて腫れ上がってるせいで、終始物悲しそうな表情にも見える。
「げ、元気出せって!それより、このままだと俺達売り飛ばされるんだぞ?一緒に逃げようぜ?」
「............」
圧 倒 的 無 言 。
重い......空気が重いよ。
スギナの回りに漂う空気が、どんよりと黒い靄がかかってるかのように暗く沈んでいる。
あまりの重さに「ドンマイ!ま、切り替えてこーぜ☆」みたいな軽い感じで励ませそうにもない。しかし、だからと言ってこのまま放っておく訳にはいかない。今だけでもいい、俺一人でこの状況をひっくり返せるとは思えない。一先ずスギナには立ち直って貰らって、お互い協力しないとここから逃げ出せないだろう。
夢をぶち壊されてショックなのは心中察するが、いじけるのは後にして欲しい。
「先ずはこの縛られてんの何とかしねぇと......おいスギナ、これ口でほどけねぇか確かめてみよう」
幸い、見張りのゴロツキは俺達を完全に嘗めきって背を向けているから、派手な動きをしなければ大抵の事は気付かれない。今なら向こうは一人だし、動くならあの骸骨顔の男が人買いを連れてくる前なのだ。
しかし、スギナは俺の声には応えずピクリとも動こうとはしなかった。顔が腫れているせいで表情がよく分からないが、この一刻も争う状況にいつまでもへたりこんでいるスギナに、いい加減俺もイライラしてきた。
この野郎。状況考えて落ち込みやがれ。
「おいって!早くしないとアイツが戻ってくるだろ!!お前がやらないなら、俺がスギナの縄ほどくから後ろ向いてくれ」
どうにかしてスギナを動かさなければ。最悪、こいつだけでも逃げてくれれば助けを呼んでくれるかも知れない。
スギナの縄をほどこうと、動こうとしないスギナの後ろに回って固い結び目に歯を立てようとした時だった。
「無駄だよ」
......は?誰今の......?
聞いたことのない、低く、地を這うような暗い声色に、俺は最初その言葉を吐いたのがスギナだとは気付かなかった。
しかし、続けて放たれた声は背中を振動さけて俺に伝わって、今までのスギナからは想像できない後ろ向きな科白を放っているのに気付かされた。
「こんな事しても、助かる訳ない」
顔面を地面にくっ付けるが如くうつ向いたスギナは、この頑張り時に超ネガティブ発言をした。
ちょ、おま、普段諦めない心が〜とか言ってく癖して今そんな事言っちゃうんです?
いい加減にしやがれ。
「諦めない心が奇跡を生むんじゃねぇのかよ」
「............」
「今一番諦めちゃ駄目な時だろ。それとも何か?やっぱりお前はそのダリーって奴の真似事してただけで、本当のお前はいざって時はへたれる根性無しって事かよ」
「............っ」
ぴくりと、スギナの肩が震えた。
偉そうに説教できる人間でもないですけどね。
でもな、こんな大事な時に腐る程落ちぶれた人間でもないんでね。勿論、説教たれてスギナの根性叩き直そうなんてお恐れた考えなんぞ持ち合わせてはいない。
「......うるさいな」
「あん? 」
「お前に何が分かるんだよ」
はい来ましたー。辛い過去持ちキャラの「お前に何が分かる」から始まる自分語りタイム。
別にさー、君の事分かりたいとも思ってないんですけど......。それより早く逃げなきゃいけないんですけどお分かり?
「俺はずっと、ダリーの言葉を信じて努力して来たんだ......俺みたいな、誰にも必要とされない人間でも、頑張れば人に認めて貰えるって......」
「............」
「ダリーってさ......最初は回りからバカにされて育つんだ......魔力も身体も弱くて、頭も良くなかった......けど、皆を見返そうと努力して、シーマ国一の魔術剣士になるんだよ」
「............」
そんな王道主人公良く居るよな。俺、最弱から伸し上がる系大好きだよ。N〇RUTOとか超好き。そのダリーってやつ、火影目指す金髪碧眼少年に似てるね。
「ダリーはいつも言ってたんだ......国一番の魔術剣士になるって言って、回りの人達に笑われても、自信満々に"諦めない心が、奇跡を生む"って」
真っ直ぐ、自分の言葉は曲げねぇ!それが俺の......これ以上は止めとこ。
「そうしたら、本当にシーマ国一の魔術剣士になったんだ。かっこよかった。俺も、ダリーみたいに成れるって......そう思って......」
「..................」
「でも、やっぱり駄目なんだ......ダリーは作り物だ......俺には魔力も無いし......あんな奴等に簡単に負けるくらい......弱い」
「そだね......あ、ごめん、悪い悪い」
つい本音が......。スギナがガックリ項垂れた。自分で言ったんだからそんな落ち込まないでちょ。
はーーー、つまり、キャラに成りきって強くなってたつもりが、唐突に現実突き付けられて目が覚めちゃった、てやつ?
厨二病が治ったら黒歴史になるってのはデフォだけどぉ......。それで身悶えるのも落ち込むのも教会に戻ってからにしてくれ。今は止めろ。
「別に、魔力無くてもシーマ国一の剣士に成ればいいじゃねーか」
魔力の訓練はともかく、毎日素振りをするのは大切だと思うよ。地味な努力は惜しんで居なかったし、こいつキャラに成りきっていたとは言え、俺を見捨てずに骸骨顔の男を倒そうと立ち向かった度胸は見上げたもんだと思う。
そんな感じてスギナの良いところを探して、一応慰めっぽい事をしてみた。
「そんなの......貴族でも無い俺が成れる訳ない......」
「何で?成ればいいじゃん」
俺、めっちゃ簡単に言ってるけど剣士になる経緯とか全然知りません。この国の剣士ってのがどんな立ち位置でどのくらいのレベルなのかも知らない。要するに、ただの口先だけの慰め。
「孤児でなった奴が居ないなら、スギナが最初に成ればいいだろ」
厨二病発言は痛かったけど、仲間を守ろうと身を張るスギナの事は結構好きだった。
だからなのか、こいつがこのまま腐ってしまうのは......勿体無い、そんな気がする......。
「初期値で負けたからって挫折すんなよ。きっと伸び代あるって」
「..................初期値って、何?」
おおう、つい現代語使っちまった。だよねー知るわけないよねー。
......何て説明しよう。
「あれだ......最弱って意味......」
「......最弱......」
「そ、誰だって最初は最弱って事だ......ダリーと一緒だよ」
没頭から最強とかそれなんてワン〇ンマン。
最強主人公も好きだけど、俺は努力して成り上がる主人公の方が好きだ。
「諦めない心が、奇跡を生む......俺がそれを、証明してやるよ」
さっきはイライラしててついキツいこと言ってしまったが、俺はスギナの事はキライじゃない。それに、俺の方が年上だ。なら、年上としてこんな時くらい身体張らないでどうする。
「......ニベウス?」
今、思い付いた逃げ出す方法。
現代知識を生かした、ある手段が俺にはあった。
俺は思いっきり空気を吸い込み、背を向けたゴロツキに一言言いはなった。
「おい!!!その鳥頭!!!」
「ああ!!」
モヒカン頭はぐりんと首を後ろに向けると、目を吊り上げてどかどかと俺の目の前に駆け寄って来た。
単純なやつ。これなら俺の作戦にハマりそうだ。
「てめぇ!俺のこのいかした頭バカにしやがったな!!」
「お前の髪型なんかどうでもいい、それより、トイレにいきたい。縄ほどいでくれ」
「あ?馬鹿か。そう言って逃げるつもりだろ。てめぇらがごちゃごちゃ言ってたのは知ってんだからな」
「今は本当にトイレにいきたい。マジで頼む、うんこ漏れる」
男がドン引きした表情で一歩俺から後さずった。おい、おめーもうんこすんだろ。そんな汚い物見る目で見るんじゃねぇ。
「脱糞はしたくない......ね、お願い」
首を傾げて可愛くおねだりしてみた。
超キショイ。我ながら寒すぎる。
しかし、ニベウスの容姿のお陰で男は「うっ......」と頬を赤く染めると、一瞬思案して「仕方ねぇなぁ」と呟くと俺を洞窟の外に連れ出した。
洞窟から少し離れた茂みに連れられると、男は縄をほどくき俺の身体をいやらしい手付きで撫でる。
「あの、本当にうんこするから離れてくれる」
「......ちっ」
お楽しみでも期待したのだろうか。
短く舌打ちした男が俺から離れる。
その瞬間、俺は全身全霊の力で地面を蹴り、男の懐目掛けて飛び込んだ。
姿勢を低くして、相手の両足を掴み肩口で押し倒す。レスリングのタックル技。生前はテレビとかで見たのを見よう見まねで、体育の柔道の時間に教師の目を盗んで三代とやっていたけど、それが項を期した。
男は見事に地面に倒れ、俺は素早く起き上がると男の鳩尾磨けて渾身の蹴りを入れた。
「おごっ!!」
相手が俺を完全に嘗めていたのと、油断仕切っていたからこそ成功した不意討ち。
男は白目で気絶をした。
ざまぁwwww
急いで俺を縛っていた縄で男の手足を拘束すると、スギナのいる洞窟へ戻った。
手足が自由になって戻ってきた俺に、スギナは驚愕の表情を浮かべる。
「い、一体どうやって!?」
「ざっとこんなもんよwww」
サムズアップして勝ち誇る俺。
いやー、楽勝でしたわ。白目向いた野郎の面スギナにも見せたいもんだぜ(ゲス顔)。
「よし!いつあいつが戻ってくるか分からない。直ぐにここを離れるぞ」
スギナの縄をほどき、一刻も早く逃げ出そうと俺が立ち上がろうとした時だった。
「ニベウス!!」
スギナの悲鳴と、頭に衝撃を受けたのはほぼ同時だった。
勢いを殺せずそのまま洞窟の岩肌に身を打ち付けた俺は、状況が理解出来ず咄嗟に身動きがとれなくなってしまった。
なんだ!?何が起きた!?
「この、ガキィィィィィィ!!!!」
「ぐっ!!」
男の喉太い怒声、そして腹に伝わる衝撃。
俺が倒して手足を拘束した筈のモヒカン頭が、怒りを露にして俺の腹に股がっていた。
「ニベウス!!」
スギナが俺を助けようとモヒカン頭に掴みかかったが、直ぐに殴り飛ばされてしまう。
男は怒りで血走った目をギロリと俺に向けると、迷うことなく俺の首を締め上げた。
「嘗めやがってぇぇぇ!!てめえはここで殺してやる!!!!」
高額商品を殺してしまっては不味い、なんて考える理性はぶっ飛んでいるようだった。
容赦無い力で首を絞められ、俺の頭に一気に血がのぼった。
「―――がっ」
俺、ちゃんと縛った筈なのに......。でも、ニベウスの身体ってひ弱だから、余り強く縛られてなかったのかも。
大の男なら力ずくで外せてしまったのかもしれない。
くそ!男だからつい一番の急所外して鳩尾にしなけりゃよかった。ち〇こにしてたら絶対気絶させられたのに!!
「死ね!死ねぇ!!」
酸素を送れない俺の脳ミソが、赤信号みたいな点滅をし始めた。チカチカとした光が、ボヤける視界で眩しく光り、頭が痛くなってくる。
「うっ......ぐっ......」
苦しい、苦しい、苦しい、苦しい!!!
駄目だ、このままじゃ......
視界が次第に暗くなってくる......。
また、死ぬのか?イヤだ、俺はもう......
死―――――――――――――――――――。




