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美少年に転生したら男にモテる件について  作者: しらた抹茶
好感度マイナス
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*第三者視点*


 アリス・F・ガルディンは貴族である。

 公爵家の次女として生を受けた彼女だったが、魔力を持って誕生した為に他の貴族のお嬢様とは逸した人生を歩む事になってしまった。


 魔力を持った貴族は学校を卒業した後、教会に入るのが常識だ。


 教会は貴族との繋がりが強く、貴族であれば卒業して直ぐにそれなりの役職に就くことが出来るからだ。

 しかし、彼女はそれを拒絶した。

 アリスは自分に魔力があると知ってから、ずっと抱いていた夢があったからである。それは、幼い頃から憧れていた伝説のネフィリーナのような魔術師になって人々を救う事。


 強き者は、弱き者を守り。

 力ある者は、力なき者を助ける。


 それが彼女の信念だった。


 自分には力がある。ならば、教会に入り神に祈るよりも、力を使い人々を守りたい。

 熱い思いを胸に、彼女は両親の反対を押しきってある組織に入隊した。



 シーマ帝国国家憲兵魔術師科


 通称魔術憲兵。


 魔術師が国から攻撃的な魔術を禁止されているのは周知の事実である。しかし、魔術師が犯罪を犯さない訳ではない。その筆頭が黒魔術師である。

 黒魔術師は己の魔術を磨きあげる事しか考えておらず、人の犠牲をもいとわない連中だ。それだけでなく、目的を達成する為に他人を利用さえもする。

 そんな黒魔術師に対抗すべく作られたのが魔術憲兵だった。

 魔術の事件には、同じく魔術のスペシャリストに任せるのが早期解決に繋がるからである。過去にも黒魔術師を捕らえる際、抵抗されて魔術を使われても魔術師がいたことで対策を練る事も出来た。


 アリスにとって、正に理想の組織だった。


 両親にとって、平民出身の魔術師ばかりが揃う魔術憲兵に娘が入る事は良く思ったおらず、同時に魔術憲兵にとっても貴族のお嬢様が入隊するのは前例のない事だった。

 周りの懸念を他所に、アリスは入隊して僅か二年、二十歳で着々と手柄をたてていった。


 基本、魔術憲兵は魔術師が起こした事件のみを担当するため、普段は雑務をやらされる。しかしアリスは少しでも魔術が絡んでいそうな事件があれば、直ぐに首を突っ込み現場を掻き回したのである。

 それだけならアリスは厳罰を受けるなり首なりしたであろうが、アリスは見事に事件を解決してみせた。


 それが魔術師がらみでなかろうと、彼女は様々な事件に大いに貢献していたのである。


 よって、彼女の勝手な単独行動は厳重注意のみに留まっていた。それ以上の罰を与えられなかったのには、彼女が公爵家のお嬢様であるのも理由の一つでもあったのだが、アリスはそんな事など知るよしもなかった。


 あくまで、自分の実績の結果としか受け止めていなかった。

 そして今回の事件にも、彼女は迷う事なくその身を投じのである。




「お疲れ様ですアドロット隊長!アリス・F・ガルディン、遅ればせながら王都より馳せ参じました!!」




 フレア領で起こった孤児誘拐事件。

 4つの教会のうち一番の被害数がこのボジェの街、フレア教会である。件の事件捜査はこの街を中心に行われていた。





「魔術師科のアリス君か....君達魔術師科は確か別件を担当してたんじゃなかったのか?」


「はい!その件でしたら2日前に解決しました!そしてこの事件を耳にし駆け付けたしだいです」




 誘拐事件が起きる前、別の領地で黒魔術の被害が出たとの報告があり、魔術師科はそちらの捜査に集中していた。

 調査は無事終わったのだが、王都に戻れば話題はフレア領の事件で持ちきりだった。

 話しを聞いたアリスは、直ぐにこの事件が魔術師関係の事件と察したが、魔術師科が出動するには王印の調査許可書が必要となる。手続きには5日はかかるのだ。

 気の短い彼女が待てるはずもなく、何時ものように単独行動をして今に至る。




「...君達に出動命令は出てないはずだが...噂は本当だったようだな」




 見たところ一人で来た様子のアリスにアドロットは最近増えた白髪が更に増えた気がした。




「早速調査に入りますね!先ずはいなくなった子供たちについて聞き込みをします」




 言うや否や、アリスはアドロットが止めるのも聞かずに子供たちが遊んでいる中庭に向かって走り出した。


 八歳から十歳位の子供たちが縄跳びをして遊んでいるのに躊躇いなく入っていく。




「こんにちは!お姉さんとお話しない?」




 突然謎の女性に話しかけられた子供たちはポカンと呆ける。だが、アリスが赤い軍服に身を包んでいるのに気付くと辟易した表情を浮かべた。




「えー、また事件の事話さなきゃいけないの?何回も話したのに」


「おんなじ事言わせんなよな!早くあいつら見つけてくれよ」


「私達遊びたい」




 個々に自由な発言をする子供たちに、アリスは動じる事なく笑顔を作ると、腰に付けたポシェットから袋を取り出した。




「お姉さんとお話してくれた子には、あまーいお菓子あげるよ!」




 子供たちの目はたちまち輝いた。




「本当!?話す話す!!」


「お菓子ちょーだい!」


「わーいおやつだー!!」




 ふっ、ちょろいな。


 アリスは裏で黒い笑みを浮かべると、子供たちにフィナンシェを配っていく。子供たちはそれを嬉々としてほうばり幸せそうな笑顔を浮かべた。





「じゃあ、一つだけ聞きたいんだけど?」


「一つだけでいいの?」


「うん」




 今までたくさんの質問に答えていた子供たちは、アリスの一つだけと言う質問を不思議に思いながらも、一つなら楽でいいなと考え特に疑問には感じなかった。




「君達は、居なくなった子達が何処かに行ったのを見た?」




 それは、何度も子供たちが憲兵に聞かされていた質問だった。

 答えては同じ、知らない。である。


 しかし、今日の答えは違っていた。




「知らないおばあちゃんが連れてった」




 一人の少女の台詞に、アリスはにやりと口元を歪めた。




「はぁ!?お前今までそんな事言ってなかっただろ!?」


「何でもっと早くに言わなかったの!?」


「ご、ごめん...でも、あれ?私なんでこんな大事な事忘れてたんだろう?」




 少女は狼狽え、自分でも信じられないのか顔色も悪くなって行く。


 ーーー記憶操作魔術。


 人の記憶を操作し一部の記憶を消したり捏造する魔術で、この魔術も禁止されている魔術だ。

事前の報告書に、子供たちが消えたのは就寝してから朝方の間。つまり周りが寝静まった頃に消えたと言うことになる。いくら夜更けとはいえ、三人の子供を誘拐するならそれなりの魔術を使う筈だ。




「君、居なくなった子達とはどういう関係?」


「え?友達だよ...?お部屋も一緒で仲良しだったし」


「つまり、君だけがその子達と同じ部屋で寝てたって訳か....どんな風に連れてったの?」


「んーと、寝てたらね、おばあちゃんに起こされて、これから楽しい所に連れてってあげるって言われたの。私も行きたかったけど、君はだめって連れてってくれなかったの....」




 恐らく、子供たちに操作魔術を施し魔力のある子だけを連れ去って、この子には記憶を消しておいた、と言うことだろう。

 老人の犯行なら、寝ている子供を担ぐより自分の足で歩かせるほうが体力的にも効率がいい。





「ねぇ君、さっきの話しあのおじさんにも話してくれる?」


「うん......」




 アリスはアドロットの元へ少女を連れていき、話しの説明をするとアドロットは背をそらして驚愕した。




「何故そんな話しをいきなり思い出したんだ....?!」


「こんな事もあろうかと、子供たちにあげたフィナンシェに解術魔法をかけておいたんです!うまくいきました!!」


「君って奴は......」




 こんな無茶苦茶な捜査をして当たりを引くとは、彼女こそ幸運の女神に愛されているのかもしれない。




「次は現場検証ですね!アドロット隊長!部屋に案内して頂けますか!?」




 上司を使うなど、やはり彼女は貴族のお嬢様らしい。アドロットはため息をついて誘拐された子供たちの部屋にアリスを案内した。


 こじんまりとした子供部屋にベッドが四つ。それ以外は何も置かれていないしっそな部屋だ。




「ふーむ....」




 操作魔術とは上級魔術である。

 使う魔術が高度になるほど使う魔力量も増える。その為、魔力を使った場所には魔術の名残、魔力がその場に漂うのだ。その魔力を辿って犯人を見付けようと考えたのだが、見たところ時間がたちすぎて魔力は残ってないようだった。




「ねぇ君、連れてった、っていってたけど、どんな風に連れていったの?」


「うんとね、彼処の壁に扉が出てきて、そこから連れてっちゃったの」




 少女の説明に、アリスは思わず耳を疑った。




「......空間転移....!?」




 転移系統の魔術は最上級魔術で使える魔術師は極稀だ。

 世界にもたった二人しかいない。

 それで老人ともなれば....。

 アリスの脳裏にある人物の名前が上がった。




「......黒魔術師、トーア......」


「トーア?トーアって、黒魔術を広めたクォンの一番弟子のか?」


「はい、空間転移を使える老人なんて、彼女しか居ません」




 この事件の犯人が、あのトーアならもたもたしてはいられない。

 彼女が極めようとしている魔術は、最も禁忌とされている魔術だ。誘拐された子供たちは絶対に助からない。




「今すぐ本部にいる魔術憲兵を呼んで来ます!!」


「まて!君達にはまだ出動命令は出て無いだろ」


「そんな事を言ってる場合ですか!!相手は黒魔術師のトーアですよ!!」




 アドロットの状況を分かっていない言葉に、つい声を張り上げた。




「アリス君、君は国に属する軍人なんだぞ。こんな勝手な行動は本来赦されない事なんだ。慈善活動がしたいのなら、今すぐ憲兵を辞めなさい」




 アドロットの厳しい言葉に、アリスは唇を噛み締めた。

 本部の仲間達が、本当は自分のように駆けつけたいと思っていると知っている。それを堪えて、調査許可が降りるのを待っているのだ。だが、だからこそ、勝手が出来る自分が仲間の為に動きたいと、そう思ってしまうのである。




「....ルキウス様が戻ったら、直ぐに申請を出して貰うからそれまで待ちなさい」


「え?まだ申請していなかったんですか!?」




 アリスは信じられなかった。これ程調査が難航しているのに、まだ申請していないだなんて。




「ルキウス様は魔術憲兵をあまり良く思っていないからなぁ....いや、君を悪く言っている訳ではないんだが」




 貴族には、500年前の魔術師による不正な政治によって起きた内戦を未だに引きずり、平民出の魔術師が国の政治に関わる事を良く思っていない。なかには、魔術憲兵として国の軍に所属する事を良く思っていない貴族もいるのだ。


 ルキウス・マーシュマロウもその一人だった。




「埒があきません!!私が直接ルキウス様と交渉します!ルキウス様はどこですか!!!」




 人命が関わっているのに好き嫌いで仕事相手を選ぶとは何事か!?


 アリスは怒りさえも覚えた。




「落ち着けアリス君。ルキウス様は所要で出掛けているんだ。私も一緒に交渉するから落ち着きなさい」


「っ......分かりました....、でも、平民出の魔術師で出来てるからって、そんなに毛嫌いしなくても....」




 確かに、過去に過ちを犯したかもしれない。だが、過去に惰性の政治を行っていたのは自分達ではないのだ。


 過去より、今の自分達の結果を見て判断して欲しい。

 それは貴族の自分より、他の仲間達が強く思っている事だ。




「気持ちは察する、だがなアリス君、ルキウス様も最近息子さんが亡くなって塞ぎ混んでいるんだ。関係無い事かも知れないが、あまり責め立てるような事は言ってやるなよ」


「............何ですって?」




 アリスの頭で、カチリと一つのピースがはまった。




「アドロット隊長....ルキウス様の息子さんが、亡くなったと言いましたか?」


「あ?ああ....」


「それはいつです」


「確か....一週間位前だったか....」


「......誘拐事件が起きる直前だったのではありませんか?」


「タイミング的にはそうだな」




 領地貴族の息子の死。

 魔力持ちの子供の誘拐。

 犯人の黒魔術師トーア。

 そして、トーアが極めようとしている黒魔術は....。




「......マーシュマロウ伯爵の屋敷へ向かいます!!」




 お願いだから、間に合って欲しい。


 無駄だと思いながらも、そう願わずには居られなかった。

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