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俺は薬を飲んだ後、どうしても眠くなってベッドで昼寝をした。この身体になってから寝てばっかりな気がすんだけど、寝すぎだよな。お父様の言う通り、身体の調子が良くないのだろうか。具合悪いわけじゃないんだけど。
食って寝て、食って寝ての自堕落な生活を続けてたら間違いなくデブる。しかも飯上手いから残さず食べちゃうし....。成長期とは言えこれはダメだろ。魔法少女の為にも俺は身体を鍛える。
中学時代は科学研究部の幽霊部員だったから運動する習慣は無いけれど、昨日やった腹筋と腕立て伏せは毎日やろう。とりあえず、目標は30回出来るようになる。だ。
その夜、寝る前に腹筋腕立てをしたら腹筋が11回、腕立5回出来た。....うん、明日からランニングもしよう。
翌日、ハーグは昨日と同じ時間にやって来た。そして、俺はハーグに言われていたこと思い出す。
「では、歴史の授業をはじめますが、予習はしましたか?」
そう、俺は予習をするのをすっかり忘れてた。
やっべうっかり、テヘペロ(二回目)
いや、うっかりすぎる。昼寝したら予習の事すっかり頭から抜けてたわ。ばかすぎる。しかし、ハーグは怒る事はせず、何時もの爽やかスマイルを浮かべて「仕方ありませんね」と言って許してくれた。
「すみません....」
「いえ、ルキウス様からニベウス様は病み上がりと伺ってしましたので、昨日も昼間は寝込んでいたと聞きました。途中で体調が悪くなったら言って下さい」
「いやもう、全然!全然大丈夫なんで!」
「そうですか?」
ただ眠かっただけで身体はピンピンしてるんです。こんなやつを病人にしたら本当に病気の人にクラッチ決められる。すまんかった。
「ではまず復習からはじめましょう。シーマ国の建国についてです」
この部屋にあらかじめあった、始めに読んだ歴史の本を開く。
シーマ国とは今の俺が住む国の事だ。
シーマ国の建国は本の最初に書かれている話だ。つまり、この国の始まり、歴史のスタート地点と言う事になる。ニベウスはここは勉強していたらしく、建国に関しては俺も覚えがあった。
ざっと説明すると。
昔昔、まだシーマ国が誕生する遥か昔。大地は小さな国々に別れ領土を取り合い戦争が繰り広げられていた。
次第に大地は荒れ、人々は飢え、魔力を持つ者はひたすら道具として使われる中、一人の大魔術師が現れた。
その魔術師の名はネフィリーナ。
彼女は癒しの大魔術を使い、人々の心と身体を癒し、大地を一つに統一した。
そうして作られたのがシーマ国。
ネフィリーナは建国の母、そして魔術の神として崇められ、シーマ国の象徴ともされている。
そのネフィリーナの子孫と言われているのが現在の王家と言うわけだ。ネフィリーナのこの逸話は『ネフィリーナ伝説』として言い伝えられているらしい。
まぁ、ここまで読むと日本の天照みたいなもんかってのが感想。
ぶっちゃけ、ネフィリーナって言う人が実在した証拠はどこにも無いらしく、このネフィリーナ伝説も今から千年程前にある吟遊詩人が唄った事が起因してるっていう説もある。
要するに、神話みたいな話って事だ。
でも、シーマ国と王家は存在してるし、教会ではネフィリーナを神として大昔から崇めているそうで、国民は疑う事もなくネフィリーナの存在を信じている。
っての今のところ俺が習っている歴史だ。
今日はここから先を勉強だ。
「歴史を大分飛ばしてしまいますが、せっかく魔術の禁止について話しましたし、今日はそれに関する歴史の授業をしたいと思います」
生徒との会話と興味に合わせて授業をするのは家庭教師ならではの授業スタイルだな。俺、結構好きかも。やる気も出るし。
「現在の王家、ウィオール家の王は初代国王から魔術師を国の重大な賢者と考え、国政の高官に必ず魔術師を据えていました。貴族の中にも魔力を持った者もいましたが、貴族だけに魔力持ちが産まれる訳ではありません。人口の比率から考えても、圧倒的に平民から魔術師が産まれます。ですので、自然と平民が官僚に成る事になります」
そもそも、王家は大魔術師の子孫だからな。魔術師を蔑ろにはできないだろ。
「ですが、今から500年前に王位に就いた第19第国王のスベルディア王は、これまでの王とは全く違う思想を持っていました。スベルディア王は魔術師に対して非常に排他的で、魔力を持たない者こそが真実の力を得る事が出来ると説き、高官に就いていた魔術師を次々に排除したのてす」
自分のご先祖様も魔術師なのに、自分のしっぽを噛む蛇みたいな事してんな。
「と、言うのは建前で、当時の官僚のほとんどが平民になってしまっているのを問題視していたのが真実です。官僚の中には貴族もいましたが、権威はほぼ魔術師が持っていましたからね」
「でも、それで良い政治が出来るならそれで良いんじゃないですか?」
「ええ、良い政治とやらが出来ていればスベルディア王も問題視しなかったでしょう」
え?違う?
魔術師って賢者なんじゃなかったのかよ。
「残念ながら、当時の官僚になる魔術師はより強大な魔力を内包している事が条件だったんです。道徳心や倫理観を待ち合わせているかは二の次で、ただ巨大な魔術を使える事が重要視されていたんです」
「....政治の勉強とかしてない人がいきなりなるんですか?」
「無学な者を官僚に据える訳にはいきませんから、教育は施してはいました。ですが先程も話した通り、道徳心まで教育をした訳ではなかったんです」
すると...?
俺の脳内に、私腹を肥やす悪代官が出てきた。
『お主もわるよのぉ...』
『お代官様ほどでわ....』
クックックッ!!!
「官僚の中には然る教育を受けた貴族もいましたが、ほとんどの権威を持っていたのは魔術師でした。結果、国政は腐敗し、魔力を持たない人間は魔術師に逆らえなくなっていったのです。スベルディア王はそれを打破しようと、強引に官僚に就いていた魔術師を廃除し、国政に関係の無い魔術師までも問答無用で捕らえました。これを魔術師改革といいます」
魔術師を官僚に就かせるのは良いとしても、ちゃんとした人を選定しなかったのは失敗だよな。そりゃ国も可笑しくなるよ。
でもスベルディア王も関係ない魔術師を捕らえちゃうとか、やる過ぎじゃね?
「当時の魔術師は、自分達は魔力を持って産まれたから、かの神、ネフィリーナに選ばれた人間だと謳って一般の平民を虐げていた者も少なくありませんでした。魔術師の官僚と内通し、貴族然とした生活をしていた者もいます。それらを次々と捕らえていったのですが、当然反発もされました。魔術師の自由を取り戻そうとする魔術軍と、王家の権威を取り戻そうとするシーマ国軍に別れ、5年にも及ぶ内戦が勃発しました。天栄563年、セリアスの戦いといいます。ごくろーさんと覚えましょう」
この世界も年号覚える時語呂使うんだな。
ごくろーさん。覚えやすいです。つーか5年ってなげぇなおい。食料とか大丈夫だったん?
「初めは優勢だった魔術軍でしたが、魔術を使えるだけで戦略など持ち合わせていなかった魔術軍は次第に劣勢に追い込まれました。そんな折、一人の魔術師が現れ内戦を終わらせたのですが、さて、ニベウス様に問題です。その魔術師はどうやって内戦を終わらせたでしょうか?」
「うぇ!?」
んだよいきなり問題だすな!
答えたらひ〇しくんくれるの?
うーん、内戦を終わらせたって事は、その人は凄い魔術師だったって事だよな....?
「めちゃ強い魔術使って国軍を降伏させた」
「んー、確かにその魔術師は強力な魔術で国軍を圧倒しましたが、降伏はさせていません」
んー?
「正解は、国王に和平を申し込んだのです。王家にとって優位な条件を飲むと進言し、見事に内戦を納めました」
どんな強大な魔術を使えようと、そこに埋れる犠牲は増える一方。ならば、なるべく犠牲を少なくする方をその魔術師は選んだ。
「その条件と言うのが、攻撃になりうる魔術の禁止です。国軍は魔術軍の攻撃がよほどトラウマになったのでしょうね。魔術師から戦力を奪う事を第一の条件としました。その代わり、王家及び貴族は魔術師や魔力を持つ者に危害は加えないと約束をしたのです。そしてスベルディア王以降、魔術師が官僚に就いた事はありません」
はー、なんつーか、最初に適当な政治をしたせいで後の奴が尻拭いしなきゃいけなかったって事だろこれ。
スべルディア王マジ乙。
「で、その内戦を終わらせた魔術師はどうなったんですか?」
つまり、その魔術師って救世主って事だよな。
「それが、それ以降どうなったのか記録に残っていないんですよ。年若い少年だったと言う記録はあるんですが、それ以外はどれも信憑性にかけまして....」
謎の魔術師少年が国を救う。
小説みたいな話だな。もしその魔術師少年が和平じゃなくて内戦を続ける事を選んでいたら、この国はどうなってたんだろう。
「これが、王家が最初に出した魔術師への禁止です。質問はありますか?」
「禁止事項は三つですよね?歴史ではその一つだけですけど、後の二つはどうやって禁止になったんですか?」
「単純に、時代の移り変わりと人の犠牲を無くす為です。魔道具を造る魔技術師はここ100年前に誕生した職人ですから、第一の条件を破らせない為に作られたのです。黒魔術は、人命や人の尊厳を奪う危険な術ですので、一般人と魔術師のお互いの為に作られました」
なるほろ。
力ある者はそれを制限する術を身に付けなければならない。
って、どっかのアニメで言ってた気がするけど、つまりそう言う事でおk?
そんな歴史があったのか。なら仕方ない。俺は魔術師のドンパチを観るのを諦めた。
勉強が終わって昼飯を食った後、俺は予定通りランニングをする事にした。
つーか聞いて。あのクッッッッソ苦い薬また出てきたんだけど。飲むのは一回だけと、いつから錯覚していた....?みたいな顔したお母様に身体が震えたね。頑張って飲んだけど何回飲めばいいの。
まぁそれは置いといて、今はランニングだ。筋トレして俺は気付いた。ニベウスには圧倒的に体力がない。星1のレベル1よりない。おれはせめて星3になるべく、ランニングをする為に庭に出ていた。お父様に屋敷で大人しくしていろと言われていたけど、庭も屋敷の敷地内だからセフセフ!
ストレッチをして、庭を軽く一周する。
庭の広さは体育館位の広さだから丁度いいな。
走ってたら庭師のおじさんに凄い目で見られた。
一周目は無事走りきったが、二週目半くらいで辛くなってくる。くっそ、俺は負けねぇ....。絶対剣士になって魔法少女とイチャつくんだ。この際魔法少女じゃなくていい。イチャつければ誰だっていい。
気合いを入れて走りだす。少しペースは落として、なるべくゆっくり。無理は禁物だしな。視界の隅でおじさんが仕事の手を止めて俺をガン見してるけど無視。おじさん仕事しろ。やっと2周走りきるかと思った時だった。
「ニベウス!!!」
突然、お母様の声がした。
振り向くと、信じられないと言わんばかりの表情を浮かべたお母様が俺に向かって走ってくる所だった。
「一体何をしているの!?すぐに屋敷に戻りなさい!」
「お母様、俺は強くなる為に体力を」
付けたいんです....と、言おうとした所で、俺は異様な眠気に襲われた。その眠気に抗えず、その場に倒れる。
「ニベウス!!!」
遠くでお母様の声が聞こえた気がした。
パ〇ラッシュ....僕、もう....疲れたよ....。




