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美少年に転生したら男にモテる件について  作者: しらた抹茶
好感度マイナス
10/79

9

 歴史や公民のテストはハーグの予想通りの点数だったらしく、特に何も言われる事なく授業が始まった。


 はっきり言って、俺は勉強が好きじゃない。

学校ではちゃんと授業は聞いてたけど、家に帰ってまで予習復習なんて物はやらなかったし、テストの一週間前になってやっと教科書をいやいや開いてた位だ。だから高校受験なんて地獄だった。親にせっつかれて夏期講習とかにも行って、分からない所は先生に聞いて、真面目に勉強に励んだ一年間だった。


 俺はもう二度と受験なんかしねぇ....この受験が終わったら、俺、遊びまくるんだ....。


 そして努力して合格した途端トラックに轢かれて死んだわけで。


 頑張った見返りがこれって酷くない?まぁ、勉強は大事ってのは分かってるからやるけど、そんな努力して高校生になる予定だった俺にとって小学生レベルの算数やらなきゃいけないってのは想像以上に苦痛だった。小数点とか2乗とかグラフとか、とっくの昔にやったんですけど。

 初めはちゃんと分からないふりをしてたけど、段々めんどくさくなってどんどん問題を解いていったら、ハーグに当然怪しまれた。




「ニベウス様、本当に勉強をサボってたんですよね?ならどうして方程式まで出来るんですか?」


「分かりません、記憶喪失なんで」




 そんな感じで誤魔化していたら、ハーグは突っ込んだら負けかと思ったのか、それ以上は聞いて来なかった。


 授業の後は約束通り魔道具に関しての質問に答えて貰う。

 俺が知りたいのはただ一つ、これだけ便利な魔道具が作られているなら、一般人でも魔法が使える魔道具があるんじゃないかと言う事だ。


 そう、俺は魔法を使うのをまだ諦めていなかった。




「魔術が使えない人でも、魔術を使えるようになる魔道具はありますか!?」


「そんなのあるわけないでしょう」




 ピシャリと否定されて思わず言葉を失った。

 バカな....ライトを作る技術があるのに魔術を繰り出す道具がないだと?




「作れない訳ではないんですよ。ただ、国の法律で魔術自体を構築する魔道具等は製造を禁止されているんです」


「えー....ファイヤー.・ボールとか作ってみたいのに」




 俺がそうぼやくと、ハーグが可笑しそうに笑った。




「ニベウス様、魔術師が攻撃になりうる魔術を禁じられてるのに、攻撃魔道具なんて尚更作れる訳がありませんよ」


「...国は、魔術師が使う魔術にも制限をかけているんですか?」




 それじゃあパーティー組んだ魔術師が治癒魔法しか使えないって事じゃね?

 なにそれすっげぇ不便。いや、ヒーラーは大事だけどね。マー〇ンマジ使えるってゲームしながら三代が言ってたの俺覚えてるから。




「制限ではなく禁止です。大きく三つの魔術が禁止されているのですが、一つは攻撃になりうる魔術の使用、これは歴史が深く関わっているので、明日の授業でやりましょうか。もう一つが魔術展開を可能とする魔道具の製造です。これは国政の都合が絡んでいますね。平民が手軽に魔術を使えるようになってしまうと、魔術師の需要や王家の威厳が減ると言った詰まらない....失敬、合理的な理由があります」




 今詰まらないって言った。

 ハーグは爽やかなんちゃってイケメンスマイルで誤魔化す。いや、誤魔化せてないから。バッチリ聞こえちゃってるから。




「そして最後の一つが、黒魔術の使用です」


「黒魔術?」




 RPGとかに出てくるあれ?

 俺の脳内で魔女が鍋で怪しいスープを煮込んでいる映像が流れる。




「黒魔術は人の倫理的観念を崩しかねない魔術の事で、簡単に言えば、生贄を使った魔術などを指しています。他にも、人の意思を奪って操る魔術等も当てはまりますね」




 なるほど。でも、これじゃあせっかく異世界に来たのに派手な魔術対決とか観ることは出来ないのか。

 なんか、異世界ライフの楽しみを次々と奪われている気がする。




「他に何か質問はありませんか?」


「結局魔術使えないってオチなら特に無いです」




 これにはハーグも流石に苦笑した。


 あーあ、開拓も出来ない、チートもない、挙げ句に魔術師自体が戦闘出来ない。

 詰まらん。俺、何の為にここに来たんだろ。




「でしたら、今日の授業はここまで。また明日、同じ時間に来ますので予習をしっかりやっておいて下さいね」




 ハーグはしっかり釘を刺す事も忘れず帰った。


 でも、魔道具に関して色々教えて貰えて良かったかも。この世界にとっては常識なんだろうしな。そういや、ハーグの説明で何か引っかかったんだけど、なんだっけ....?

 なーーーーーーんか引っかかる。

 なーーーーーーんか忘れてる気がする。


 ......................。



 ま、いっか。

 思い出せないって事は大した事じゃねぇってこったろ。


 はーー、小学生レベルの算数しかしなかったけど疲れた。精神的に疲れた。

 そのせいなのか、少し眠気が....。

 むにゃむにゃと目を擦ると、誰かが俺の部屋の扉をノックした。




「ニベウス様、昼食の支度が整いました」




 もうそんな時間か....。

 午前中みっちり勉強してたって訳ね。そう自覚すると腹も空いてきた...。


 部屋から出ると、何時ものおばさんメイドではなく、俺と年頃が同じ女の子が立っていた。


 うおおおっ!赤毛御下げのメイド!!しかも可愛い!!

 話しかけたい。会話したい。そうだ、俺やりたい事リストにメイドと仲良くなりたいって書いてたんだった。




「あ、あの」




 お辞儀をして立ち去るメイドを呼び止めると、メイドは大袈裟に肩を揺らして恐る恐る振り向いた。




「な、何でしょうか......」


「えーっと....」




 表情は強ばって声も震えてる。

 ヤバイな。嫌ってるってより、怖がってるよな、これ。

 怖くない、怖くない....そう、怖くないよ。俺はナウ〇カになりきってキツネリス....御下げメイドにハーグ先生の爽やか笑顔を習って話しかけた。




「君、名前は何て言うの?」




 ナンパかよ。

 ここに来て女子との会話不足が浮き彫りに....。


 童貞って言うな。




「....ひっ!!」




 なるべく優しく話しかけたつもりなのに、メイドはますます怯えた。

 ハーグ先生直伝の爽やかスマイルが通用していない!?




「えっと....」


「い、いゃああ!!ごめんなさい!ごめんなさい!!!」




 一歩近寄ったら何故かあやまりながら走り去って行った....。


 え....?今の何......?


 精神的大ダメージを負った俺がふらふらと食堂に向かうと、お母様が席に座っていた。今日はお父様はいないらしい。

 元気の無い俺をお母様が心配していたが、女の子に拒絶されて落ち込んでる何て言えないから、久しぶりの勉強で少し疲れたと言っておいた。


 メイドのあの反応、気になるな....。

 ニベウスがあの子に何か酷い事でもしたのか....?あの怯えようはどう考えても可笑しい。

 ニベウス....お前は一体何をしたんだ。


 悶々と考えているうちに料理が運ばれ食事を始める。うん。鶏肉のソテーうまし。




「ねぇニベウス....そんなに勉強量が辛いなら、ハーグと相談して時間を減らして貰いましょうか?」


「いえ、大丈夫です」




 お母様が過保護を発揮しだした。

 おにゃのこにふられて落ち込んでるだけです。サーセン。


 そんなこんなで食事を終えると、目の前にお茶のような液体の入ったカップが置かれた。




「何ですか、これ」




 湯気を発てた液体は黒に近い茶色で、何だか不味そう....。




「昨日、ルキウスが言ってた薬よ。少し苦いだろうけど、これを飲めば良くなるはずだから」




 ま、まじかー....


 チラリとお母様を見るとニコニコと俺を観ている。

 飲むまで部屋に返す気はないようだ。




「......ぐっ」




 どうやら、逃げ場は無いようだ。

しかたなくお茶を飲むと、予想以上の苦味につい吹き出しそうになった。


 に、にっげぇ〜〜〜......


 良薬口に苦しってか、でもこれは苦すぎる....。

 本当は今すぐ止めたいのにお母様の無言の圧力に逆らえず、俺は何とか薬を飲み干した。


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